EP.7 : 壊れかけの少女.4
華ノ恵百貨店を出て直ぐ、花乃歌の家に向かった。ついでに華ノ恵御嬢様にもメッセージを送って、もう直ぐあのボロ……花乃歌的には可愛いアパートだ。
「確か三階だったよな……何でお前が居るんだ」
暗がりの中、アパートの前のコンクリに、華ノ恵御嬢様が息を荒げて座り込んでいた。
「あっ、貴方が送ったメッセージを見てっ、急いで来たのですわっ……ふぅ、流石に全力で飛ぶと疲れますわね」
いやメッセージ送ってからまだ一分か二分そこいらだぞ、どんだけ花乃歌の事心配してるんだよ凄いわ。
「まぁ良いけどよ、さっさと行くぞ」
「待ちなさい野小沢さん」
何だよ、こっちは急いでるんだぞ。
そう思って華ノ恵の方を見ると──顔が青ざめ、苦しそうにしていた。
「使い過ぎね……お願いなんだけど、おぶってくれないかしら」
「お前、後先考えずに来たのかよ……っ分かったよまったく、おぶれば良いんだろっ」
後先考えずに突っ込んで行くのは、花乃歌だけで十分なんだけどな。
華ノ恵御嬢様をおぶってゆっくりと階段を上り、三階の角部屋へと向かうと、また誰かしゃがみ込んで居た。
「……華ノ恵御嬢様の知り合いか?」
「なぜ私の知り合いだと思ったのかしら野小沢さん、知らない人よ」
じゃあ誰なんだよ、何か米袋抱き抱えて……寝てるじゃねぇか!?
「おいっ起きろ、こんな場所で寝るんじゃねぇよ風邪ひくぞ」
「ふぇっ……花乃歌ちゃん? 違うぅ……誰?」
アンタこそ誰だよ、花乃歌の知り合いか?
見た感じポワポワしてて良い匂いもするし、何だこの女?
「私とおぶっているコイツは、花乃歌のクラスメイトで友人だ。それで、アンタは誰でここで何してるんだ?」
「……!? まぁまぁ花乃歌ちゃんの友人! 嬉しいわぁ、いつも花乃歌ちゃん一人だったから、心配してたのよぉ!」
急に笑顔になりやがった!? と言うか近い近い顔近いし体も近いし何だコイツ!?
「花乃歌ちゃんねぇ、律儀にお米を贈ってくれたんだけどぉ、流石に貰うわけにもいかずに返しに来たのぉ。ついでに元気な姿も見たいなぁって思ったんだけどぉ、全然帰って来ないから眠くなっちゃってぇ……テヘッ」
恥ずかしさを誤魔化す姿が昔の世代だろそれっ、今ので大体の年齢が分っちまった……。
「もしかして花乃歌のお母様でいらっしゃいますか? 私、花乃歌の一番の親友、華ノ恵桜乃と申しますの。お会い出来て光栄ですわお母様」
「……私におぶさりながら自己紹介は良いとしても前のめりになるなよっ、何気に重たいんだよ御嬢様っ」
そういや花乃華、少し前にお母さんに米袋送ってたもんな。
「あのぉ、私は花乃歌ちゃんのお母さんじゃ無いんですよぉ。ふむぅ……やっぱり一人暮らしさせるんじゃ無かったかなぁ」
あれっ、花乃歌は確かにお母さんに米送ったって言ってたよな、高い日本米で唸ってたから間違い無いだろ。
「私はこう言う者ですぅ、はいお名刺ー」
「どう言う事だよ……どうもっ」
名刺を受け取り、暗がりの中アパートに灯る光を使って見てみると──『児童養護施設 愛情会職員 十島重八代』と書いてあり、余計分からなくなってきた。
「私と買い物した時には確かに米を送っていたし、花乃歌はお母さんに送ったって、喜ぶだろうって言ってたぞ……」
花乃歌が嘘を吐いた? いや、花乃歌は嘘が下手くそだし、何より嘘を吐く理由が無い。
「華ノ恵、お前何してるんだ?」
私の頭がこんがらがっている時に、華ノ恵御嬢様はスマホを触って何かを調べている。
「……野小沢さん、彼女から少し離れて聞いて」
急に華ノ恵が耳元で囁いた。
意味が分からず華ノ恵を背負ったまま、階段の近くまで移動する。
「愛情会なんて施設、調べても出てこないわ」
「──っ、なら何だんだよっ、花乃歌の買った米を持って来てるんだぞ」
花乃歌も帰ってなさそうだし、意味が分からない事続き過ぎて頭が痛いぞ。
「役所のデータベースに無いのよ。考えられるのは国の機関か、彼女が嘘を吐いてるかのどちらかね」
「つまりは身分を隠してる怪しい奴って事だよな。と言うか今の時間で調べたのかよ、流石華ノ恵御嬢様」
「あのぉ、花乃歌ちゃんはいつ帰って来るのでしょうかぁ。私明日には帰らないとぉ、子供達も待っているのでぇ」
そうだよ今そんな事よりも、花乃歌が何処に行ったのかを調べねぇと。
「何か探す方法は無いのか華ノ恵、御嬢様なら百貨店の監視カメラぐらい見れるだろ」
「……帰ったらお父様に聞いてみますわ、セキュリティは私では見れないもの」
それじゃあ今日中には探せないな、一度帰って明日また探すか。
「そう言う事だ。花乃歌のやつどっか行っちまってな、私ら探してる真っ最中だから、いつ帰るのかなんて分かんねぇぞ」
「そうですかぁ……ならまた来ますねぇ」
そう言うと女は米を摘んだまま立ち上がり、ふらふらと階段を下りて行った。
「なぁ御嬢様、あの米袋……指で摘んで持てるか?」
「スキル無しだと無理ね、念の為彼女の事も調べておくわ」
養護施設の職員か……それなら、花乃歌のお母さんって何処に居るんだ。




