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第二話

 私は、遥の元から離れ、モンスターを狩りに行く。辺りを見回していると、少し遠くの方に、普通ではあり得ないほどのサイズのバッタが見えた。


「あれがモンスターよ! 輝夜、倒しに行くの!」


 そう遥に言われるや否や、私は、そのバッタのモンスターを倒しに、そのモンスターの背後から近づく。


 私が短剣を振り上げた、その時。バッタのモンスターが、私の存在に気づいたのか、急に羽をバタつかせて、飛び去って行こうとした。しかし、私が短剣をバッタのモンスターに向けて振り下ろす方が先だった。


 バッタのモンスターに短剣が突き刺さるや否や、バッタのモンスターが、甲高い声で奇声を上げ始めた。私は、バッタのモンスターの思わぬ抵抗に、耳を塞ぐ。


「くっ……うるさい!」


 私は、そう叫びながら、尚も奇声を上げ続けるバッタに向けて、短剣を突き立てる。と、バッタは、羽をバタつかせた後、力尽きて倒れた。


「よし! これでレベルが……」


 私は、そう考え、レベルアップを伝えるウインドウが出るか、レベルアップを伝える通知音が届くのを待つ。けれど、一分待っても、一向にレベルアップの通知は来ない。


「もう! 何で全然通知が来ないのよ!」


 私が痺れを切らしてそう叫ぶと、遥が、遠くから、面白そうに笑いながら、こう言った。


「そんな簡単には、レベルは上がらないよ。いくら今がレベル1だからといって、『ワイズマン』の中でも最弱と呼ばれる、『ホッパー』を倒したくらいじゃ、レベルは上がりっこないよ」


 そう言われて、確かにそれもその通りだと私は気づく。なんせ、このゲームは、最高レベルが500と高めに設定されているのに対して、最弱モンスターの『ホッパー』を最低でも20体以上倒さないと、レベルが上がらない仕様になっているのだから。ちなみに、トップランカーは300レベルまでは到達しているようだが、それ以上はレベルアップの条件が、経験値を貯めるのに加え、もう一つの高難度ミッションを達成する必要があるため、そう容易にはレベルアップできないらしい。


 さて、私は、次の『ホッパー』を見つけ、後ろからこっそりと近づく。と、今度は、敵に気づかれることなく、敵の背後を取ることができた。私は容赦せず、『ホッパー』の背中を後ろから突き刺す。と、『ホッパー』は、呻き声を上げる間もなく倒れていった。


 と、その時。


「輝夜、危ない!」


 そう遥が叫び、私の元へと駆け寄ってくる。私は、悪寒を感じ、咄嗟にその場から飛び退く。すると、私の立っていたところに、鎌のような、先の尖った何かが突き刺さる。私は、草原に着地するのとほぼ同時に、鎌の振り下ろされた方を振り返る。と、そこには、体高2メートルほどの巨大なカマキリがそびえ立っていた。


「まさか……『ビッグマンティス』!?」


 そう遥が叫ぶのとほぼ同時に、『ビッグマンティス』と呼ばれた巨大なカマキリの魔物が、辺り一帯に咆哮が響き渡る。


「くっ……輝夜、ここは、私も加勢するわ。こいつを倒せば、レベルが一気に上がるわよ! 目の前の敵を、経験値だと思って、一気にやっつけるわよ!」


 そう遥が勢いよく声を発する。恐らく、この『ビッグマンティス』は、それほどに強いモンスターなんだろう。でも、このモンスターが経験値の塊だって言われちゃ、やるっきゃないわね。


「分かったわ! こいつを倒して、一気にレベルアップしましょ!」


 私も、遥の意気に乗って、やる気を見せる。

 先陣を切ったのは、私の方だ。短剣を振りかぶり、空中で『ビッグマンティス』に向けて、短剣を振り下ろす。と、『ビッグマンティス』は、右腕の鎌で私の短剣を受け止めた。


「くっ……器用なカマキリね……」


 と、その時。『ビッグマンティス』が、鎌を私の方に押し込んできた。私は、その『ビッグマンティス』の勢いに押されないように、後ろに宙返りして、『ビッグマンティス』の鎌から逃れた。『ビッグマンティス』には、その行動は予想外だったようで、勢い余って、前方に転がった。

 その隙を狙って、遥が、『ビッグマンティス』に向かって突撃していく。遥は、『ビッグマンティス』の首らしき辺りを狙って、剣を振り下ろす。が、『ビッグマンティス』も、命の危険を感じたのか、鎌を大きく振り上げて応戦する。

 遥の振り下ろした剣が、『ビッグマンティス』の首を捉える。このまま行けば、『ビッグマンティス』は、ほぼ確実に死に至らしめられる。でも、経験値の塊はそう容易くやられる訳にはいかないようで、遥の攻撃を、鎌で必死に防いでいる。


「なかなかにしぶといわね……」


 そう遥が呟いた、その時。『ビッグマンティス』が突如として起き上がり、その鎌で、遥へと猛攻を仕掛け始めた。遥は、空中で数撃を捌いた後、草原に着地し、その後に続いてきた連撃を軽く流す。

 と、突如、『ビッグマンティス』の攻撃の手数が減った。私は、『ビッグマンティス』が弱体化して、攻撃にかけられる力も既に残っていないのかと思った。しかし、その直後、私は、その考えが誤ったものだったのだと悟ることになる。

