Act.1__Dominator and Enforcer
ミスリット国
首都ギルティナロッソ
2107年4月1日『エイプリルフール』
絃罪執行官
レイ・ハーフメルナ
荒れ狂う海に揉まれ、マリンフォート港からサードルナビーチに流れ着いた結城奏が記憶を失い、レイ・ハーフメルナと名付けられてから二週間あまりが経過し、戦紅の歌姫の異名を持つリアス・ハーフメルナに初めての眷属が誕生したことは瞬く間にミスリット国全土に知れ渡り、日々人々の間で様々な噂が飛び交っていた。
しかし飛び交う噂に恐怖的な、悪い噂はなく、むしろその逆の噂が飛び交っている。眷属の性別、年齢、容姿をはじめとする人物像やどのような魔法を使うのかといった内容が主だ。これが海を隔てた大陸であったならば、誰もが身を震わせたに違いない。
彼らが恐怖しない理由。それは彼らが大昔に人々から迫害された種族であったり、罪を犯して島流しにされた人間であり、そんな彼らを何の見返りもなく受け入れ、なおかつ永住する場所を与えてくれたのがリアスだったからだ。それからというもの、彼らは吸血鬼の真祖たるリアスを神格化し、信仰の対象として奉り、現在も崇拝の対象としている。
「なあ、レイ。今日は何をするんだ?」
午前六時。ミスリット国の首都ギルティナロッソの中でも一際活気があるシーフル市場を散策していたリアスはハリアント海から吹き付ける潮風によって靡く長髪を面倒そうに押さえながら、隣であくびを洩らすレイに問いかけた。寝ているところを起こされ、若干不機嫌だ。
「そうだな……とりあえずは食材の調達だな。それからはその時に決める」
顎に手を添えて今後の予定を考える素振りを見せるレイ。しかし特にこれといって思いつかず、適当に誤魔化した。そんなレイに対してリアスは呆れたように首を振った。
「計画性の皆無な典型的なダメ男だな、貴様は」
「五月蝿い、黙れ。買い物をしても時間は有り余るんだ。それに無計画で出歩いた時に珍しいものに出逢えたらその日はラッキーなんだよ」
適当に思い浮かんだ単語を咄嗟に並べて対抗する。
「ふふっ、そういうことにしておいてやる」
「はいはい、それはどうも……」
そんな曖昧な言葉は即席のものであるとバレているようで。レイは溜息を吐き、面倒くさそうに明後日の方角を向いた。
ミスリット国の商店街や市場は毎日活気に満ち溢れている。種族は違えど、大昔から共存している仲間。さらにこの国周辺の海では様々な種類の海産物が採れ、季節によっても採れるものが変化する。山々には野生の動物も多く生息しており、年中様々な食材が店頭に並べられている。衛生管理も徹底されているため食中毒や感染症の心配は限りなく零に近い。
医療技術もそれなりに発達しており、大陸までとはいかないが生活を送る分には何の不便もなく充実した暮らしが送れる。活気溢れる朝の市場で大量の食材を購入し、空間の裂け目に放り込んだ二人はギルティナロッソで人気の少し洒落た喫茶店に足を運んだ。
「いらっしゃいませ、ようこそハレルヤへ!」
扉を潜るなり現れたのは喫茶店『ハレルヤ』のメイド。二人も何度か訪れたことがあるため彼女──ミシェル・アルフォンテの名前は既に記憶している。メイド服を身に纏い、接客する彼女は人間ではない。彼女の種族はエルフと呼ばれており、何と言ってもツンっと尖った長い耳が特徴的だ。
「おはよう、ミシェル」
「おはようございます、アイリス様」
アイリス。それはリアスが絃罪島から外へ出掛ける際に使用する偽名だ。真祖リアス・ハーフメルナはミスリット国の民の崇拝する対象であるため、ほいほいと表に姿を現すわけにはいかない。それゆえに現在はアイリス・シュトラウスという偽名を使用している。腰まで伸びる金色の長髪は銀色に変化させ、瞳はアメジストを連想させる透き通った紫に変えている。
