Act.13__War Dog
スメラギ皇国
シェパード海兵隊基地
2107年3月10日
日本国海兵隊強襲偵察隊
結城奏中尉
五日前。旧リーンベルク王国、現アタナシウス帝国領ホロータウンにて行われたトラヴィス・フォールズ少佐、他三名の救出作戦は無事に成功を告げた。だが一方で日本国海兵隊強襲偵察隊第一偵察小隊を指揮する結城奏中尉は救出後三日間その意識を取り戻さず、騒ぎとなった。
しかし今では隊に復帰しており、活動にも支障は見られない。そしてこの五日間で海兵隊及びスメラギ皇国騎士団はアシッドライン村までの地域を帝国から奪還することに成功。ドラゴンの奇襲により墜落したブラックホーク二番機の残骸の回収も完了し、殉死者の葬儀もスメラギ皇国の協力の元に行われた。
遺灰が風に煽られて海へ流され、溶けて消える。礼砲の音は彼らの胸を貫き、やはり消えゆく仲間を思う。瞳からは絶えず涙が溢れ、止まるという言葉を知らないようだ。世界は残酷だ。いつの間にか関係のない世界に漂流し、気づけば戦争に巻き込まれていた。仲間は死に、次は自分なのだろうかと自問自答を繰り返す、そんな日々。
だが、いつまでも悲しんでいることはできない。それは彼らが軍人であるがゆえだ。しかし殉死した戦友を忘れる必要はない。むしろ忘れてはいけない。気持ちの切り替えができれば良いのだ。
悔しい気持ちを胸に秘め、歯を喰い縛りながら、怒りを銃弾に込め、解き放つ。シェパード海兵隊基地に設けられた屋外射撃場の第三レーンで轟く銃声。射手は強襲偵察隊第一偵察小隊に所属する機関銃手、九条幸村曹長だ。隊のムードメーカーであり、重度の仲間思いな彼だからこそ、先の出来事は胸に響く。
「九条。少し落ち着け。怒りに身を任せて好き放題に撃つことは馬鹿のやる事だ。武器にも悪いし、何よりも弾の無駄遣いだ」
「くッ……!」
「悔しいのはお前だけではない。それを覚えておけ」
「……了解ッス」
幸村に軽機関銃の手入れをするように命令した奏は17式小銃の給弾口に樹脂製弾倉を挿し込み、初弾を装填すると小銃を突き出すようにして構えた。切換レバーは単射位置。引き金に添えた指の腹をリズミカルに引けば、軽い反動が肩を蹴り、同時にマン・ターゲットに穴が穿たれていく。
「リロード」
弾倉を取り替え、再び射撃を開始した。切換レバーを連射位置に移動させ、指切り短連射。これを続け、撃ち終えるなり弾倉を取り外してダンプポーチに突っ込む。ターゲットに近づき、レッグホルスターから拳銃を抜いて、撃つ。
「ふっ……」
短い息を吐き、ぼーっと空を眺める。一月前までは、異世界の土地に飛ばされ、そこで人間や見たこともない魔物と戦うことになるとはまさか考えもしなかった。アシッドライン村やホロータウンの戦いでは命の瀬戸際を歩き、先日もあのまま友軍による助けがなければ今頃は奴らの腹の中だっただろう。考えるだけでも身震いしてしまう。
「そんな怖い顔をしてどうかしたのかい?」
自動拳銃を机に置いたまま考え事に耽っていた奏にかけられるソプラノヴォイス。その正体は強襲偵察隊第一偵察小隊に所属する小銃手、榛名唯依少尉だ。
「この世の残酷さを嘆いていたのさ」
「中二病乙」
「……黙れ。用件は?」
問いに対して返答するが、瞬時に切られ、若干の苛立ちを感じつつも問いかける。唯依の隣には狙撃手の一ノ瀬蘭二等軍曹が付き添うように立っていた。簡単な挨拶を交わす。
「屋内のキルハウスでCQB訓練をやらないか誘いに来たんだよ。どうだい?」