 私は、『ビッグマンティス』が片方の鎌しか使わずに攻撃しているのに気づいた。私が、もう一つの鎌はどこに行ったのだろうと探していた、その時。遥の背後に、『ビッグマンティス』の巨大な鎌が忍び寄っているのに気がついた。


「遥、危ない!」


 私はそう叫び、遥を救おうと、『ビッグマンティス』に向けて走り出す。けれど、私と『ビッグマンティス』の間は、遥と『ビッグマンティス』の激しい戦いの間に広がっており、遥がやられる前に私が遥を救うのは不可能だった。

 一方の遥は、私の必死の叫びに気づいたのか、後ろを振り返った。そして、背後に迫っていた鎌を見て、顔を青ざめさせていた。遥は、咄嗟に跳躍し、鎌の魔の手から何とか逃れることに成功した。

 だが、まだ遥の身から、『ビッグマンティス』の脅威が無くなった訳ではなかった。自身の攻撃を避けられたことを確認した『ビッグマンティス』は、遥の元へと羽ばたき、間合いを詰める。そして、両手の鎌を交差させるように振るったのだ。遥は、真上に高く跳躍し、鎌を避ける。

 ところが、その行動は間違いだったようだ。

 空中にいる遥は、空を自由自在に飛ぶことができる『ビッグマンティス』の格好の的だった。『ビッグマンティス』は、遥に向かって、『ホッパー』が使っていたのと同じように、甲高い奇声を上げる。


「くっ……」


 遥は、そう呻き声を上げながら、草原に落下する。


「体が動かない……」

「遥、頑張って逃げて!」


 私は、そう叫びながら、遥に着実に近づいていく。けれど、遥は、動きたいという意思の欠片も見せない。それどころか、


「輝夜……逃げて!」


 と、自分の事を棚に上げて、逃げるように勧告までし始めたの。


「ダメよ……私だけ逃げたら、輝夜が……!」

「でも、ここで輝夜まで巻き込まれたら、二人まとめてやられて、全滅しちゃうじゃない! 輝夜、あなたは逃げて……! またこの草原で会いましょう!」


 遂に、そう別れまで告げ出した。

 私は悩む。ここは、一旦遥を囮にして、自分だけ逃げるべきか、はたまた、自分がやられる可能性を顧みず、遥を守りに出るべきか。でも、遥がいなくなったら、私じゃ、後一日生き残れる気がしない。となると……


「ここは、遥を守るわ!」

「何で!? 私を守って、それで私達二人とも生き残れる可能性は限りなく低いじゃない!」

「でも、『ビッグマンティス(こいつ)』に勝つには、もうこれしか無いじゃない!」


 私は、反論してきた遥に、そう言葉を返す。と、遥は笑い出した。


「そうか……やっぱり、輝夜って無茶苦茶だな」

「だって、私達、これまで、たくさんの困難を乗り越えてきたじゃない! たとえ、二人で生き残れる可能性が低かったとしても、その可能性に懸けてみる、それがゲーマー魂でしょ!」

「そうだな。じゃあ、やるぞ!」


 そう遥と私で、気合を入れあった。

 さて、遥が動けるようになるまで、私が時間を稼ぐ必要がある。私は、素早く踏み込み、『ビッグマンティス』の鎌に向けて、短剣を振るう。その一撃は、硬い鎌に弾かれる。だが、それでも良い。何故なら、相手の攻撃の発動を止め続けることも、時間稼ぎの一つになるからだ。私は、その流れで、『ビッグマンティス』の胴体や脚、鎌の付け根や首など、様々なところを狙って、短剣で斬りつけていく。『ビッグマンティス』は、私の素早い動きに翻弄されて、身動きが取れなくなっているようだった。

 そうしているうちに、遥の身にかかっていた麻痺効果が解けたようだ。


「よし、輝夜、ありがとう! それじゃあ、一気に片付けるわよ!」


 そう遥が言い放ち、一気に猛攻を仕掛ける。

 私は、短剣で『ビッグマンティス』の体の様々なところを斬りつける。またもや私の素早い動きに翻弄された『ビッグマンティス』は、ダメージと共に、私への怒り(ヘイト)も上がっているようだ。

 そんな中、私に『ビッグマンティス』の注目が集まっている隙を見て、遥が、高く飛び上がり、空中で回転した後、『ビッグマンティス』に向けて、剣を振り下ろした。

 そして、遥の渾身の一撃をくらった『ビッグマンティス』は、悲鳴を上げる間もなく倒れ、そして消えていった。


「やった……やったよ遥! 私達、『ビッグマンティス』を倒したんだよ!」

「やったね! きっと、これで、レベルが……」


 その時。


[ピロリン♪]


 と通知音が鳴った。


「もしかして……!」


 私がそう期待を込めて、ステータス画面を開く。と、


[レベルが上がりました]


 というウィンドウが、私の前に現れた。


 私は、レベルが上がったのを聞くなり、【ステータス】と唱え、ウィンドウを開く。


 水口 輝夜 LV.5

 HP 103/103

 ATTACK 24

 DEFENCE 19

 MAGIC ATTACK 18

 MAGIC DEFENCE 20

 MOVE SPEED 10


 なるほど。レベルが1の時のステータスを見ていなかったので、どのくらい成長したのかはよく分からないけれど、レベルが上がったのが目に見えるからか、何となく強くなったような気がする。


「レベルが上がったようね。この調子で、レベリングを進めて行きましょう!」


 そう遥が言う。


「うん! 行こう!」


 私も、遥にそう応じ、次の敵へと狙いを定めて、走っていく。

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