映画は續く、雌鶏は死ぬ
〈美男葛醜男葛立つ瀬なし 涙次〉
【ⅰ】
テオの調べでは、あの雌鶏、「勘違ひ」と云ふ妖魔に違ひなからう。まづ被害の有り様からして間違ひない、と云ふ。毒卵の影響する期間は決して長くはなく、生田も次第に旧に復するだらう、との事。
だが「ゲーマー」が毒卵を食事の材料に混ぜ續ける限り、生田が自分を武道の達人だと(それもじろさんを上回る)思ひ込むのは止まらない。然も前回書いた通り、「ゲーマー」は君繪の契約破棄の件で、生きてゐなければ、カンテラ一味に利するところはなくなる。
【ⅱ】
「なあテオどん」-「なんだい監督」-「俺が魔界に行つてあの雌鶏を片付けるつてのぢや、駄目なのかなあ」-「杵くんナイフ投げつて特技があるもんねえ。よし、カンテラ兄貴とじろさんに訊いてみるよ」-「よしなに、頼むよ」
【ⅲ】
「杵が攻撃部隊に加はるのは良しとしやう」-カンテラ。「然し結局『ゲーマー』にしてやられてゐるつて狀態は變はりない」-テオ「だけど杵くん自分の映画は自分で護りたいつて」-カンテラ「その點に問題はないよ。『シュー・シャイン』に『思念上』のトンネル案内させやう」
※※※※
〈鳴く蟲が死滅したれば10月の蟷螂が待つ順序整然 平手みき〉
【ⅳ】
事を前にして杵塚、すつかりアガつてしまつてゐた。「シュー・シャイン」(大丈夫なのかなあ、杵塚さん)と内心危惧してゐる。
「シュー・シャイン」の盡力で、「ゲーマー」の居場所は直ぐに分かつた。魔界盟主の執務室の隣りに、彼の部屋はあつた。隣り、と云ふ事が、彼の魔界での現在の在り方を示してゐるとも云へなくはない。所謂、微妙な線、と云つたところ。
杵塚、ぶるつと武者震ひ。「あんな鶏一羽殺れないようで、何がカンテラ一味メンバーだ」-「その意氣ですよ、杵塚さん」と「シュー・シャイン」。「よつしや、ぢや一丁行つて來るわ」
【ⅴ】
杵塚は「ゲーマー」の部屋のドアをノックした。「珈琲お持ちしました」-「ドアのロックなら開いてるよ」-杵塚、固唾を呑んだ。ドアを開けて、「ゲーマー」に抱かれた「勘違ひ」に向け、ナイフを投げ付けた。
見事命中。「勘違ひ」は死んだ。「き、貴様、」と「ゲーマー」いきり立つ。「怒るのはこつちだ! 俺の映画を滅茶苦茶にする積もりか!」-「シュー・シャイン」、「とんずらの潮時ですよ、杵塚さん」
【ⅵ】
と云ふ譯で、まづは先手を打つたカンテラ一味。生田も目醒め、「私だうかしたんでせうか?」-これには一同苦笑ひ。
それにしても「ゲーマー」、次なる手に出られると厄介だ。だうしてくれやう。だが、テオにすら打つ手は考へ付かなかつた。取り敢へず、生田を國立市郊外の彼のぼろ家に、じろさんのトヨタ・コロナ2000GT改で送る。
【ⅶ】
何だか一同、心に風穴が開いたみたいだつた。
※※※※
〈彼岸過ぎ曼珠沙華いよゝ不気味なり 涙次〉
「ま、妙案が浮かぶ日もあるでせう」とカンテラ。「氣持ちを切り替へやう」。
とは云へ、いつ、その妙案とやらが、一味メンバーの心のドアをノックするのか、誰にも分からなかつた、のは確かである。因みにこの話は續かない。放つて置く。我々には新規の物語が待ち受けてゐる。ぢやまた。
雌鶏産んだ
卵を産んだ
毒の卵だ
食べたらいけぬ
雌鶏死んだ
ナイフ投げで死んだ
映画は續く
雌鶏は死ぬ
贋〈まざあ・ぐうす〉より。




