EP.11 熊さん虎さん土竜さん.4
「熊さん、逃げないでっ、頭痛い頭痛いの……私の記憶じゃ無いっこんなの……私は知らないよぉおおおおおお────っ!」
「あっ……これは不味いっ」
あの化物理性飛ばしやがったっ、このままじゃ使え無ぇぞ糞っ『ゼグッ避けるでしゅ!』どうしたら──危っ!? 少し離れて居たのにっ、一瞬で間合いを詰めて来やがった!
「触らせてぇえええ────っ!」
「ぐっ、それは俺じゃ無ぇだろ化物がっ! そこの熊を狙えよ!」
鼻先を化物の指が通り過ぎるだけで、衝撃が頭を揺らして意識を持って逝かれそうになる。その指に触れて仕舞えば、間違い無く肉が削がれ、掴まれたら最後────潰されるだろう。
「──グァアアアッ」
糞っ、何でこの階層最強種が逃げようとしてるんだっ、今お前が居なくなると困るんだよ!
「白瓦っ、その糞熊を逃すな! 今そいつに居なくなられたら、俺達が詰むぞっ!」
「分かってるでしゅよ! 今ならスキルが使えましゅし──常時転移で同じ場所に固定しましゅ!」
「グァッ!?」
良しっ、あの化物虎の様な能力じゃ無けりゃ、白瓦に任せても問題無い……あとは──こっちの化物だな。
「頭痛い……頭痛い……お父さん…お母さん……っ、何で! こんなっ、違うもん違うもんっ、一人暮らしする時に『行ってらっしゃい』って言われたんだもんっ、こんな記憶は知らない……知らないんだぁあああ────っ!」
以前に見た赤いオーラと、見たことの無い緑のオーラを纏いながら、化物が迫って来る。スキルの進化か、又は化物のレベルが上がったのか────
「でっ、やっぱりお前は真っ直ぐ来やがるよな! カウンターで顔面焼け爛れやがれっ!」
────完璧なタイミング。真っ直ぐ突っ込んで来た化物の振りかぶった腕を避け、手を化物の顔面に向けて魔法を発動した。
炎が一瞬にして弾け、地面を抉り、木々を焼き、薙ぎ倒していく。
辺り一面火の海となる中で、濛々と煙を上げる先をジッと見詰めた。
超近距離での中級魔法『集弾炎』──この魔法を近距離で受けたなら、いくら化物と言ってもただでは済まない筈。
「……死にはしないだろうが……火傷の一つぐらいは負っていろよ化物……」
上空から落下して分かる通り、物理的な攻撃は間違い無く通じ無いだろう。それなら、本気の姿での俺の魔法ならどうか────糞女と戦った時よりも弱い力だが、上層の階層主ぐらいなら軽く焼き殺せる威力は有るぞ。
「……頭痛いっ、痛いんだよぅ」
煙が晴れて行く。
その先で目を血走らせ、二色のオーラを纏いながらこっちを見て来る化物。
多少、僅か、ほんの少し顔を赤くして、傷一つ負う事無く、化物は腰を低くした。
「ははっ、それじゃぁマジもんの化物だろ」
突進────化物が走る度に大地が割れ、突風が起こり、視界を塞ぐ。
「ゼグッ! 熊を使うでしゅ!」
「ナイスタイミングだ白瓦っ」────あの化物の進路上、俺の前方に熊を転移させ『グァッ!?』盾代わりに使い、今度は上級魔法でカウンターをぶち込むっ!
さぁ……来やがれ化物っ!
嫌な汗が背中を湿らせ、緊張で手が震える。
前世で魔物集団に囲まれた時よりも、今世でゴミ共に殴られ、死にそうになった時よりも、遥かに目の前に居る化物の方が、怖い。
「……来ない……何が…」
何だ? 化物が途中で止まってる……いや、気絶しているのか。何で立ったまま気絶してんだよ、化物というより昔の武将かっ。
「……熊邪魔だな……っ!?」
前方に配置した熊に近付くと、胸に大穴を開けて血を噴き出しながら、まるでオブジェの様に固まって居た。
「ゼグ、熊が居なかったら、穴が空いて居たのはお前でしゅよ……あの化物、気を失う前に石を投げていたでしゅ……本能の塊でしゅね」
「……殺される一瞬手前だったか。理性が飛んでも、殺意は消えなかったって訳だな」
あぁ…流石に疲れた。
一旦ホームに帰って休むかどうか……この状態で下層はキツイな。
「白瓦、そこの化物連れて一旦ホームに帰るぞ。流石にこの状態で下は無理だ……白瓦?」
何だ、白瓦の奴無視しやがって。
「ゼグ……やばいでしゅ」
「何がだ……まさか転移が使えないのか!?」
「力場で妨害されましゅ……空間が捻じ曲がっているでしゅ」
おいおい、力場で空間を捻じ曲げるって……そんな離れ技出来るのは──っ、あの糞女!?
空を見上げた。
迷宮の空から落ちて来る二人の女。
一人は金髪の目付きが悪い知らない女。
そしてもう一人──白髪を靡かせながら、真紅に染まる眼差しを向けて来る女。
「このタイミングかよっ、ノアンっ!」




