EP.1 : 溢れ出すこの想い.8
アパートから徒歩五分にあるちょっと廃れた食料品店に小走りで向かっていた。
チェーン店が周りにいっぱい有るのになぜかその店は潰れずに残っていて、私の様な貧乏学生には有難いお店なの。
「何か残ってるかなぁ……あれ?」
私の視線の先、見知った顔の人がいる。
「小々波さん?」
鉢巻になぜかサングラスをして、いかにも怪しい人ですと言う姿をしているけど、私の地元で精肉店をやっている優しいお兄さんだ。
いや……今は優しいお兄さんだったと言うのかな。
牛さんのお肉をお母さんに安く売ってくれた張本人であり、さっちゃんの言葉を信じるなら私のチカラの原因はその牛さん。
なんでここに居るんだろ……見つかったら嫌だなぁ……こっそり帰ろ……。
「んっ? おぉ花乃歌ちゃんじゃないか」
ひぃやああああああ気付かれた!?
こっちに来るよどうしよう!?
「どうしたこんな所で、お母さんは?」
何か普通の反応だ……いや、誤魔化してるだけかも……ジッと見ても元々怪しいから分からないよぉおおお!?
「相変わらず変な子だな花乃歌ちゃんは」
変な人に変って言われた!?
「小々波さんこそどうしてここに居るのさ?」
こんな時だけ便利だよ私の顔面。
だって焦ってる顔が面にでないからね!
「いやぁ、ここの店長に肉卸してくれって頼まれてさぁ。かなり叩かれたからギリで赤字だよまったく、困ったおっさんだな」
店長に頼まれた……本当かなぁ。
突いてみようかな……怪し過ぎる。
「それで花乃歌ちゃんはどうしてここに? 家から結構離れてるだろ、お母さんも見当たらないし」
辺りをキョロキョロしてる……わざとらしい。
「華ノ恵学院に入学したから一人暮らししてるの!」
これは言わなかった方が良かったかなぁ。
「そうか、もうそんな歳か。身長伸びて無いから気付かなかったぞ。確か中学生になるんだったな!」
これは喧嘩を売られてるのかな? やるぞ!私の必殺股間蹴りを! 高校生だよ!!
「悪い悪い、そんな睨むなよ花乃歌ちゃん。そうだ!ちょっと待ててくれ!」
走ってどこかに行っちゃった……先に特売品コーナー見てこよ。
「何かないかなぁーおっ、卵安い!これは買いだね。他はー大根も!」
本当にここのお店は大丈夫かってぐらい安いよねーいっぱい買えちゃう。
あった特売品コーナー!……何も無い。
「売り切れだぁ来るの遅すぎたなぁ」
何か他に安いモノは……お肉が安い。
このお肉なのかなぁ……駄目だ、全部怪しく見えてくるよ。
産地は──【エイドノア産】──どこの国?
「お待たせ花乃歌ちゃん」
小々波さん戻って来た……何か持ってる?
「ほい入学祝いだ。いっぱい食べて大きくならなきゃな」
うぅ牛さんのお肉に見えるよ。しかも一キロ五パック大きいサイズ……うーん、祝いで貰うなら……どうしよう。
これは聞いてみるしかない!
「小々波さん、このお肉ってどこ産なの?」
お願いだから知ってる国名言って!
「んっ、エイドノ──国産牛肉百パーセントだぞ?」
誤魔化したぁあああ!? だって今エイドノアって言ったもん!だからそれどこの国!?
「さっきあそこのパッケージにエイドノアって書いてるの見たよ!」
きぃいいいいい首を傾げて誤魔化してるけど証拠あるんだからね!!
私はすぐそこにある牛肉パックを手に取り見せつける。
言い逃れできないよ小々波さん!
「いや、ちゃんと国産って書いてるぞ? エイドノアって何だ花乃歌ちゃん?」
えっ……書いてるよほらっ!
すぐにパックを確認すると──国産!?
何でっさっきちゃんと見たのに!?
どうやってか隠された……いや、誰も通って無いのに……私の見間違い?
「勉強のやり過ぎで疲れたのか? 無理してお母さんに心配かけたら駄目だぞ」
むぅううう納得いかない。
「肉食べて元気出して、頑張れよ中学生!」
だからぁあああ──「私は高校生だよ!!」
「おっと、それじゃまたな花乃歌ちゃん!!」
拳を握って叩こうとしたけど物凄い速さで逃げられた……くそぅ。
牛さん一キロ五パック……持って帰るしか無いかぁ。
「お肉に罪は無いからね……結局さっちゃんが言ってたミノって何なのかなぁ」