Act.3-2__Engage
受験前ということもあり、更新を一時中断させていただきます。代わりといっては変ですが書き溜めしていた別小説を投稿しました。よろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです。もしかすると息抜きにこちらを更新、または過去の話を編集するかもしれません。稚拙な文章で構成された小説ですがこれからもよろしくお願いします。 桜咲。
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修正・加筆作業はこれにて終了です。武装偵察隊が強襲偵察隊に。F-27JがF-3に変更になりました。
ハリアント海
ミサイル護衛艦『やまと』
時は少し遡る。リアス大陸の南に広がる大海原、ハリアント海を悠々と航行する艦艇の群れがあった。その正体は米海軍が保有する原子力空母『ジョージ・ワシントン』を中心に置いて形成された空母打撃群だ。艦と艦との間を一キロ程度開け、威風堂々と航行する様子は思わず唾を飲んでしまうような壮大な光景だった。
日本の海兵隊が保有する最新鋭のミサイル護衛艦『やまと』が先頭を勤め、海上自衛軍が保有する、こんごう型ミサイル護衛艦『こんごう』や同型のミサイル護衛艦『きりしま』が正面を固めている。その後ろは米海軍の第七艦隊に所属するアーレイバーク級ミサイル護衛艦やその他数隻のミサイル護衛艦や汎用護衛艦が陣形を組んで守りを固めていた。
やまと型ミサイル護衛艦『やまと』は憲法改正後、日本初の核ミサイル迎撃を目的とした目的で呉で建造された護衛艦である。対核ミサイルを想定して造られているため、一隻の値段は約二千億と他のミサイル護衛艦よりも値が高く、同型艦は未だ建造されていない。そんな未知の力を秘めた本艦を操るべく召集されたのは元海上自衛軍の自衛官で、あたご型ミサイル護衛艦『あたご』の前艦長でもある篠ノ之薫少将だった。
祖父や曾祖父、さらには父親までもが軍に所属していたという経歴を持つ彼は先祖代々の意思を継ぐかのように軍に入隊。瞬く間に高い地位に上り詰め、指揮官としての高い能力を発揮した。その後海兵隊が設立すると同時に海上自衛軍から引き抜かれ、この艦の艦長に任命された。そして海兵隊のお披露目とも言える海外派遣の現場に向かう際に今回の出来事に巻き込まれてしまう。
戦闘指揮所の司令官専用の椅子に腰掛けた篠ノ之少将は、レーダーディスプレイを真剣な眼差しで眺めている相葉七海大尉の名を呼んだ。真剣な眼差しでレーダーディスプレイを見つめていた相葉大尉は不満そうな表情で振り返るなり溜息を吐いた。
「お茶は自分で汲んでください。面倒事は嫌いです」
「これは手厳しい。お手上げだ。この老体には辛いのだがな」
「どの口が言うか」
愛想を尽かしたのか、相葉大尉はそっぽを向くなり視線をレーダーディスプレイに戻した。篠ノ之少将は相変わらずの彼女の言葉に苦笑を浮かべ、他の隊員は申し訳なさげに小さく笑った。このやり取りもお決まりのような感じになってきている。篠ノ之少将は白い制帽の鍔を目元まで引き下げる。近くの三曹が艦長用のコップにコーヒーを注いでいた。
「どうぞ」
「すまないな」
熱々のコーヒーを啜り、篠ノ之少将は目を細めた。昨日、アタナシウス帝国にて活動中のレジスタンスが秘密裏にスメラギ皇国を訪れ、幾つかの条件と引き替えにとある情報を提供した。その内容というのもアタナシウス帝国が大陸の南に位置するミスリット国に侵攻し、あわよくばミスリット国の民を兵士として最前線に送るという計画を記した機密文書であった。
その情報を元に海兵隊は無人偵察機をミスリット国周辺に飛ばして監視を続け、そして今から約二時間前、無人偵察機が南進する帝国の艦隊を捕捉した。スメラギ皇国の重役と日米海兵隊の幹部による会議が行われた。その結果、全員一致でミスリット国の防衛が決まった。これを受け、米海兵隊のクリス・ハーレイ中将は奪還したマリンフォート港に停泊していた彼らにミスリット国防衛の旨を伝えた。
この情報はクロスベル基地にも伝わっており、既に偵察ポッドを換装したF-3戦闘機が二機、空対地ミサイルを腹に抱えたF/A-15J戦闘機二機と共にクロスベル基地の空軍エリアから飛び立ち、上空からのライブ映像を全艦に中継していた。
そして現在。
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ミスリット国上空
日本国海兵隊特殊作戦航空隊
結城凛中尉
