EP.1 : 溢れ出すこの想い.10
うぅ……何で私を名指しするかな先生は……お陰で凄い恥ずかしい思いをしたよ!
「……桐藤さん」
さっちゃんが哀れんだ眼を向けてくるぅ、お願いだからやめてぇえええ!
「さっちゃん酷いよ!その眼は辛いからダメ!」
溜息を吐かれた!?
私そんなに馬鹿じゃないからね!ちゃんとこの学院に合格してるんだから!
「分かりましたから、そんなに近付かないで下さい。それと、今日の放課後に必ず理事長室に来て下さいね。鍵は開けておきますので」
近付かないでって何でよ、そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。
「ちゃんと用事済ましてから行くよ!」
私の想いを伝えるの──真っ直ぐに相手の目を見て名前を呼んで────?
「あの人の名前知らない!?」
どうしよう名前調べて明日にする?いやダメだ。それだと想いが上手く伝わらないかも知れない……どうしたら良いの!?
「さっちゃんどうしよう!?」
「何がですか!? いきなり言われても困ります、ちゃんと説明なさい!」
昨日向かいの校舎で見た筋肉が素晴らしくて、いわゆる一目惚れをしたので告白する為に手紙を書いたけど、相手の名前が分からないからどうしよう、と頭を悩ませてる事を説明。
「え──っと……桐藤さん。貴女は馬鹿なのですか?」
さっちゃんが馬鹿って言った!?
「馬鹿じゃ無いよ!本気だもん!」
何でさっちゃんが頭を抱えるのさ、私はただ一目惚れしたから、あの人の名前を知りたいだけなのに。
「はぁ──っ。先日、桐藤さんの事をウリ坊と言ったのは間違いでした……」
さっちゃん……分かってくれたのね!
「貴女は大猪ですわ!」
「酷くなった!? なんで大猪なのさ!」
大猪と言われるくらいならまだウリ坊の方が可愛いよ、大猪って何なのさ!
「顔も合わせた事も無く、話した事も無い男性に、筋肉が好きだからと告白をする……みずから粉砕しに行っている大猪以外に、例え様がありませんわ!」
でも、想いを早く伝えないと、何が有るか分からないんだよ? 私は伝えなかった後悔よりも、伝えてから後悔した方が良いと思うの!
「私は本気だよ……さっちゃん」
一途に真っ直ぐ、想ったら直ぐ行動!
「どうなっても知りませんわよ……向かいの校舎で筋骨隆々な男性だとしたら、二年の奈村先輩だと思いますわ……桐藤さんの想いは叶わないと断言しておきますの」
名前知ってるの!?流石理事長さんだ!
「ありがとう!さっちゃ──ん!!」
抱きしめて頬っぺたうにうにして上げるね!
うにうにギュ────ッ!!
「くっ……苦しいですわっ、おやめなさい!」
ごめんさっちゃん!力入り過ぎちゃった。
「大丈夫ですわ……それよりも、自身の力をもっと自覚なさい。でなければ……いえ、ここで言う事では無いですわね」
そう言ってさっちゃんが離れて行った。
力を自覚しろって言われても、どうすれば良いのか分からないもん。仕方ないよね?
「奈村先輩かぁ、早速会いにいかないと!!」
善は急げ、鉄は熱いうちに打て、一寸先は闇って言うもんね!……最後のは違うかな。
「奈村先輩はいますか(ニコッ)」
教室を出てぐるっと回って向かいの校舎へ、先輩方に奈村先輩がどこに居るか聞いているんだけど────皆んな逃げていくの。
「ひっ、何だよお前下級生かっ近づくな!」
人の顔を見て失礼な先輩方だよ! 普通に奈村先輩の場所を聞いてるだけなのに!
「ちょっと貴女何してひぃ!?」
笑顔を作ろうとこっちも必死なんだよ逃げないで!
「待って下さい!私はただ奈村先輩の居場所を聞きたいだけなんです! 何で逃げるの!?」
下級生相手に逃げ腰の上級生って何なのさ!
蜘蛛の子を散らす様にとは正にこの事を言うのだろうか……遠巻きに見ている人も、私が近づくと離れて一定の距離を保たれる。
「なら────走って捕まえて聞くしかない!」
阿鼻叫喚。
スキルが発動したのだろうか。凄い速さで追いかけれるのは良いんだけど、まるで化物に追われている様な悲鳴を上げて逃げ惑う先輩達。
「一人────捕まえた!!」
小柄な女の先輩の首根っこ掴んで、捕らえたよやったね!もう逃さないよ!
「やめて!助けてぇ!」
私と同じ背格好の先輩だ……違うのは髪がストレートで表情豊かな所だろうか。
「奈村先輩はどこにいますか(ニコッ)」
私の笑顔を見た瞬間、さっきまで叫んでいた声が止んだ。いや、口をパクパクさせて震えている……なんで?
「奈村は部活だ!だから本井さんを離せ!」
まるで私が人質を取った犯罪者みたいに言ってくるけど、私は犯罪者じゃないよ!でも有難う御座います先輩!
「部活なんですね。奈村先輩は何部ですか?」
それを聞いておかないと、また聞きにこなくちゃならないからね。
「ビルダー部だ。もういいだろ……離してやってくれ」
声に元気が無いなぁ、疲れてるのかな? でもこれで会いに行ける!
「ご丁寧に有難う御座います先輩」
捕まえていた女の先輩が泡を吹き、教えてくれた男の先輩が腰を抜かした。
泡吹く程私の顔怖いの!?
ちゃんと毎日鏡を見ながら、笑顔の練習してるのに……先輩すら逃げていくって何なの。
「まぁ良いかな。ビルダー部へ行かなくちゃね」
ビルダー部……ビルダー部……ここかなぁ。
扉に黒光りする漢の人が、ポージングしているポスターが貼られており、扉の先、部屋の中からふんっふんっと声が聴こえる。
「間違い無いよね、す──は──っ。良しっ」
失礼しま──すと扉を開けたら、熱気と言うか湯気と言うか、密閉空間から暖かく湿った空気が外へと吹き出して行く。
「おぉ──マッチョだらけだ」
名前は分からないけど、筋トレ用の器具が沢山置かれており、六人のマッチョが各器具を使い、ふんっ!ふんっ!ふんっ!とムキムキして凄い筋肉だよ。
「んっ!なんだ君はっ!」
筋トレを一切止めずに聞いてくる人……奈村先輩発見したよやっとだ!
「あのっ……部活の後で良いので……校舎裏に来て下さい────っ!!」
いやぁあああ逃げちゃったよ────っ!
仕方ないもん!他の部員の人達が居るから恥ずかしくてあの場では無理ぃいいい!
「校舎裏で待ってよ……気を引き締めて!頑張れ私!」