EP.2 : 疲れた時こそ栄養を.3
二十年前に起きた大災害
終末の刻。
未曾有の大災害。
それにより、何もかもが不足して、何より一番の問題となったのが、食糧不足。
巨大な穴により東西が分断され、陸路が絶たれた状態で、各都市部に食料を届ける事が出来ず、空からの輸送にも限界があり、海路を使い輸送する地域もあったが、結局は燃料不足に陥り、中心部まで手が回らなかった。何よりそれを指示する人達が、右往左往する始末。
その時の名残りだろうか。
国産の食材、特に肉類が非常に高価であり、二十年の時を経ても価格は一向に下がらず、海外からの輸入に頼ったままである。
そして、私の目の前のテーブルには、その高価な国産の牛さんを使った、ミディアムなステーキが『ぶ厚いだろ』と言わんばかりに大きなお皿に鎮座しており、私はそのお肉を前に両手を合わせ、涙を流し、頭を垂れている。
「これが、国産のお肉様なんだね……」
湯浴みをした後、さっちゃんについて行ったら、ご飯をご馳走すると言われて椅子に座らされ、そして現れたお肉様。
私の行動に、さっちゃんは若干引き気味ではあるけども、国産のお肉様なんて小学生の頃、少しの量を食べた記憶しか無いのだから、仕方ないと思うの。
「桐藤さん、どうぞ冷めない内に召し上がって下さい。料理長みずから、腕を振るってもらいましたの」
さっちゃんからのゴ──サインを確認したんだよ。作戦名は、お肉様頂きますだね。
「有難うさっちゃん。頂きます」
ナイフとフォークだぁ。
何か御嬢様になった気分だよね。
確か……右手にナイフ、左手にフォークで、左側から一口サイズに切り────!?
すんなり切れたよ、凄く柔らかいお肉だぁ。
それじゃあお口に──「モキュモキュ……」
口の中に入れ、噛んだ瞬間、肉汁が溢れ出て旨味の波が押し寄せ、息をする度、赤身肉とソースが合わさった香りが鼻を抜けて行き、これを一言で表すとしたら『美味しい』と言うんだろうけど……何だろうこれは。
「どうしたの桐藤さん。お口に合いませんか」
美味しいんだけど、とても美味しいんだけど、なぜだろう。あの定期的に食べている安い牛さんの方が、美味しいと感じてしまっている。
そんな事、さっちゃんに言える訳が無いよ。
「とっても美味しいよさっちゃん。頬が落ちそうになっちゃうね。流石国産のお肉様だよ!」
嘘は言ってないもん……本当に美味しいんだから。ただ、あの牛さんの方がもっと美味しいってだけだからね。
「そう……お口に合った様で、何よりですわ」
ちょっとだけ、不満そうな顔をしたけど私、顔に出て無いよね。大丈夫だよね。
それにしても、さっちゃん凄いなぁ。まったく音を立てずに、お肉様を食べてるよ。これが本物の御嬢様の能力……私もっ──《カチャッカチャッ》──うん、私には無理だ。
「ご馳走様でした──お腹いっぱいだぁ」
お腹をさすり満足なのです。
流石にあの分厚さは、食べごたえがあったよ。なんたって、私の顔が隠れる程の大きさだったからね。
「お粗末様でしたわ。お皿は置いといて下さい。後で家政婦さんに、片付けさせますので」
お粗末様って初めて聞いたんだよ。所々に昔の言葉を言って来るさっちゃんって、本当に同学年なんだろうか。
今何時かな。そろそろ帰らなきゃ。
「さっちゃん、色々有難う。そろそろ帰らなきゃ、これ以上は迷惑かけられないや」
制服はどうしよう。お洗濯してくれているから、乾いてないと思うけど、そのまま持って帰ろうかな。
「何をいってるの桐藤さん。もう外は暗いし、今日はここに泊まって貰うわ」
ほぇ……今、さっちゃんが何を言ったのか、直ぐに理解出来ない。
何て言ったんだろうか。
「さっちゃん。なんて言ったの」
さっちゃんが、私を見て首を傾げている。
私、可笑しな顔になって無いよね。
「ここに泊まっていきなさいと、言いましたわ」
その言葉に、私の脳内で何かが弾け────過去の記憶が呼び起こされる。
幼稚園のお泊まり会。
皆んなが集まって、お布団の上で仲良くお話をしている中、私は壁際で一人、ただポツンとそれを眺めていた。
私が近づくと、女の子達は離れるか泣き出すかで、話の輪に加われず、男の子達はニヤついた笑みを浮かべ、気持ち悪かった。
結局、女の先生と一緒のお布団に入ったけど、その先生はなぜか私を抱き枕にして、私は殆ど眠れなかった。
それからは、小学校、中学校と、友達を作ろう、仲良くしようと頑張ったけど、何もして無いのに嫌われて、避けられて、付いたあだ名が鋼鉄の乙女。
そんな私が、お友達の家にお泊まり。
会ってまだ二日で、色々と迷惑をかけてしまっているのに、泊まっていきなさいと言う。
そんな事、産まれて十五年、誰からも言われた事が無い言葉に、私の心がギュッとなって、温かくなって、嬉しさが全開になった。
「お友達のお家に……お泊まりだぁ。嬉しいなぁ……初めてだぁ……」
幸せ過ぎて、頭がぽわぽわするよぉ。
「桐藤さん大丈夫かし────!?」
どうしたのさっちゃん。
スマホをコッチに向けてぇえへへ。
《ピピッピピッピピッピピッピピッピピッ》
何撮ってるの──私かなうへへ。
《ピピッピピッピピッピピッピピッピピッ》
私なんか撮っても面白くないよぅむふふ。
《ピピッピピッピピッピピッピピッピピッ》
無言で何かを撮ってるなぁ。
さっちゃん、家政婦さんが来たんだよ。
私は表情筋をうにうにして、変な顔になっていないかを確認。うん、大丈夫だ。
「チッ……何てタイミングの悪い」
今、さっちゃんが舌打ちした様に見えたんだけど、気のせいだよね。さっちゃんは御嬢様だもん。そんなお行儀の悪い事しないよね。
「御嬢様。お皿をお下げ致しますね」
「お願いするわ。いつも有難う、下見さん」
ほら、ちゃんと家政婦さんにも御礼の言葉を言える、立派な御嬢様だよ。
うむうむ。食糧難が起きるとマジで死ぬるからなぁ。
過去に三日間水だけ生活した時は……それだけで頭が回らず、体力が奪われ、空腹感で苛々が凄かった。
それ以上は我慢出来ずに、ポテチ盛り盛り食べたけど……それだけで一週間過ごしたら、ガリガリになったからねぇ……食の有り難みを感じたよ。
さてさて、未だ年代を明かしてはおりませんが、そんな事を思い出しつつ、打ち込み打ち込みしております。
のんびりパートも後少し、気長にゆっくり見て下さいな。
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