Act.14-1__Rainy blue
旧リーンベルク王国
マリンフォート港
2107年3月15日
日本国海兵隊強襲偵察隊
結城奏中尉
アタナシウス帝国に侵略される以前。ここ、マリンフォート港はリーンベルク王国の重要な貿易地点として栄えていた。日夜、多くの貨物船が往来し、商人の活動の場としても広く知れ渡っていた。しかし今ではその盛んな、そして人々の活気に満ち溢れた笑顔も一切存在しない。
そんなマリンフォート港は今ではアタナシウス帝国が旧リーンベルク王国へ武器や兵員、そして食糧など、スメラギ皇国を陥落させるための物資搬入拠点と成り変わっていた。天候は雨。大きな貨物船が光と雷の魔法を混合した誘導灯に導かれ、また一隻とマリンフォート港に入港していく。
日中は太陽が反射して青く澄み渡る海面も、夜中に天頂高くから光を放つ月も、この天候となっては存在せず、ただ暗黒の世界に侵食されたかのような静けさに包まれ、降りしきる雨音と時折聞こえる汽笛の音が全てを支配していた。
そんな静かな海面が僅かに揺れ、何かが海水を押し上げながら湧き出した。その物体は遠くからは判らずとも、近くから見れば紛れもない人間の頭部だ。闇夜の海から音を立てずに浮かび上がってきたのは二つのデジタル森林迷彩柄のブーニーハット。
それらは小型船を陸揚げするような人気のない場所から幽霊の如く無音で上陸した。
「アルファ上陸」
上陸した影の一人、結城奏中尉は作戦の第一段階が完了したことを無線機に告げた。森林迷彩をデジタルパターン化した戦闘服に身を包み、同色のブーニーハットを被った彼らは差し詰め変な人だろう。しかし肩のベルクロに貼られた国籍を示すパッチは日の丸であり、それはまさに奏が日本国海兵隊に所属することを示していた。
『こちらデルタ。アルファの上陸を確認した。まもなくブラボーが援護地点に到着する。パッケージ回収用のチャーリーは湾口から離れた位置で待機中だ』
「アルファ了解、待機する」
奏はハンドシグナルで自身の後方で待機中の影、榛名唯依少尉に合図を出すと、素早く移動を開始した。
コトの発端は今から三日前。日米海兵隊の今後の行動内容などを決定する重役会議がシェパード海兵隊基地で行われた。そこに出席したのは日本国海兵隊の篠ノ之薫少将、槙島和人中佐。米海兵隊のクリス・ハーレイ中将、ステラ・アッシュフォード中佐。その他数名の尉官。
スメラギ皇国からは王である、リオン・スメラギと他数名の大臣が出席した。加えて体調がある程度回復した旧リーンベルク王国の国王、ユークリッド・D・リーンベルクが席に着いた。
この会議は数時間に及んだが、最終的な結論にはたどり着かなかった。そこで日米海兵隊はクロスベル基地と合同作戦を展開し、無人偵察機による帝国の監視を開始した。
その翌日。スメラギ皇国に何処からともなく広まった一つの噂。
『リーンベルク王国の王妃と王女が帝国軍に発見されて囚われの身となった。二日後にマリンフォート港から帝国に移送される』
すぐさま緊急会議が開かれ、激化した討論の末に日米海兵隊は平和維持軍としての役割に則り、救助作戦を行う方針を決定した。