「キルハウスか。了解。九条には武器の点検をさせているから三人でいいか?」
「んー、らじゃっ」
屋外射撃場から歩いて五分。建物内での戦闘を想定して造られたCQB訓練用のキルハウスに向かい、キルハウスを管理している隊員に使用する旨を伝える。許可を貰い、弾倉に装填した銃弾を実弾から訓練用のゴム弾に変更する。
「準備はいいか?」
「いつでも!」
「中尉に任せます」
木で造られた扉を蹴破り、同時に待機していた蘭が音響閃光手榴弾を室内に転がし入れた。起爆と同時に奏、蘭、唯依の順番で突入。室内に立てられたパッケージを誤射しないようにエネミー・ターゲットを撃ち抜いていく。ターゲットは土魔法で造られており、一定時間が経過すれば再生する優れものだ。
「クリア!」
室内の安全確保を宣言し、次の扉の左右に張り付くと鍵のかかった錠が行く手を阻む。ドアブリーチャーの役目を担う唯依が背中に背負っていたブリーチング用のショットガンで扉の蝶板を破壊。やはり奏が扉を蹴破り、蘭が音響閃光手榴弾を投擲した。
先ほどと同様の合図で突入。それと同時に起きあがったナイフを所持したターバン男が描かれたエネミー・ターゲットを反射的に小銃の銃床で殴打すると、続けて引っ込んだターゲット越しに出現したエネミー・ターゲットに銃弾を二発撃ち込む。さらに床から出現したエネミー・ターゲットに前蹴りを叩き込み、引き金を二度引いた。
「クリア!」
安全を確保すると次の扉へ張り付く。扉と床との隙間から小型のスネークカメラを覗かせて室内の状況を探る。
「パッケージゼロ。エネミーシックス」
「よし、吹き飛ばせ」
蘭からの報告に奏は悪戯な笑みを浮かべるとそう告げた。吹き飛ばせ、つまり手榴弾の使用許可である。
「えーっと、奏。さすがに手榴弾はマズいんじゃないかな?」
「たまにはストレスを発散したいだろ? 全責任は俺が持つ、やれ」
「うーん。それじゃあ遠慮なく!」
唯依がショットガンで扉の蝶板を破壊、蹴破った瞬間に待機していた蘭がポーチから取り出したM67破片手榴弾を室内に投げ入れた。扉に取り付けられたセンサーが熱源を感知し、室内のエネミー・ターゲットが起き上がる。
『Fire in the hole!』
全員がそう叫び、一つ前の部屋に飛び込む。同時に五秒フェーズに設定された手榴弾が破裂。爆風と共にワイヤーや金属片を周囲に撒き散らす。
「よし、突撃!」
奏の合図で駆け出し、制圧。室内は爆風で吹き飛んだ跡や真っ黒に焦げ付いた壁などが妙に印象強かった。
「ボンバー!」
「スルースキルって大事ですよね」
唯依が楽しそうにはしゃいだ。室内の惨状から目を逸らした蘭がぽつりと呟き、隣にいた奏は楽しそうに笑った。
「階段だ、注意しろ」
『了っ!』
奏を先頭にして、二階へと続く階段を慎重に進んでいく。
「コンタクト!」
唯依がエネミー・ターゲットを目視。17式小銃に搭載したエイムポイント社製のT-1マイクロダットサイトの赤い光点を頭部に合わせると指切り短連射。音響センサーが発砲音を感知。階段の先に広がるホールに隠されていたエネミー・ターゲットとパッケージが姿を露わにした。
『動クナ、人質ヲ殺スゾ。武器ヲ捨テロ』
「某ネットアイドルの声に似ているのは気のせいですよね、うん」
『黙レ』
女性の声を模倣した機械ボイスが武器を捨てるよう求め、奏たちはその指示に従って武器を地面に下ろした。
「これでいいか?」
『アア、死ンデクレ』