「おはよう、ミシェル。調子はどうだ?」
「おはようございます、レイ様。おかげさまでどうにかやっています!」
眷属として名の知られていないレイは偽名を利用する必要性がなく、ただ一つハーフメルナの代わりにシュトラウスの名字を使用している。場合によっては眷属もまた崇拝の対象となりかねない。
「それではお席へ御案内させて頂きますね」
ミシェルに案内された二人は向かい合うように座るとモーニングとセットのドリンクを注文した。
「ここのところ外出する度に姿を変えるのが面倒になってきたよ。いっそのことバラしてしまおうか……」
「お前はバカか。下手なことをしたらパニックになりかねん。というより、外に出られなくなるぞ?」
「ふむ……それは困るな。仕方ない、我慢するか」
絃罪島にも娯楽施設等は存在する。しかし人々は絃罪島を神聖な島として奉るだけで入ってはこない。リアスとしては昔のように人々と交流することを望んでいるが信仰が全土に広がってしまった今、なかなかに難しくなってしまった。
「お待たせ致しました。モーニングがお二つと、アイリス様がキャラメルラテ。レイ様はハレルヤコーヒー。御注文は以上でよろしかったでしょうか?」
「ああ。ありがとうミシェル」
モーニングのトーストやサラダを食しつつ、レイは棚から引っ張ってきた新聞に目を通した。ミスリット新聞。由来は言わずとも解るだろう。
「帝国の軍備拡張か。何とも言えないな」
新聞の一面に掲載されているアタナシウス帝国の軍備拡張の実態が幾つかの写真と共に掲載されていた。恐らくは現地に潜入しているミスリット新聞社の記者が使役する使い魔を使ったのだろう。
「写真を見る限りどれも東側の武器だな……っ!?」
「どうした、頭痛でもするのか?」
「……いや、大丈夫だ。すまない」
写真に写る武器の名をレイは知っていた。AK-74突撃銃、PKPペチェネグ軽機関銃、RPG-7対戦車榴弾発射器。しかし何故自分が武器の名を知っているのか、失った記憶を探ろうと試みれば謎の頭痛が襲いかかってきた。
「今のは一体……俺は誰だ?」
誰にも心配を悟られないように呟いた疑問。大丈夫とは言っても様子のおかしいレイを心配そうに見つめるリアス。そんなリアスの視線にレイが気づくはずもなく、ただ今の出来事に対しての驚きを隠せないままでいた。
「きゃあっ!?」
その時、店内に一つの悲鳴が上がった。頭を悩ませていたレイは考え事を中断させ、何事かと周囲を見渡した。手の中にはいつの間にか取り出していたSIG自動拳銃が握られていた。
「やっ、やめてくださいお客様!」
悲鳴を上げたのはミシェル。その原因となっているのは五人の男。しかしそれよりもレイの視線を引き寄せたのは男たちの肩から掛けられた木と鉄で造られた長い筒だ。たった今読んだばかりの新聞に掲載されていた写真に写っていた武器と同じ物だった。
「亜人種如きが人間様に反抗すんじゃねえよ!」
「いやっ、やめて!」
「かなりの上玉だなぁ。しかもエルフときた!」
察するに男は帝国兵。舌打ちをした後、店内の気配を探ったレイはSIG拳銃をホルスターに仕舞うと一息吐いた。ミシェルを拘束している男が二人。入り口と中央、奥のフロアに一人ずつ。
「お前は俺様がたっぷりと可愛がってやるよ!」
「テメェッ、ぶっ殺してやるッ!」
「馬鹿野郎、動くなッ!」
抵抗を続けるミシェルの瞳から一筋の涙が頬を伝い、丁寧に清掃されたフロアに落下した。それを見た帝国兵は頬を歪に吊り上げ、耳障りな笑い声を上げた。横暴な帝国兵の態度に堪えかねた男性が肩を震わせ、その筋骨隆々な体型を活かしたタックルを見舞おうと立ち上がった。そしてレイの叫びも虚しく、乾いた銃声が店内に反響したのは同時だった。