ミサイル護衛艦『やまと』がどこからともなく飛来した一発の巡航ミサイルを撃破し、つかの間の沈黙が訪れた。上空一万フィートからの偵察を終えた結城凛中尉はF-3戦闘機の胴体下のハードポイントに固定した偵察ポッドと予備の燃料タンクを海に投棄した。同時に火器管制装置を解除し、並列隊形で飛行するウィングマンの時波伊織准尉にサムアップを掲げてみせた。
翼を翻して下界に舞い降りた八咫烏は瞬時に敵を捉えた。海上を埋め尽くす敵艦隊があれよあれよと主砲を放つがミスリット国に着弾した様子は見受けられない。空母より発艦したF/A-18Eスーパーホーネットがたんまりと抱えた対艦ミサイルを放ち、弾薬庫に引火したのか大爆発を起こす敵艦。しかし同情の余地はない。優雅に飛んではミスリット国に侵入を試みる竜騎兵を四角のボックスが囲み、ロックオンを知らせる電子音が耳元で鳴った。
戦争は無慈悲だ。容赦の欠片もない。ミサイルレリーズボタンを押し込めば胴体下の兵装庫が開き、トラピーズが積み込まれたAAM-3空対空誘導弾を宙に放り出した。途端にミサイルのブースターが点火し、シーカーに送信されたデータに従いミサイルが竜騎兵に向かって突進した。音速を軽々と超えるミサイルは瞬く間に竜騎兵との距離を縮め、そして、近接信管を起爆させた。
「敵機撃墜!」
『ナイス、リーン』
見るも無惨な姿に成り果てたであろう敵のことを気にする素振りを見せず、凛は機体をロールさせ、籠を吊した竜を護衛する隊形で飛行する敵部隊に狙いを定めた。
「纏めて墜ちなさい……」
幾度も愛すべき弟を自分から奪おうとした帝国兵を許すことは到底叶わない相談だ。冷酷な視線をこれから死にゆく彼らに送る。HMDバイザーに映り込む六匹の竜に赤い十字が交差する。それを合図に凛は新型ミサイルを実戦で初めて使用した。外観に特殊な様子が見られぬミサイルは他の物と同様にブースターを点火させて目標に追随する。しかし突如、弾頭を覆う筒とブースターを分離させたミサイルは、その下から無数の小型弾頭を発現させ、それらはブースターを点火させると事前に送信された情報を元に飛翔した。
クロスベル基地で開発され、AAM-00スカイクラスターと命名されたミサイルは、多弾頭ミサイルを原型に設計された物であり、空飛ぶクラスター爆弾と言うのが手っ取り早いだろう。小型弾頭には近接信管が装備されており、目標に有効打を与えられる位置に到達すると自動で起爆する仕組みとなっている。加えて一度に多数の目標を迎撃可能という点において、空戦の歴史を変える代物ではないかと凛は一人思うのだった。
「迎撃目標完全撃破!」
『同じく!』
空で捌き切れない竜が護衛艦に攻撃を仕掛けようと試みる。しかし船首に搭載された127mm速射砲が、20mm近接迎撃機関砲が次々と撃ち落としていく。それだけでも十分な脅威となりうるが、ミサイル護衛艦はミサイル護衛艦という名に恥じぬ働きをしてみせた。突如としてVLSハッチ付近が煙に覆われ、解放されたBGM-2対艦ミサイルが慣性誘導装置に従った後にブースターを切り離し、翼を展開して地形照合誘導装置にて高度五十メートル以下の低空巡行から敵艦を喰い破った。
『奴さんに尻を取られた! 追い払ってくれ!』
「リーン了解!」
視線を巡らせ、無線で助けを求めてきた味方の位置を把握した凛は、左傾斜を掛けたままラダーを踏み込み操縦桿を引いてループ。すぐさま竜騎兵の後方を占位した。火器管制を機関砲に切り替え、無線に向かって指示を出す。
「三秒後に左回避急旋回だ! 機関砲で仕留める!」
『ラージャ! カウントダウン……三、二、一、レフトブレイク・ナウッ!』
「機関砲掃射!」
蜂が機敏な動きで視界外に消え、追随しようと試みる竜騎兵にガンレティクルを重ねた凛はトリガーを押し込んだ。GAU-2A 25mm機関砲が唸りを上げ、数多もの機関砲弾が竜騎兵を跡形なく片付けた。続けてミサイルを放ち、凛はこの戦の勝利を確信した。
『サンキュー、リーン』
「どういたしまして」
その予想は間もなく現実になろうとしていた。ミサイルと機関砲、燃料共に十分な余裕が残っている。味方を引き連れて混戦を極めていた戦場の空を舞い踊り、彼らを導くように先陣を切る。そして。
『上空のレーダーに敵影なし。殲滅完了です』
「よろしい。レイヴリーダーより各機へ。我々は勝利した! 全機、RTB!」
『ラジャー! RTB!』
歓声が上がる中で『ジョージ・ワシントン』に着艦許可を申請し、受諾されたのを確認した凛は甲板に滑り込むように着陸した。フックによって強制的に減速させられる感覚も慣れたものだ。駐機スペースまで機体を運び、掛けられた梯子を降りた凛は見渡す限りに広がる広大な海を見て、思わず呟いた。
「綺麗だ……」
ただ純粋に、そう感じた。