EP.5 : 暗躍する者達.2
華ノ恵邸の一室で、華ノ恵桜乃の父親にして華ノ恵グループ総帥、『華ノ恵将勇』は、執務室にて書類作業をしていた。
「ふむ、那紗道の娘はリタイアか……見込みは有ると思っていたのだが、気のせいだった様だね」
その書類は、地下から魔物が上がって来た際に交戦して、負傷した者達のリスト。
そのリストを見ながら、マル、ペケと記号を書いていき、ふと──手を止めてその内容を見た。
「ボア種の異常個体を単独撃破か……」
将勇の瞳には後悔の色が透けて見え、ゆっくりとリストにマルを入れる。
紅茶を一口飲み、溜息を吐きながらも続きをしようとした矢先────サングラスをかけ、頭にバンダナを巻いた男が、将勇の前に現れた。
「すま──ん、転移持ち逃しちゃったぞっ、てへっ!」
「構わないよ小々波君、どうせ行った事の有る場所しか行けないのだし、またこの町に来るだろうからね」
華ノ恵将勇は、ゆっくりとリストを見ている顔をあげ、ドアの近くにいる小々波を睨みつけ、舌打ちをした。
「チッ……小々波君、今君が食べているモノは、桜乃がお父様にと買って来てくれた、限定シュークリームでは無いかなね……」
この屋敷の厨房には必ず料理長やスタッフが常駐している為、そう易々と入り込んで、勝手にシュークリームを盗む事なぞ出来る筈が無いのに、小々波の手にはしっかりとシュークリームが存在している。
「このシュークリーム案外美味いな。そう怒るなよ、ちゃんと残してあるって」
「全部食べていたら給料カットするからな……」
二十年来の旧友。
小々波と出会って二十年が経つ。
今だに良く分からない男であり、今の日本に最も必要な人材であり、将勇の一番の理解者でもある。
「将勇、手伝っている俺が言えた事じゃないけどさ、娘の桜乃ちゃんには、花乃歌ちゃんの事を言うべきだと思うぞ」
その言葉を聞き、将勇は顔を顰める。
確かに、いつかは言わなければならない。
だが──それを桜乃が知ってしまったら、この短い期間であそこまで仲良くなった二人に、亀裂が入ってしまう。
「下手をすれば花乃歌君が、桜乃を殺してしまうかもしれないのにか?」
納得は出来ないが理解はできる。
桜乃が犯した罪なのだから。
それでも……私の一人娘なのだ。
可愛い可愛い一人娘なのだ。
「そうなったら──俺が止めるさ。あの規格外のスキルは厄介だけど、流石に旧友の娘を殺させる訳にはいかないしね」
この男がそう言うのならば、方法は分からないが止める事が出来るのであろう。
「にしてもやっぱり……スキル発現するのはランダムっぽいよな。俺が確認出来てるだけでも二人しか居ないもん」
桐藤花乃歌と野小沢麗音の二人のみ。
佐凪夜や転移持ち、桜乃等は元々の能力者であり、今の所は他に確認されていない。
「スキルを恐れ隠しているか、隠れている可能性もあるだろうし、君の仕事は継続で頼むよ小々波君。今後の日本、いや──世界には、能力者が必ず必要になるのだから」
「へいへい。それじゃあ報告終わったし、店に帰るわ、シュークリームごっそさ──ん」
そう言うと、小々波は歩いて出て行った。
それを見届け、再度溜息を吐いた将勇は、疲れを取る為甘いモノが欲しくなり厨房へ行くと、結局小々波にシュークリームを全て食べられていた。
「給料全額カットだあのクソがぁあああっ──!」
顔を真っ赤に鬼面と化して怒る将勇を、料理長やスタッフ達は何事かと遠巻きに眺めており、決して近づく事をしなかったという。




