考える事を放棄したともいう。
揺れる茂みから飛び出してきたのは…
…子供?
あぁ、各務は子供嫌いだったっけ。
だからかー、と思いながら各務を見ると、視線はまだ茂みの方。
子供に威嚇していた訳ではないらしい。
いやいや、そんなことより、初めて人に会えたんだった。
「あ、ちょっと聞きたいこ…って大丈夫なのっ?!」
のんきに声をかけたあたしだったけど、子供の姿を見て聞きたい事なんて吹っ飛んだ。
身体のあちこちから血を滲ませた子供は、まるで天敵にあったようにその場で立ち尽くす。
「えーと、大丈夫?」
声をかけながらそっと子供に近づく。
「シャーッ!!」
未だに茂みの向こうを威嚇している各務の声に、子供がビクッと肩を揺らす。
あたしは、再度子供に声をかける。
「今のは、君に対してじゃないからね?」
安心させるように。
不意に、各務があたしの方を振り向き目を細める。
…いや、各務サンその表情はあれですよね、母猫が子供を見守る時の…
ん?
なんか声が聞こえてきた?
子供が焦ったように周りを見渡す。
「もしかして、追われてる?」
あたしの問いかけに、子供は俯いた。
各務は相変わらず茂みの方を警戒している。
あぁ、そうか。
各務はこの子を助けたいんだ。
「ね、君?少なくとも、あたしはここに来たばかりだから、君の敵ではないよ」
だから、こっちにおいで?
あたしは自分から子供に近づくのをやめた。
「………」
少し悩んでいたみたいだけど、子供はあたしのそばへと寄ってきた。
離れている時から酷い怪我だと思っていたけど、予想以上に傷だらけ…。
深い傷じゃないけど、あちこち腫れてる。
たぶん、身体だけじゃなくて、顔も…。
子供を背にかばって、あたしも各務の視線の先を睨みつける。
茂みをガサガサ揺らして現れた大勢の人間を。
「…いい大人が大勢で、子供相手にみっともない」
苛立ちを隠さず、あたしは呟く。
「なんだ、あんたは?」
「おい、そいつが何なのかわかってるのか?」
「早く殺さないと!」
「そうだ!今のうちに殺らないと」
口々に喚く人達に、どれだけこの子供は傷つけられたんだろう。
身体の傷だけじゃない、心だって、目に見えないだけで酷く深い傷がついているんだろう。
「ふざけるな!
こんな事許せるわけがない!」
あたしの怒声に、各務の様子が変化する。
「グルルルルッ!」
少しずつ膨らみ、爪が牙がそして身体が大きくなっていく。
「な、何だ?」
「ま、まさか魔獣?」
「何でこんなところに魔獣が?」
パニックを起こす人達に対し、あたしは冷静だった。
玄関開けたら森の中だったし、いまさら愛猫がJOBチェンジしても何とも思わないよ。