やはりここは王道的な展開。奏は隠し持っていた音響閃光手榴弾を床に落とし、エネミー・ターゲットに向かって蹴りつけると近くの障害物の後ろへ滑り込んだ。
「殺れ」
音響閃光手榴弾が炸裂。奏は冷めた声で命令を下し、右太腿部に固定したレッグホルスターからセカンダリー・ウェポンを抜き出すと机から最低限身を出し、正確な射撃をしてみせた。撃ち逃しがないことを確認し、周囲を警戒しつつ奥のスイッチを押し込んだ。訓練終了を知らせるブザーが鳴り、奏は大きく息を吐き出した。
「状況終了」
流した汗をタオルで拭い、談笑を交わしながら休憩室に戻る。程良く冷却魔法が利いている休憩室の中、機関銃の整備を終えた幸村は先ほどとは裏腹に驚いたような表情を浮かべたまま奏に詰め寄った。
「何か凄い音したけどなんスか!?」
「部屋の制圧に林檎を使っただけだ。気にするな」
「はぁー、成る程ッス……って、林檎ぉっ!? えっ、じゃあ、つまり、中尉は部屋の制圧に手榴弾ぶん投げたってことッスか?」
「そう言っただろ?」
たまには遊び心も大事だろうとでも言うように、奏は子供らしい無邪気な笑顔を浮かべると幸村の肩を叩いた。幸村は溜息を吐きつつも、苦笑した。
「怒られても知らないッスよ」
「訓練だから問題ないさ」
「了解ッス。それよか中尉。格闘戦やりません?」
「構わないぞ。外に行こうか?」
装備を外して戦闘服のみの状態となり、休憩室から白兵戦用の広場へと向かい、幸村と対峙する。
「よろしくッス、中尉」
「こちらこそ」
一礼。構え、互いの動きを注意深く観察して状況に備える。
「ふっ!」
先攻は幸村。数メートルの距離を捕らえられぬようジグザグな機動で動き、奏との距離を詰めるなり徒手格闘の基本である正拳突きを放った。特に焦る様子もなく、半身でそれを躱した奏は反撃と言わんばかりに左足による蹴りを放つ。しかし軽快なステップでそれを避けた幸村は裏拳による打撃を叩き込もうと試みた。身体を仰け反らせて何とか躱した奏は距離を置くべく数歩後退した。
「はっ!」
態勢を立て直させまいと突っ込んできた幸村に対し、奏はその場で踏みとどまると逆にタックルを見舞い、地面に押し倒した。苦悶の表情の幸村に対して追い討ちをかけるが如く、素早く関節技を決めて組み伏せる。しかしそこで終わるわけにはいかない。状況を打破するためには手段も厭わない。関節に走る痛みを堪え、幸村は暴れた。一瞬、奏の力が抜け、幸村は好機と笑みを浮かべると脱出し、距離を取った。
「痛いッス……」
「知らん」
奏は痛みに顔をしかめている幸村に肉薄し、左足を軸に鋭い上段蹴りを叩き込む。幸村は左側頭部に両腕を持っていきブロック。勢いのある蹴りが腕に強い衝撃を与える。間を空けず、奏は右腹部に向けてすかさず勢いのある回し蹴りを放った。幾ら鍛えているとはいえ軟体物。吸い込まれるように喰らいついた蹴りは幸村を吹き飛ばし、肺に溜まった酸素を強制的に吐き出させた。
酸素を求めて喘ぐ幸村に跨がり、腰のホルスターから訓練用に刃が丸く形成された木製のナイフを抜き、はだけて露わになった首目掛けて振り下ろした。
「これでお前は死んだ。俺の勝ちだ」
「おっふ、参りましたッス。完敗ですよ。悔しいッス!」
「悔しいと思えるのならお前はまだ成長するはずだ。精進しろよ?」
顔を隠すように覆った右手の下で呆れているのか、はたまた悔しそうな声を洩らす幸村。奏は幸村の上から退き、手を差し出した。
「ウィッス、中尉殿」
「調子に乗るな」
おどける幸村の腹部に拳を叩き込む。
「指導代だ」
