EP.7 : 壊れかけの少女.5
花乃歌が消えた。
ただそれだけで胸が痛くなり、目の奥が熱くなる。それを必死に堪えて、スキルを全力開放しつて自宅へと戻り、汗を拭って身なりを整え、車椅子に座って書斎へと急ぐ。
「早く御父様に掛け合って、監視カメラの映像を確認しないとっ」
まだ胸の鼓動が治らない。
きっとまた、あの姿へと変わっているのでしょうけど、今は気にしていられませんわ。
書斎のドアをノックして、中へと入る。
「失礼致しますわ御父様、至急お願いしたい事が──どなたかしら?」
書斎には御父様の姿が無く、ただ一人、頭にバンダナを巻き、部屋の中にもかかわらずサングラスをかけた男が、椅子に座って寛いで居た。
「んっ? 将勇なら会議とやらで出かけてるぞ、夜も遅くに御苦労な事だよなぁ」
御父様を将勇呼び……確か、この様な姿を教科書で見ましたわね。昭和の頃のファッションかしら……本当にどなたなの。
「嬢ちゃんも大きくなったなぁ、しかもその姿……ちゃんと制御出来てるじゃん」
「──っ、何者ですの貴方! 私のこの姿を知っているのは、御父様とゼグだけの筈でしてよ!」
車椅子から立ち上がり、スキルをいつでも放てる様にする。
「ちょい待ちなさいって! 俺は将勇の古くからの友人? 親友? なんて言うのか難しいけどっ、今はそれどころじゃ無いんだろ!」
「貴方……何を知ってますの、今直ぐ吐くなら痛い思いをせずに済みますわよ……」
得体が知れない、チカラの底が見えない、意味が分からない……その男を見てそう思った。
まるで……あの世界に居ると言われていた神々や魔王の様であり、だけども、そこら辺に居る一般人の様でもある。
額から汗が滲み出でて、つ──っと顎先へとつたって行く。
「花乃歌が今居るのは迷宮だ、それも中層と下層の境目だな」
「なぜ貴方がそれを知っているのかしら、貴方が花乃歌を誘拐でもしたと言うの?」
有り得ないですわ花乃歌を誘拐なんて、普通は返り討ちにあって病院送りですわよ。
「まぁ、俺は遠くから見てたけど……誘拐犯も一緒に落ちてたな。花乃歌の奴も強くなったもんだよ、近接戦なら俺死ねるぞ」
誘拐犯は別────まさかゼグっ!?
迷宮へ潜る為に、花乃歌を利用しようと考えて実行した……一度花乃歌を襲っているから、そう易々と花乃歌が言う事を聞いてくれる筈が無いのに。
「普通だった花乃歌は従わないだろ、普通だったらな」
「何か、理由が有れば従うと?」
この男は何を知っているの……御父様の事も、私の事も、花乃歌の事も知っていて、一体何者なの。
「五年前の事、お嬢ちゃんは覚えているか?」
「────覚えているわ、私の罪よ」
覚えていない訳が無い。
ゼグに突然襲われて記憶が戻り、制御が効かず多大な被害を出してしまった。
我を忘れ、ただ混乱したまま振るったチカラで、ありとあらゆるモノを破壊した。
気が付けば病院に居て、テレビを見てもガス爆発とだけしか映っておらず、御父様からの指示で、唯一の被害者である男性の持ち物を破壊して、その場から去って行った。
「罪ねぇ……将勇の奴、嫌な役を押し付けやがって……」
この男は何を言っているの? 役?
「あのなぁお嬢ちゃん、あの破壊で負傷者一名な訳無いだろ、頭が御花畑過ぎるんだよ、少し考えりゃ分かるだろうに……」
そんなのは分かっている、あそこまで破壊して負傷者が一名だなんて有り得ない。だからあの後に情報を集め、調べて、結局何も出て来なかった。
「死者百二十三人、負傷者約六百人、情報操作と記憶操作のダブルが成せる技だよな、お嬢ちゃんが幾ら調べても出て来る訳が無い」
「貴方は何を言っているの……あの時っ、各省庁やマスコミに連絡してまで調べたのよ! いくらスキルが有用でも万能ではないの!」
この男はスキルを知っている! でも、いくら記憶操作をしても万能では無いし、調べれば何某ら出て来た筈よ!
「万能じゃ無いわな……将勇が活用しなけりゃだけど」
それはっ、確かに御父様ならば、情報の穴を確実に埋めて潰して──あの時の被害者は記憶操作を受け付けなかったと言う事っ!?
「お嬢ちゃん自身で証拠潰してたからな……あぁ、これその時のリストね。なぜ今、これを伝えたかを考えるといいさ、俺は帰るよ」
男はそう言って、リストを置いたまま出て行った。
私はあの男の言葉を信じられず、ただ置かれているリストを手に取り、一人一人名前を確認して行く。
あの男の言葉、『なぜ今これを伝えたか』という言葉が頭から離れず、ただひたすらにリストを確認して行く。
怖い怖い見たく無い私じゃ無い私の所為じゃ無い見てはいけない違う違う違う────死者の項目に、『桐藤』と言う性は無く、少し安心した。してしまった。
一枚の紙がリストから落ち、目に止まる。
体が震え汗が止まらない。
喉が渇き声が出ない。
力が抜け、車椅子から落ちる様に床に手を付き、その紙に書かれている内容に目を通す。
「ぁっっっ────────」
リストを握り締め、声にならない声を上げ、床に額を打ちつけた。
何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、額から血が流れようとも、何度も、何度も、何度も打ちつけた。
髪が白く輝き、スキルが暴走して屋敷を破壊していく。
『報告書・ビルに挟まれた状態の女性を発見、側に居た女児を保護。
女性を直ぐ病院へと搬送するが、下半身が潰れており、遺言を残しそのまま死亡。
遺言に従い一人娘を特別施設にて保護、スキル発現の被験者とす。
被験者名・桐藤花乃歌』




