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第四話

「よし、着いたね」


 そう言った遥と私は、近くにあった岩に腰掛ける。2時間近くも歩き続けてようやく着いたのだから、当然だろう。

 今、私たちは、『九皇殺し』の本拠地の前にいる。まるで城のような、風格の外見をしていて、流石は、このゲームの中でトップクラスの規模のギルドだという感じがする。

 そして、今から私は、このギルドに入会するために、この立派なギルドの中に入るの。やっぱり、外見が外見なだけあり、入るのだけでも緊張する。でも、『九皇』の討伐という、私の目標を達成するためには、ここで一歩踏み出さなければならない。


「緊張するなぁ……」

「大丈夫だよ! リラックスして、行こう!」

「うん! 行こう!」


 遥に背中を押され、私は、ギルドの入り口の扉をゆっくりと、力強く押し込む。

 ギルドの中は、鎧を身に着け、いかにも冒険者っぽい服装をしている人から、まるで公園に散歩に行くのかというレベルの軽さの服を身に着けた者まで、多種多様な人たちで賑わっていた。そして、その内の何人かが、私の方を振り返った。

 すると、何者かが、私の元に駆け寄ってきた。


「お待ちしておりました! あなたが、遥様から紹介を受けた、テルルン様ですね!」

「えぇ……そうです……」


 私がそう困惑しながら答えると、話しかけてきた男性は、礼儀正しく、


「おっと、紹介が遅れました。私は、ガルムと申します。このギルドの副統括人を任されております」


 と自己紹介をしてくれた。私は、それに応えないとマズいと思い、


「わ、私は、テルルンと言います。これからよろしくお願いしますッ!」


 と、軽く自己紹介をする。


「では、早速、入会試験に参りましょう……と言いたいところなんですが、今回は、少しばかり事情がありまして、すぐには試験に移ることができないのです」

「事情?」

「ええ、実は、本ギルドの統括人が、テルルン様に会いたいと申しておられまして……」

「え!? ヴィロン・ベクタール様が!?」


 そう驚きの声を発したのは、遥だった。


「ヴィロン・ベクタール? その人って、すごいの?」

「すごいとかいう次元じゃ無いよ! このギルドの三代目統括人で、かつ、このギルドの実力者の中でも、トップ3に入るレベルの実力者なんだよ!」

「それは確かにすごい……」


 私がそう感嘆していると、ガルムが、軽く咳払いをし、


「できるだけ早急に会いたいとの事でしたので、ご協力お願い致します」


 と私たちに向けて言い放つ。私と遥は、緊張しながらガルムの後をついて行く。


 そのままガルムについて行くと、目の前に、これまた重厚な扉が現れた。


「この中で、ベクタール様がお待ちになられています。さあ、早く中へ……」


 そうガルムが急かしてくる。けれど、私の足は、その扉に向かって一歩踏み出すのを躊躇っていた。


「輝夜、大丈夫?」

「うん……やっぱり、緊張するね」

「『九皇』を倒すためには、こんなところで立ち止まってる場合じゃないよ。私もついてるから、恐れずに、さあ行こう!」


 そう遥に背を押され、私は、その重厚な扉へと一歩踏み出す。扉の中に入るという決意ができたからか、それからの足取りは若干軽くなった。やはり、人間というものは、自身の決意で、行動も意思も、すべて左右されてしまうという事を改めて実感したわ。

 さて、私が扉を力強く押し込み、閉ざされていた重厚な扉を開ける。と、私の目に映ったのは、国王が腰かけるような椅子に、足を組んで座っている、一人の女性だった。


「ここの椅子に座ってちょうだい。立って話すのも大変でしょう?」


 その女性――いや、ベクタール様が、自身の目の前にある椅子に座るよう、配慮してくださった。独裁者みたいな性格の人じゃなくて、ひとまず安心したわ。

 そして、その女性は、


「よく来たわね! 私たちのギルドへようこそ!」


 と力強い声で、私を歓迎してくれた。


「どうもありがとうございます。私は、テルルンと申します。こんな立派なギルドのメンバーにはふさわしくない名前かも知れませんが、入会試験に合格しましたら、その時は……」

「いや、名前などもうこの際、どうでも良いわ。それよりも、あなたに訊きたい事があるの」


 いや、ベクタール様が、私の話を遮ってそう言う。


「私が訊きたい事は一つよ。あなたは、このギルドに入って、どうしたいのかしら? 理由によっては、このギルドへの入会を拒否するわ」


 そうベクタール様が声を発しただけで、あたりに緊迫した空気が張り詰める。


「私がこのギルドへ入会してやりたい事は、これまで積み上げてきたゲーム経験を活かして、『九皇』を討伐する事です」

「なるほど。ゲーム経験っていうのは、具体的にはどのようなものなのかしら?」

「……話すと長くなりますが、よろしいですか?」

「良いわ。あなたの経験が、入会試験の合否にも関わってくるかもしれないわ。たくさん話してちょうだい!」


 そうベクタール様に了承を頂けたので、私は、思い切って、自分の功績を、どこぞの遥の如く、長々と話し始める。


「まず、私の一番大きな功績から。私の最大の功績は、世界の中でもかなり有名な、あのアクションゲームのRTAランキングで、第2位にいるという事です」

「なるほどね。あのアクションゲーム、難しいけど、詰めると意外と楽しくなってくるのよね。で、それだけかしら?」

「いえ、まだまだありますよ! 次に大きな功績は、世界一有名と謳われるRPGゲームで、クイーンの座に就いていることです」

「えっ!? 『みれか』って、あなただったのね! 私は、『みれか』様の直属の配下に就いている、『レコラル』よ!」

「あなたが『レコラル』なのね! いつも直属の配下として使わせてもらってるけど、このゲームの中では立場が逆転するって事よね……」

「大丈夫、ある程度の間違いまでは許すから!」


 ふと気づいて、遥とガルムの様子を覗ってみると、あまりにも親密に会話をしていたせいか、遥は少し引いており、ガルムは、タジタジしていた。流石に、このゲーム内でも上位に位置する権力者の前で、こんなに馴れ馴れしく会話を弾ませるのはマズかったかしら。

 そう私が心配していると、遥たちのいる方から、軽い咳払いが聞こえてきた。私とベクタール様が、遥たちの方を見ると、案の定、ガルムが、口元に、軽く握った手を持っていっていた。そして、


「ベクタール様、テルルン様とお戯れになるのは構いませんが、程々にお願いしますね」

「分かってるわよ。入会試験もあるんでしょう? 取りあえず、ギルドに入ってしたいことと、これまでのゲーム経歴に関してはよく分かったわ。私との面接は合格よ」

「やった! ありがとうございます!」


 あ、これ、面接だったんだ――と私は内心で思いながらも、口には出さず、素直に喜ぶ。


「それじゃあ、ガルム、入会試験の準備を進めてちょうだい」

「承知しました」


 そう命令を受けたガルムは、逃げるように部屋から出ていった。


「じゃあ、テルルンは、入会試験の準備が整うまで、私と話してましょうね」

「え? ……あ、はい」


 その後、私がベクタール様とゲームトークを長々と繰り広げたのは、言うまでもないだろう。

 こうして、私は、ベクタール様との面接を終え、『九皇』討伐にまた一歩近づいたのだった。

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