一度目の訓練を終えた奏は休憩エリアに座り込むと流した汗をタオルで拭き取り、傍らに置いていたミネラルウォーター入りのペットボトルを取り中身を呷った。飲み込み、喉の渇きを潤す。時間にして一分。訓練に戻ろうと立ち上がった奏の足下に不意に感じるふわふわの感触。何事かと目線を足下に移す。
「久し振りだな、ジーク」
【ガウッ!】
何やら嬉しそうに擦りついてくるジークを撫でながら、奏はステラ・アッシュフォード中佐に聞かされたことを思い出していた。
「軍用犬扱いで登録されるんだってな。ジークは犬じゃなくて狼だというのに。複雑な気分なんだろうな……って、言っても解らないか」
先日のホロータウンにおける作戦の際、偵察隊のメンバーらと共に救助されたジークは軍病院で様々な検査を受けた。しかし特に異常は見受けられず、むしろ健康そのものと診断された。これを受け、ステラ中佐をはじめとする上層部はジークを野生に帰す計画を提案した。しかしジークと共に戦い抜いてきたレッドフィールド兄妹が何とか海兵隊で保護するようステラ中佐に働きかけ、その結果、軍用犬として登録されることとなった。所属は強襲偵察隊第一偵察小隊となり、今では隊のマスコットキャラクターとして皆から愛でられている。
【クゥーン?】
「犬なのか狼なのか、やはり見分けはつけにくいな。アシッドライン村の時みたく巨大化すれば一目瞭然なのだが」
【ガウッ!】
やはり複雑だ。奏は心の中で呟いた。
「お前も一緒にやるか?」
【ガウッ!】
その問いにジークは尻尾を左右に大きく振ることで肯定の意を表す。よろしい。頭を撫でれば、ふわふわの毛触りが何とも癖になる。
「ふわふわ、もふもふ。全世界のふわもふフェチに見つかったら終わりだな。捕まって一日中もふられて次の日も同じくもふられて。永遠にループだ」
いつの間にか手のひらサイズに変化していたジークを手の中から頭部に移動させる。どこか暖かく、ふわふわとした尻尾が僅かに首筋を掠めてくすぐったい感覚だ。一歩進む度に、わふっ、わふっ、と息を漏らすジークがとても可愛らしく感じてわざとステップを大きく踏んでみせる。
「このままティーカップに突っ込んで飾っておこうか? いや、そうすると動物愛護団体に叱られるか。まあいい、しばらくはマスコットとして働いてもらおう」
【ワフッ!】
了解、と。そう言わんばかりに声を張り上げるジーク。
「さて、どんな芸当を覚えさせるかな」
頬を吊り上げ、ジークの脇腹辺りを擽れば身体をくねらせて抵抗する。そんな抵抗している相手に行為を続けて楽しいと感じる自分は案外サディストなんだろうかと、自嘲気味に笑ってみせた。
「到着」
ケモノには萌えを感じるとはよく言ったものだ。奏は訓練を再開するためにジークを地面に下ろし、大きく背伸びをした。少し身体が鈍っている気がしてならない。するとジークが見様見真似で背伸びを実践しようと後ろ足で立ち上がる。結果は転倒。その際にジークは、きゃんっ、と子犬の如く小さく吠えた。
それが引き金となった。
周囲の視線が一斉にジークへ向けられ、女性隊員の大半が訓練を中止して一目散に走り出した。ジークは危険を察知すると咄嗟に反対方向へと逃走を開始した。その様子を呆然と眺めるしかなかった奏は邪魔だと言わんばかりに突き飛ばされ、危うく転倒しそうになる。
この事態はある程度想定していたが、やはり女性とは恐ろしいものだ。
「モテすぎるってのも案外辛いのかもな。なあ、ジーク?」
