EP.1 : 溢れ出すこの想い.1
夕暮れ時の校舎裏。
今日は想いを伝える日。
大好きな先輩に告白する日。
ちゃんとメイクもネイルもバッチリだよ。
ヘアスタイルは諦めてるの。
寝癖じゃないよ、セットしても丸々もん。
先輩を校舎裏へ呼んで……先輩……好きです!
勇気を出して告白した瞬間にね、先輩が飛んで行って血を吐いて倒れたの。
異変に気付いた生徒が沢山集まって来て、先輩を助けようとしているけどあれ? 私は何をしたのだろうか。
「おい!救急車を早く呼べよ!」
好きな人に告白しただけなのに。
「先生早く!酷い怪我をしてるの!」
先輩が血を流して倒れているのに。
「どうしたっ何があった!?」
足が動かない。
「おい心臓止まってるぞ!!」
助けないと。
「どけっ! 確か顎上げて良し!」
私が助けないとだめなの。
「一ッニッ三ッ四ッ五ッ──」
そうじゃないと。
「救急車まだかよ!」
だって、だって。
「五分かかるって遅せぇよ!!」
このままじゃ……嫌……。
「お前何しやがった!?」
嫌ぁあああ────────!!
「ゲフッフッ──」
先輩っ!!
「息戻った! おいまだ寝てろって!」
先輩だ────
「ゲフッ近づぐな化物!!」
────えっ? 先輩……今……えっ。
「なんだよお前っゲフッっ俺が何かしたか!?」
先……輩……? まって違う! 私はっ。
「こんな物の要るかっ!!」
あっ……私の手紙……。
私の想いを綴った手紙が丸められ、私の足下へと転がってくる。
私は今日、失恋したのだ。
全部この力の所為だ。
全部全部この力の所為だ。
「うわぁあああ────────」
あぁ、泣いちゃった。
誰も助けてくれないのに。
先輩に化物って言われちゃった。
これ……退学かなぁ……。
私は良く分からない感情のままに拳を握り、そのまま校舎へ叩きつけた。
空から瓦礫が降って来て、私を呑み込んだ時、ふと────前日の記憶が頭の中を駆け巡った。
《ピピッピピッピピッピピッピッ──》
あと……五分……。
毛布を頭まで被り音を遮断しようとする。
《ピピッピピッピピッピピッピッ──》
うるさい……ん──っ?
手を伸ばし目覚まし時計を探すけど見つから無い。
《ピピッピピッピピッピピッピッ──》
「あ──『うるさいっ!』」──パンッ!!
飛び起きて目覚まし時計に手を叩きつけようと腕を上げて狙いを……目覚まし時計が粉々になっている? あれ? 何で粉々になっているの?
高校入学を機に親を説得?して、一人暮らしを始めた記念にと買った推しの猫耳限定目覚まし時計が……粉々になってる。
「なんで……数量限定品なのに……」
知らない間に叩いたのだろうか? いや、叩いただけだと粉々にはならないし私はそんなに馬鹿力では無い。
そっと、粉々になった目覚まし時計だった物のカケラを集め……ゆっくりとゴミ箱へ入れてスマホをポチる。
「うぅっぐすっ……プレミア価格になってるよぅ……高い……」
流石に私の毎月のお小遣いじゃ買った瞬間ママから『半年はお小遣い無しねぇ』と言われ、バイトをしなければならない状況になってしまう。
「バイトかぁ……」
私が笑顔で接客をしている姿が想像出来ない。
スマホで時間を確認、まだ時間あるね。
鏡を見ながら歯を磨いて、顔を洗って……(ニコッ)うん、自分でも怖いと思う笑顔だよ。
顔は整ってる方だと思う。
若干吊り目気味で誰も眼を合わせてくれないし、無愛想、鋼鉄の乙女なんて言われた事もあるけど美少女の部類には入るだろうふふふ。
だけど、唯一気に入らないのが……頭。
どこぞで海外の血が混じっているのか茶髪にこの癖っ毛はどうにかならない物だろうか。
試したよ色々。
お高いヘアアイロンは役にただず、美容師のお姉さんからは無理ですと言い切られ、雨の日なんかもうメデューサみたいにうねうねと……お陰でヘアスタイルが限られる。
美容師さんに無理ですと言われてから一度も切っていないから、波打ちながら腰まで伸びた髪を無理矢理お団子にして──完成!
「さらさらヘアになりたいなぁ」
桐藤花乃歌、十五歳、身長百四十センチ。
サラサラの髪に憧れるただの女の子っ(ニコッ)……うん。
「だめだ、これはだめだよ表情筋」
登校初日から無愛想だの鋼鉄の乙女だのと言われたくないもの。口元マッサージ口元マッサージうにうに。