「ひっ、やめてっ、いやぁっ!?」
5.45×39mm弾は一寸の狂いもなく男性の心臓を撃ち抜き、男性は数秒痙攣を起こしてこの世を去った。店内で死人が出たことによりあちこちから悲鳴が上がる。
「面倒だな……」
これ以上被害を出さない最善の策は何か。ミシェルを差し出すか、それとも交渉をするか。
「いや、そんなものは無意味だ」
思わず、心の中の声が口に出てしまう。
「ま、待ってくれ! あ、あんたたちは何が目的なんだ! 欲しいものがあるんだったら幾らでもやる。だから、ここは平和的に解決しよう!」
「交渉のつもりか、亜人種如きが人間様と」
平和的解決。その言葉に思わず反吐が出そうな錯覚に陥る。
「何か言いたそうだな、レイ」
ただ静かに温かいキャラメルラテを飲みながら、ことの成り行きを見守り続けるリアスは、レイの表情に何かを見つけたのか問いかける。
「ああ、あの男は亜人種をゴミのように認識している。そんな人間が交渉に応じるか、否、応じはしないだろう。仮に応じたとしても殺されるのがオチだ」
「だろうな。私もそう思う」
人間はいつの時代でもそうだ。自らに都合が良い場合には甘い言葉を囁いて相手を思うがままに利用し、都合が悪くなれば突拍子もなく唐突に裏切る。
「相手を疑え、時に利用しろ。例えそれが身内であろうと親友であろうとな」
「さて、レイ。これから貴様は何をする?」
意味深にそう呟き、頬を緩ませる。その様子は何かを試すかのような仕草。
「リアス、俺に利用されろ」
途端に、レイの瞳が黒から紅へと変貌した。
「利用されろ、か。なかなか良い響きだ。案外、私はマゾヒストなのかもしれないな」
普段のクールな様子とは異なり、僅かに声を震わせて頬を紅潮させたリアスは楽しそうにそう言い、レイはその仕草に思わず持てるだけの実力を全力で行使してでも彼女を支配したいという欲求に襲われた。
「支配してやろうか?」
「ハードなプレイは初めてだから楽しみだ。だがしかし、支配者はこの私だ。今は執行官として貴様の責務を果たせ。まあ、気乗りしたその時はレイに支配されてみよう」
「了解」
二人は周りに悟られないように小さく笑うと行動を開始した。レイはリアスの腕を掴むと無理矢理椅子から立たせる。椅子と床が擦れ、その際に生じた音に反応した帝国兵がAKアサルトライフルの銃口を二人に向け、脅しの常套句を叫んだ。
「動くんじゃねえ、ぶっ殺すぞ!」
「まあ待て、少し落ち着けよ。なあ、アンタらにこの女をやるから俺のことを見逃してくれないか? ああ、もちろんそのメイドもやる。アンタらは溜まりに溜まったそれをぶちまけるアレが欲しいんだろう? だったら悪い相談じゃないはずだ、違うか?」
人間の三大欲求。食欲、睡眠欲、そして性欲。帝国兵の言動から察するに、この性欲を持て余していると感じたレイは交渉を持ちかける。
「はっ、自分一人だけ助かろうたぁ、良い度胸じゃねえか。どうして女を捨ててまで助かりたいんだぁ?」
その問いにレイはできるだけ他人から醜悪な男に見えるように下賤な笑みを浮かべてみせる。その効果があるのか、客からの視線の中に怯えているようなものが感じられた。
「愚問だな。女なんて作ろうと思えば幾らでも作れる。それに、俺は他人の命なんて興味の欠片もない。自分がかわいいのさ。他人を蹴落としてでも上の役職に就きたがる貪欲な政治家みたいなやつだ」
相手の同意を求めるように、含みを持たせた答えを返す。帝国兵らはニヤリと口端を歪ませた。
