ご令息には名前を聞かないようにしましょう
やっぱりシェル、
わけわかんないよ。
「エリック様と別れてくださらない?」
綺麗なご令息が言った。
昔読んだお姫様みたいに綺麗だ。
まあ、南国だからドレスもゴテゴテ
じゃなくて薄いフワフワな布なんだけど。
「エリック・セスルアと別れる?なんの話ですか?」
私は聞いた。
エリックと付き合った覚えはない。
「まあ、白々しい、エリック様は霧華…とこの間もうっとりと私との逢瀬でいっておりましたわ。」
ご令息が言った。
「……大体、あなた誰なんです、お名前は?」
私は聞いた。
一瞬空気が凍った。
なんで?どうしてさ?
「あなた、私に求婚なさるの?エリック様の婚約者の私に!」
ご令息がナヨッとよろめいた。
へ?なんでそうなるのさ。
「…エリック、止めてこい。」
隊長が言った。
「ええ?めんどくさいんですよね。」
エリックが言った。
「お前の婚約者だろうが。」
隊長が言った。
「…家同士のつながりのですが…。」
エリックが言った。
わー、なんか固まり過ぎて他の会話が
耳に入ったよ。
「アレクサンドラ、霧華は求婚してないよ。」
エリックがご令息の手を握って言った。
アレクサンドラさんって言うんだ。
「エリック様、だって名前を聞かれましたわ。」
ご令息がエリックを見つめて言った。
「霧華はこちらの習慣になれてないんだ、君も美しい瞳を曇らせないで…。」
エリックが甘やかに言った。
なんか、恋愛ドラマだな。
よくわかんないけど。
「アレクサンドラさん、私よくわからなくて…。」
私は言った。
「いやー、名前まで呼ばれてしまったわー。」
アレクサンドラさんが叫んだ。
「あーあ、霧華…駄目だよ、未婚男性の名前呼んじゃ、婚約者じゃないんだから。」
ジャックがいつの間にか近くに来てた。
「謝っとけ。」
隊長も来てた。
よくわからないけど…。
「申し訳ありません。」
私は頭を下げた。
「ゆるしてやってください、愛しい人。」
エリックが甘やかに両手を握って言った。
「……え、エリック様に免じて許しますわ。」
アレクサンドラさんが言った。
全くどうなってるのさ。
ジャックと隊長に腕を捕まれて物影
に連れ込まれた。
絞められるの?私?
「……ったく、エリックのやつのせいで、霧華が大迷惑だな。」
ジャックが言った。
「あとで、エリックは指導しておく。」
隊長が言った。
「あの?一体どういうわけですか?」
私は聞いた。
「霧華、お前も少しシェルの常識を勉強した方がいいようだな。」
隊長がため息をついた。
「あのな、未婚男性に名前を尋ねるは求婚なんだ、未婚男性の名字はしってても、名前は普通知らないはずだ。」
ジャックが言った。
たしかにロリエーンさんは名字しか知らない。
「なのってもらえたら成立で…エリックが左側の髪の一部編んでるだろうそこにいつも同じ髪飾りつけてるだろう相手の家の紋章の入った、あれが婚約してる証だ。」
ジャックが続けて言った。
「男性はペンダントとか腕輪とか飾り櫛とかで、相手の家の紋章のものをつけている。」
隊長が言った。
お互いに贈り合うんだそうだ。
「つまり、婚約してる人に求婚したってことにー、なんてとんでもないことを!」
私は言った。
「まあ、霧華は知らなかったんだし。」
ジャックが言った。
「知ってやってりゃ決闘もんだぞ。」
隊長が言った。
わー、申し訳ないです。
「霧華!ごめんね。」
なだめたらしいエリックが物陰に顔を出して言った。
聞いた通り左側の髪を編んで髪飾りをつけてる。
編んでるのは気がついてたけどこんな意味があったんだ。
ジャックは編んでないから婚約してないんだね、隊長も。
そういえば何人か同僚が編んでるな…。
場所は左とは限らないけど…。
「まったく、お前のせいでいい迷惑だ。」
ジャックが言った。
「霧華に色目使うからこうなるんだぞ。」
隊長が言った。
色目使われてたかな?
「ごめんなさい、知らなくて。」
私は頭を下げた。
「…霧華が男なら…いや、僕のせいだから。」
エリックが言った。
「エリック、あとで指導だ。」
隊長が言った。
「ええー。」
エリックが言った。
本当にシェルって不思議な国だよ。
不用意に人の名前も呼べないよ。
ちゃんと調べないと。
ジャックに頼もうかな?