EP.20 二人と二人
戸ノ浄市華ノ恵ビル屋上────
妻が亡くなってから止めていた酒缶を片手に、遠くに見える埋立中の、黒い渦を眺めていた。
下手をすれば事が露見し、国内外に大きな混乱を招くところだった。そう思いながら缶を口に運び、ゆっくりと呑み込む。
「よぉ将勇、お嬢ちゃんと仲直りしたか?」
「お前はいつも突然に来るな、見れば分かるだろうに……仲直りしたさ」
そう……あの件があって桜乃が入院した次の日、私は謝罪と見舞いを兼ねて、娘に会いに行った。
娘は勿論怒り、髪色を変えてまで怒り、病室内の物を片っ端からぶつけて来た。
私はその全てをこの身に受け、謝罪し続けた。
あの時もし、娘に全てを打ち明けていたら、間違い無く娘は壊れたであろう。
母を目の前で失った直後だ。
苦渋の選択だった。
亡くなられた御遺族には、それと知られぬ様に、出来うる限りの補償はしたが、それでも、人を殺めた事には変わりは無い。
私は、実の娘の記憶を閉じる様、この小々波君に頼んだ。それでも、前世の記憶だけは閉じれなかった様だが。
「そりゃなによりだ。んで、本題だけど、佐凪夜、白瓦六、両名共が同時期に、それも引き合う様に、異世界で過ごしていた記憶を思い出してるな……今の処、他国の能力者の影はないぞ」
「そうか……それは何よりだな」
この世界は未知で溢れている。
この地の下で渦巻く、得体の知れない黒い渦が現れる前ですら、少なからず異様な、得体の知れない物事は起きていた。
他国では超能力者が存在し、異形のモノも、その存在を確認されている。
「小々波君、この世界はどうなるんだ」
「さてね……少なくとも、あの渦は地の底で、根を伸ばしてるだろうな。日本各地に、小規模だけど迷宮が出来つつあるし……勿論他国にも、だけどな」
嫌な事を聞いてしまったな。
もしそれが本当なら、日本が、世界が、悍ましい化物だらけになってしまう。
正直言って、小々波君の考えている事が分からない。
古くからの付き合いで、彼の事情も知ってはいるが、その根っこ──目的までは聞けずにいる。
終末の刻研究所を立ち上げたのも彼だし、異能者を増やすための策を考え、実行しているのも彼、小々波君だ。
だからこそ腑に落ちない。
小々波君ならば、最下層に至る事など容易であろうに、何故かその情報が一切無い。
報告に上がるのは、下層のほんの一部分のみであり、小々波君曰く、そこが限界らしい。
「なんだよジロジロと……俺はノーマルだぞ」
「私は妻一筋だ!」
「……その姿で言う言葉かよ」
「これは亡き妻の趣味だ! 桜乃は嫌がっているがっ、これだけは辞めない!」
フリルのシャツに真っ赤なコート!
足首まで覆うスカートに赤いヒール!
これらは亡き妻が私に着せる為に、わざわざ特注した品々っ、着ない訳には行くまい!
「あいつは、昔から変わってたからなぁ」
「小々波君も相当な変わり者だがね」
こうしている間にも、状況は刻々と変化し続けている。ならば私は……私に出来る事をするだけだ。
「有事に備え、この国が潰れぬ様にする」
「あぁ、お前はそれで良いと思うぞ、将勇……」
先ずは、小々波君の給料をカットする所から始めなければ、あのシュークリームの怨みを、忘れた訳じゃ無いからな。
◇ ◆ ◇ ◆
「ぐぬぅぅぅっっっ、ぷはぁっ、駄目でしゅ、やっぱり此処では、スキルが使えないでしゅね」
ガラス張りの牢屋に閉じ込められて、一体何日経ったでしゅか……漫画読み放題、ゲームし放題なのは良いでしゅが、流石に疲れて来たでしゅ。
隣の部屋にはゼグが居るでしゅが、あいつ両手がぐるぐる巻きのギブス固定でしゅから、ずっと、羨ましそうにコッチを見て来るでしゅ。
正直少しうざったいでしゅね!
「ーーーーーーーーー」
「何言ってるのか聞こえないで〜しゅ(変顔)」
「ーーーーーーーーーーーーーー」
このガラス……あの場所の鉱物を使って、スキル封印が施されているでしゅね。しかも完全防音とは、流石にお手上げでしゅ。
「これから……どうなるのでしゅかね……」
まさかあのタイミングで捕まるなんて、絶対あのストーカ、狙ってやがったでしゅね。それに、あのミノタウロスを解体していた幼女……一体どうやってあの場所に来たのでしゅか。
「たとえ最下層に辿り着いても、境界を越えなければ意味が無いのでしゅ……それをやってのける存在でしゅか……」
魔王では力が足りないでしゅし、たとえ神の一柱でも、容易に行えるモノでは無いのでしゅけどね。
「ならば……それらより上の存在でしゅか? そんなの聞いた事が無いでしゅね……勇者より、魔王より強い、あの化物でも不可能なのでしゅ」
駄目でしゅね……考えても無駄でしゅ。
「はぁ……ゲームでもしましゅかね」
「ーーーーーーーーーー」
ゼグ……良い加減諦めるでしゅよ。
腕を治してからなら、いくらでもゲームは出来ましゅからね。
変な終わり方だったので!
追加で一つ載せときます!