「ほぅ、なかなかどうして珍しい奴だな。まあ、仮に俺様たちがそれに応じたとしてテメェはどうする? どっかの治安管理隊やら軍隊にでも通報するか?」
「まさか! そんなことをする必要はない。理由は簡単。俺は亜人種が嫌いだ。俺は人間だからな。ここにいる理由はこの女と毎日気持ちいいことができるから、ただそれだけだ!」
周りから送られる視線がその一言で劇的に変化する。憎悪や悲しみ、恨み辛みが込められた視線。
「……ふっ、ははははは! イかれてやがるな、テメェ!」
「誉め言葉として受け取っておこう。それで、どうする? 俺と契約を結ぶか?」
チェックメイト。利害が一致する内容であれば断る必要性は皆無のはずだ。
「よし、気に入った。契約しようか、相棒」
案の定、契約は成立。ミシェルを拘束している男はAKアサルトライフルを肩に掛け直すとレイの首に腕を回した。
「んで、あの女の具合はどうなんだ?」
「最高に決まってんだろ。これが終わったら楽しんでこいよ──」
語尾を上げ、いかにも相手の気分を向上させるように答える。そして首に回された腕を掴み、微笑んでみせた。
「──天国。いや、地獄の閻魔様の前でな」
「何言ってんだ……!?」
その言葉を合図にレイは動いた。相手の腕を瞬時に解き、へし折る。続けて右太腿部に固定したレッグホルスターから9mm口径のSIG P226を抜き出すなり酷く冷めた目つきのまま近距離射撃を見舞った。有無を言わさず死した帝国兵を捨て置き、唖然とする残りの兵士を睨みつける。
この間、二秒。吸血鬼、それも真祖の眷属になったことで身体能力は人間のそれを大幅に上回っている。拳銃を宙に放り投げ、兵士が所持していたAKアサルトライフルを拾い上げる。動作確認、良好。
「て、テメェッ!」
レイが裏切り、味方が死んだことをようやく把握した帝国兵は慌てた様子で己の得物を構えた。
「構え方がなってない!」
新兵を教育する鬼教官の如く彼らを一喝したレイは、強化プラスチックで構成された折曲式銃床をしっかりと肩に合わせて固定し、光学照準器の付いていないスタンダードなアイアンサイトの照準を腰が引けている帝国兵に重ね合わせた。
「伏せろ、ミシェル!」
突然の出来事に状況を飲み込めていないミシェル。しかしどこか安心のできるレイの言葉に従いフロアに伏せる。引き金に添えていた指を絞り、レイが「地獄で詫びろ」と告げるよりも早く、薬室に装填されていた5.45mm弾は宙を切り、兵士の頭蓋を粉砕していた。
「まずは一人」
銃口をズラし、入り口で立ちすくむ兵士の胴体に三発。奥のフロアから顔を出した兵士の眉間に銃弾を贈る。
「や、野郎ぶっ殺してやるッ!」
放心状態の兵士が我に返り、腰だめで構えたAKアサルトライフルを左右に振りながら発砲し、被害を考えることなくばら撒いた。
「月詠」
それよりも僅かに早く術を唱え終えたレイは辺りを見渡すと満足そうに頷いた。それもそのはず。周囲から音が消え、先ほどまでの喧騒は嘘のように静まりかえっていた。それどころか店内、店外にいる人全てがその動きを止めていた。それどころか有機物に無機物、この世の全てが静止していた。
「その力に少しは慣れてきたか?」
「まあまあと言ったところだな」
眷属となったことで得た力。それは大量の魔力を消費することで言霊を具現化する力だ。
「帝国兵がこの国に来たということは近々大きなパーティーが行われるかもしれない、ということかな?」
「詳しい調査の必要有り。それでどうする? 仮に大きなパーティーが起きたとして、パーティーが大好きなアンタは参加するのか?」
「さあな、気分次第と言っておこう」
「了解」
