EP.2 : 疲れた時こそ栄養を.5
鶏さんが居ても、まだ鳴く事が無い早朝。
さっちゃんの抱き枕兼、サンドバッグとして眠れぬ夜を過ごし、目の下の熊さんがおはようとなっている、私を見た家政婦さんが、急ぎベッドから私を助けてくれた為、何とか他の部屋で仮眠をとる事が出来た。
さっちゃんが朝起きたら、枕元に私が居ないと慌て、屋敷内に響く程の大声をだして、私を呼び続けていたらしい。寝ていたから知らないけども。
なので今日のさっちゃんは、若干ご機嫌斜めな、御嬢様になっている。
「桐藤さん。早く準備なさって下さい。学校に遅れてしまいますわ」
ツンツンしてる……。
「分かってるよ、さっちゃん。髪が爆発してるの。少しだけ待っててっ」
昨日の高級シャンプーで、一時はさらさらになってたのに、一晩経てば、ほらこの通り……頭に蛇が、いっぱいだぁ。
「ぬぅう……さらさらヘアに、なりたいなぁ」
さっちゃんの念力で、ストパーをあてる事は出来ないかなぁ。そうしたら、絶対にイケると思うの。
「どうしたんですの桐藤さん……。早く準備を、なさって下さい」
いつか頼んでみよう。
さっちゃんなら、笑顔でやってくれるよね。
良しっ、ヘアゴム装着完了っ。
「お待たせ、さっちゃん」
さっちゃんの後を追いかけた。
そして、屋敷の中をぐるぐる、ぐるぐる。
エレベーターに乗って、ぐるぐる、るぐるぐる……広すぎじゃ無いかな。私一人だと、絶対迷って屋敷で遭難だ。
「まだ外に出れない……」
「もう少しですわ」
もう、十五分は歩いてるよね。
ここは窓も無いし、外が見えない。
何か……小さい頃にテレビで見た、刑務所か、実験施設の様な雰囲気だ。
「着きましたわ。すみませんが、ドアを開けてくれませんか。桐藤さん」
なんでわざわざ私に。
うぅ……さっちゃんがジッと見つめて来る。
「……分かったよ。開けるから、その眼をやめてさっちゃんっ」
ドアに手を掛け、ゆっくりとスライドさせて、外を見ると────鬱蒼とした森が視界を覆った。
「なんで……森なの」
後ろを向いて、屋敷を確認。
うん……屋敷と思っていたけど、これは、何というか、一言で表すなら……要塞だ。
「なんで……要塞なの」
「ふっふふ。驚きましたか桐藤さん」
さっちゃん。コレはどういう事なかな。
なんか、悪戯に成功しましたって感じで、笑っているけども、普通に驚くよね。
「こちらですわ」
どこに向かうのさ。
学校に行かないと────学校!?
要塞の壁に沿って裏手に回ると、普通に学校が見えた。
要塞や森の所為で、何処に居るのかが分からなかったけど、学校の裏手。丁度校舎に隠れる様にして、この要塞が建っていた。
「秘密基地だよね……雰囲気的に」
なんでこんな隠れる様にして、建ててあるのか、あまり考えたく無いなぁ。
「行きましょう。桐藤さん」
さっちゃんの笑みが、若干怖い。
◇ ◇ ◇
視線が痛い。
どれほど痛いかと言うと、テーブルの脚に、足の小指をぶつけた後、悶えていたら更に衣類ボックスに、同じ小指をぶつける程に痛い。
こっちを見ながら、ヒソヒソと小声で話をしているけど、私が────(ニコッ)────っと笑顔を向けるだけで、走り去って行く。
そんな事を繰り返しながら、校門を潜り、職員室へと向かっていた。
「そんなに構えなくても、大丈夫ですわ」
さっちゃんが一緒だから、少しは気が楽だけど、私……結局どうなるんだろう。と、不安のままに────ガラガラッ────と教室の扉を開けて中へ入り、先生の前へ行き挨拶をしたら、変な事を言われた。
「お──桐藤、待ってたで。災難やったな──」
先生の話す内容に、理解が追い付かない。
先生が言うには、奈村先輩は、元々心臓に持病を抱えていて、過度な運動と、私からの告白により負担がかかり、吐血し病院へ運ばれた。
動揺した私が、壁に寄りかかった際、老朽化していた壁が崩れて、それに巻き込まれたが、奇跡的に瓦礫が上手く重なり、私は傷一つ無く助かり、介抱する為に、さっちゃんが連れて行った……そう言う事になっていた。
私……何もお咎め無しなの。
でもっ……他の生徒や先生も居たのに。
どうして。どうやって。
「大丈夫と言いましたわよ。桐藤さん」
それでも、納得出来ない。
やってしまった事に罰が無いのは、駄目な事だと思うから。
「けど、私がした事だよ……さっちゃん」
「ふふっ、真っ直ぐですわね。でも……一体だれが、貴女みたいな小さな女の子が、筋骨隆々な先輩を吹き飛ばして殺しかけ、壁を殴って崩壊させたなんて話を、信じるのでしょうか」
ぐっ、ぐぅの音も出ない正論だぁ……。
あと、地味に貶されたのかな私。
確かに、身長は伸びて無いし、自分でも小さいなとは思うけど、言われると心にくるよぅ。
「大丈夫ですわ。ちゃんと罰は有りますもの」
さっちゃんの笑顔が、一瞬、般若のお面に見えたんだけど、罰って何をされるのかなぁ。
◇ ◇ ◇
なるほど、これが私への罰なのね。
教室に到着するやいやな、まだ名前を覚えていないクラスメイトから────
「……元気だせよ」
「大丈夫? 具合悪く無い?」
「次の男を探せばいいさ」
「はっ?アンタ馬鹿じゃないの」
「華ノ恵様と登校っ……許さないぃいいいっ」
「こんなに小さいのに…」
「顔が悪かったとか?」
「笑わなかったら、可愛い……のかな」
────等々、心配されまくる。
どうやら私は、入学して間も無いのに、告白して、玉砕した第一号の、可哀想な子として、認識されたっぽい。
途中、怨嗟の声が聞こえたけど、誰が言ったのかは分からなかった。
「針の筵だよぅ……。心配されるのは嬉しいけど、これはこれで辛いなぁ」
でも、嫌われるよりかは、遥かに良い。
どうやって、あの時の現場に居た生徒を、説得したのか分からないけど、さっちゃんが何かしてくれたのだろう。
さっちゃんに感謝しないとねっ。
「さっちゃん────大好きだよぉ!」
んばっ!! っと両手を広げて、車椅子に座っているさっちゃんに、抱きつく。
「きっ桐藤さんっ、急に抱き付かないで下さいっ。皆さんが見ておりますのよ!」
ムギュ────ッとしちゃうの! 大好きな一番の友達だもん!!
「おっ……折れっ、ますわっ……」
危ないっ、また変に力がでてるよ。
EP2-4から、ミチミチ文章をちょっと変えました!!
どちらがいいか、読者様に問いたいところ。
是非、感想をばお待ちしております!!