EP.13 赤の勇者と白の魔王
昔々、遥か昔に、二人の子供が居ました。
一人は、木剣を片手に日々鍛錬に勤しみ、村での評判も良い男の子。
一人は、気に入らない事が有ると、本を手に持ち振り下ろす、評判の悪い女の子。
そんな対照的な二人ですが、何故か仲は悪く無く、寧ろ良い方だと言えるでしょう。
何故なら、お互いに持ち得ないモノを持っているから。
何故なら、お互いに認め合っているから。
男の子は思います。
頭の痛くなる本を毎日読み、知識を蓄え、ひけらかす事無く、自分の道を行くあの女の子は凄い奴だと。
女の子は思います。
毎日毎日木剣を振り、手が血だらけになろうとも直向きに、ただ真っ直ぐに、努力するあの男の子は凄い奴だと。
互いに互いを認め合い、足りない分を補い合って、二人は笑い合っていました。
ですが、そんな二人を悲劇が襲います。
女の子の家族が盗賊に襲われ、父は惨たらしく殺され、母は遊ばれてから殺され、女の子は捕まって売り飛ばされてしまいました。
そして、人の醜い内側を覗き見てしまった女の子は、少しずつ、少しずつ、少しずつ、壊れていきます。
人に絶望し、善意を否定し、悪意には悪意で、痛みには痛みで、少しずつ、少しずつ、確実に壊れていきます。
そんな時、一人の男に女の子は飼われます。
目が窪み、頬が痩せこけた怪しい男。
その男は、女の子を連れ帰ると、直ぐに鎖に縛り付け、何かの液体を飲ませました。
毎日毎日毎日、食事の代わりと言わんばかりに、毎日毎日毎日飲ませました。
苦しくて、身体中が言葉にならない悲鳴をあげ、吐いたら直ぐに飲まされて、毎日毎日毎日毎日、飲まされました。
そうとは知らない男の子。
女の子の姿が見当たらない中でも、日課の木剣振りを続けて居ました。
そんな時、村が魔物の集団に襲われました。
村の男衆が集まり、魔物と対峙します。
勿論男の子も戦いました。
ですが、数の暴力に抗えず、村へ魔物達が雪崩れ込んで行きます。
それでも諦めず、血の海に溺れながらも、必死に剣を振り続けます。
魔物の侵攻がおさまり、男の子はふらつきながらも、家へと帰りました。
そこには、誰も居ませんでした。
有るのはただの肉塊のみで、両親の姿が見当たりません。
男の子は探しました。
村中を駆け回って探しました。
疲れ果て、家へと帰り、先程も見た肉塊が目に入ります。
男の子は膝をつき、四つん這いになりながらも、その肉塊に近付きます。
そこには、母親が持っていたブローチが。
そこには、父親が持っていた剣が。
男の子は叫びました。
ただただ叫びました。
自分がもっと強ければ、自分が早く駆け付けていれば、自分が、自分がと、ただひたすらに叫び続けました。
時が経ち、男の子は冒険者と成り、力を付けました。
数百、数千という魔物を屠り、ドラゴンを一人で討伐し、魔人でさえも逃げ出す力を付けました。
貧しい者に教えを授け、困っている人に手を差し伸べ、魔物で苦しむ人あらば即座に向かい、それらを殲滅しました。
そしてその冒険者は、火の魔法を極め、剣と併せて戦う姿から、いつしか『赤の勇者』と呼ばれる様になりました。
ある時赤の勇者は、王様より勅命を受けました。
彼の地にて新たな魔王が現れ、幾つかの町や村が壊滅した。速やかにその魔王を討伐せよと。
赤の勇者は急ぎます。
町や村に住まう人達を助ける為に、二度とあの様な惨劇を起こさぬ為に。
迫り来る魔物を蹴散らし、魔王の配下と思われる魔人を退けながら、とうとう魔王と対峙しました。
赤の勇者は目を見開きます。
そこに居たのは、かつて女の子だったモノ。
白く輝く長い髪に、血の様な赤い眼孔。
人々から、恐怖と畏怖を込めて言われる名が、『白の魔王』。
赤の勇者は尋ねました。
何故人々を苦しめるのか、何故人々を貶めるのか。
白の魔王は応えます。
自らの行為を考えず蔑め、奪うだけの人なぞに、生かしておく意味なぞ有るのかと。
白の魔王は尋ねます。
人は魔物よりも汚く、悍ましいモノだ。貴様は人か、赤の勇者。
赤の勇者は応えます。
自分は人だ。悍まく、愚かで、汚い、されど実直に生きようとする人だ。
お互いの視線を交わします。
そして、赤の勇者は剣を抜き放ち、その刀身に炎を纏わせました。
それを見た白の魔王は、城の柱や壁を圧縮して剣と成し、それを幾千と待機させます。
そして、お互いに全力で、それこそ一切の迷い無く放たれた力は、暴れ狂い、周囲を破壊しながら拡大を続け、そこに有った全てを飲み込み、消え去りました。
赤の勇者『ゼグ・オルストイン』と、白の魔王『ノアン・ジルテッド』を知る者は、それこそ、他の魔王以外消え去りました。
そう、他の魔王以外は。
遠くからその戦いを見ていた者。
虹色の髪をなびかせ、虹色の瞳を輝かせながら、その少女は見ていました。
悲しき勇者と、悲しき魔王の最後の瞬間を。