レッグパネルポーチに差した銃剣鞘から銃剣を抜き、グリップ裏で空中に静止した銃弾を叩き落とす。床に落ちた銃弾を纏めて空間に入れ、閉じる。男に近づき関節技を決め、銃剣を首に添える。指を鳴らして一言。
「そして時は動き出す」
「死ねえ……って、痛えよォッ!」
暴れる男。しかしそれは自身を傷つけるだけの、謂わば自傷行為だ。
「う、動かねえから殺さないでくれ!」
「それは貴様の答え次第だ。さあ、答えろ。この国に何の用があってきた?」
「な、何でもねえよ!」
首に添えた銃剣の刃を微かに滑らせれば、一筋の線から赤い血液が溢れる。関節を締めつけ、本気であることを示す。
「て、帝王様が、皇国に戦争を挑む! だから、一人でも多く兵を集めるためにこの国に来たんだよ! これで充分かよ、ちくしょう!」
「口の聞き方がなっていないようだな、駄犬」
戦争。その言葉を軽く受け流す。本来は最重要事項だが、今のレイにはあまり関係のない話だった。だがしかし。それはレイとリアスだけらしい。店の中にいる客、さらには騒動を嗅ぎつけてやってきた野次馬や新聞社が喚き始めた。
「ああ、鬱陶しい……」
「そもそもこの国に喧嘩を売ること事態が愚かな行為だと何故気づかないのか。いつの時代も馬鹿な王はいるものだな」
ここミスリット国の王、クラウス・レーデンベルクは世界でも有数の軍師であり、その師は真祖リアス・ハーフメルナだ。リアスともそれなりに親しい間柄である。
「クラウスに頼まれたらアンタは戦うのか?」
「さあ? クラウスに頼まれたとしても戦うとは限らない。それにこの国には色んな武器が存在する。魔導兵器、古代兵器にその他諸々。帝国如きに負けるような国ではないことは確かだ」
それらの兵器について聞かされていたレイは、確かに、と頷く。
「だがしかし。このままでは全大陸を巻き込む世界大戦が勃発する可能性も無きにしも非ずだ」
「いっそのこと世界を滅ぼすか……」
「バカなことを言うな」
「冗談だ、本気にするな」
その後、しばらくしてやってきたミスリット憲兵団により帝国兵は逮捕、連行された。だがしかし現在、ハレルヤからメルリット城に帰宅しようとしていたレイとリアスは新たな厄介ごとに巻き込まれていた。
「レイ・シュトラウス。貴様を亜人侮辱罪及び婦女暴行、その他複数の罪により逮捕する。大人しくしろ」
恐らくは帝国兵を油断させるために吐いた嘘の証言に関して、その場にいた客の誰かが憲兵に告げたのだろう。レイは小さく舌を打つと武器を空間の裂け目に放り込み、頭に両手を当てると膝を着いた。
「はぁー、全くどうして面倒だ」
「連行しろ!」
両手に魔力封じや破壊不可の術式が刻まれた手錠を掛けられたレイは馬車に押し込まれると憲兵団詰所に連行された。
「昼御飯はクラウスに奢らせるとしよう」
事情聴取は昼を跨ぐだろうと、リアスは憲兵団詰所に向かっていく馬車を見送りながらほくそ笑む。
「貴女は証人として同行してください。どうぞ、こちらにお乗りください」
「ご親切にどうも」
「い、いえっ!」
憲兵が馬車へエスコート。リアスは内心苛々しつつも社交辞令で礼を述べる。それに対し、憲兵は敬礼すると頬を赤く染めた。大方自身の美貌に惚れたのだろうと、リアスは心の中で冷たい視線を送ると馬車に乗り込んだ。
「所詮は外見、か」
こんな発言をすれば世間からはナルシストと言われるかもしれない。しかし、そんなことを気にするリアスでは無い。寧ろリアスは自身の容姿等には人一倍自信を持っている。それ故に外見だけを見て付き纏う輩や告白等をする輩が嫌いなのだ。
「少し、眠るとしよう……」
目を閉じ、意識が闇に沈むまでに時間は然程掛からなかった。それから調書を終えた後、リアスは彼女の弟子に食事を奢らせ、連行されていったレイが釈放されたのは三時間後のことだった。