苦笑を浮かべ、遠くを走り回る一匹と多数の人影を見つめる。
「なに言ってるのさ、奏。それにしてもあの子が軍用犬のジークなんだ。前はしっかりと見れなかったけど結構シェパードよりかわいいかも」
「そのシェパードで過ごしている奴が何を言うか」
「それとこれとは別さ」
犬と狼を比較するのはどうなのだろうか。奏がそう言いたげに見つめれば、唯依はその視線に思わず楽しそうな笑みを浮かべた。
「まあいい。疲れて倒れるまでとことん走らせておけばいい。いい訓練になるだろう」
「そうだね。日が暮れるまで走らせておこう」
踵を返し、訓練に戻る。二人は幾分か距離を置くと腰のホルスターから木製のナイフを抜くと対峙した。タイミングは同時。二人は距離を詰め、逆手に構えたナイフを一閃。ナイフが交差し合い、心地良い音が木霊する。
奏は腕を引き、間髪置かずに薙ぐ。唯依はしゃがんで回避すると下からアッパーの用量でナイフを突き上げる。奏は反射的に身を捻ることで躱す。しかしそれよりも早く唯依は奏の背後を取り、ナイフの柄部分で腰を殴打。怯んだ隙に右上腕部に回し蹴りを見舞う。
奏は腕を交差して防御するも、そこに唯依の蹴りが連続して放たれる。目を開いて動きを観察し、隙を見つけようと神経を集中させる。しかし、唯依の靴裏に付着した砂塵が目元に飛び散り、反射的に左目を瞑ってしまう。
「う、らあッ!」
「くっ!?」
軸足に力を込め、左側頭部に蹴りを叩き込んだ。奏は瞬時に飛び退いて衝撃を軽減させようとするが僅かに回避が間に合わず、戦闘靴が左肩を抉るように喰い込んだ。地面に倒れ込んだ奏は腕立てをするように衝撃を抑え込むと両手を軸に足払いをかけた。唯依はバックステップで距離を置くなり、ナイフを構え直して次の動きに備える。
「やはり少し鈍ってるな……」
「じゃあ、もう少し頑張ろうか」
「そうだな……」
唯依は奏が落としたナイフを拾うと手渡した。奏は受け取ったナイフのグリップを握り直すと正眼で構える。一歩踏み出し、首目掛けて突きを繰り出す。唯依はナイフを受け流すと奏の腹部に膝蹴りを叩き込んだ。
奏は身体を捻り、それを躱すと態勢を整えて上段からナイフを振り下ろした。唯依は自ら奏に接近するとナイフと身体の間に腕を入れ込んで動きを止める。
「甘いよ」
「知ってる」
しかし奏は焦る様子を見せることなく淡々と答える。唯依は疑問を感じ、首を傾げて様子見に移る。すると奏は手首のスナップを効かせて若干の勢いをつけてナイフを落とすと空いている左手でグリップを掴んだ。
「たまにはこんな芸当もやってみたりする」
頬を緩ませてナイフの先端を唯依の腹部に一突き。驚愕の色を目に浮かべ、その際に僅かに隙が生まれる。腹部に添えたナイフの刃を身体の曲線をなぞるように滑らせていく。心臓に二突き、首筋を一閃。状況終了。
「わお、負けちゃった。少し油断しちゃったよ、油断大敵だね」
「実戦ならお互い死んでいた。もっと技術を磨かなければいけないな」
「そうだね。一緒に頑張ろう!」
戦闘服と髪に付着した砂塵を軽く払う。休憩所で汗を拭い、ミネラルウォーターを口に含む。ペットボトルに半分ほど残ったミネラルウォーターを頭から被れば、ひんやりと冷えたそれが僅かに涼しさを感じさせる。
「少し肌寒い季節だな……」
「水を被ったからそう感じるんじゃないかな?」
「さあ、どうなんだろうな」
「私が暖めてあげようか?」
「誘ってるのか、唯依?」
「さあ、どうだろうね」
二人は顔を見合わせると小さく笑い、拳と拳を軽く打ちつけた。