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62 先手を取る、じゃ

魔王城の高空を裂くように、鋭い羽音が走った。


雲の帳を突き破り、飛行型の魔物が玉座の塔を一直線に目指して飛来する。


外壁の影をかすめながら速度を上げ、そのまま無言で広間の縁へと滑り込んだ。


魔物の連絡兵はすぐに翼をたたみ、玉座の前で深く頭を垂れる。


やがて、その口がわずかに開き、擦れた声が広間に静かに落ちた。


「飛行船団が──魔王城に向けて、降下してきています」


ドラゴン討伐の報が届いてから、まだ一刻と経っていなかった。


「──何だと」


玉座の奥から放たれたその声は、常の静けさを裂くように響いた。


怒気を孕んだその一言に、広間の空気が瞬時に凍りつく。


魔王親衛隊の間にも、明らかな動揺が走った。誰もがわずかに身を引き、沈黙のまま次なる命を待った。


わずかな沈黙ののち、魔王の声は静けさを取り戻していた。


「……規模は」


その短い問いに込められた圧はなお残り、広間の空気を締めつけていた。


怒気はすでに理性の奥へと沈み、代わりに研ぎ澄まされた冷静さが場を支配する。


連絡兵はかすかに身を引きながら、緊張を滲ませて応じた。


「百数十機と思われます」


連絡兵の声は低く、しかし迷いはなかった。


その数を聞いた瞬間、親衛隊の中に笑みが浮かぶ。


この魔王城に、わずかな飛行船団で挑もうとは──あまりにも無謀、あまりにも愚か。


圧倒的な数と力を誇るこの城を、正面から崩せるとでも思ったか。


彼らの唇に宿ったのは、静かな嘲笑──哀れみすら含んだ、薄ら笑いだった。


漆黒の王座からは、しばしのあいだ何の声も返らなかった。


玉座の間を覆う沈黙は、かえって空気を重く押し沈めていく。


魔王は言葉を発さぬまま、ただ論理のみを巡らせていた。


──百数十機。搭乗できる兵の数は、多く見積もっても一万に届かぬ。


飛行船は脆弱だ。物量でも装甲でも、この魔王城を正面から崩せる力とは到底思えぬ。


だが──あの軍団を率いていた者が、愚か者であるはずがない。


残る千機はどう動く? この早すぎる展開……そこには明確な意図がある。


勝算を持っている。何かを仕掛けている。


そして、この即座の降下──判断も、行動も、あまりに速い。


──ドンタ王か……?


いや、あの男とて、単独で魔王軍を相手取る力はない。


それにしても……早すぎる。


こちらの思考を、まるで見透かしているかのようだ。


──何を企んでいる……見抜けん。


やがて、漆黒の玉座から声が落ちた。


低く、しかし揺るぎなく、広間の空気を貫いていく。


その声音には怒気も高圧もなかった。だが、静けさの奥には、揺るぎない指揮と支配の意志が宿っていた。


「敵は愚かではない。……甘く見るな」


その一言で、親衛隊の気配がぴたりと張り詰める。


魔王はわずかに間を置き、続けた。


「直ちに、全軍を魔王城へと呼び戻せ。偵察兵を増やし、空も地も余さず監視しろ。


何を見たか、何を感じたか──一片たりとも漏らすな。情報はすべて、ここへ報告せよ」


魔王の視線が、広間に控える親衛隊の一団へと向けられた。


その眼差しは冷徹でありながら、わずかに滲むものがあった。──それは、揺るぎない信頼だった。


「お前たちも、前線に出て指揮を執れ」


広間に小さなざわめきが走る。だが、それはすぐに静まり、緊張と覚悟の沈黙に変わった。


魔王は語調を変えることなく、言葉を継ぐ。


「お前たちであれば、判断を誤ることはない。状況を見て、即応しろ」


「だが──決して敵を侮るな」


その声は低く、そして明確に鋭さを持っていた。


「誘いがある。策略があると、常に思え。……行動は、そこから始めよ」


「──はっ」


親衛隊の隊長が短く応じると、ただちに漆黒の王へと最敬礼を捧げた。


その身を深く折り、翼が床に触れるほど低く頭を垂れる。


間を置くことなく身を翻し、黒き影となって空へと飛び立った。


続いて、広間の左右に控えていた親衛隊の者たちが、一斉に翼を広げる。


そのすべてが、魔四将と同じ羽根型の魔物──魔王に選ばれし精鋭である。


数は千を超え、滑るような無音の動きで、次々と漆黒の城から空へと舞い上がっていった。


魔王城全体が、魔物たちの雄たけびで震えた。


それは威嚇でも咆哮でもない。


血に刻まれた戦の衝動が、抑えようもなく──魔物たちの喉奥から溢れ出た音だった。


先陣を切った親衛隊の影が、塔の狭間をすり抜け、漆黒の空へと舞い上がる。


それに呼応するように、城の各層からも羽根を持つ魔物たちが一斉に飛び立った。


次々に広がる翼が風を裂き、空気を叩き──


やがて空そのものが、低くうねるような重奏を奏で始めた。


やがて、魔王城の上空は、漆黒の影と雄たけびに満たされた。


空そのものが、一つの巨大な咆哮となり、うねるように震えていた。


魔王は、玉座に身を沈めたまま、静かに己を問い続けていた。


──この判断は、果たして正しかったのか。それとも……誘導されたか。


魔四将は城に残している。主戦力の多くも、いまだ城内に温存されたままだ。


親衛隊を送り出したのは、迎撃のためか、それとも罠を見抜くためか──


その境界すら、今はあやふやに霞んでいる。


……これ全体が、敵の仕組んだ罠だったのか?


そう考えた瞬間、魔王の思考はわずかに波立ち、


沈着の奥に、微かな焦りの影が差し込んだ。


だが──魔王は、己に言い聞かせる。


ここは魔王城。鉄壁の防備と魔力の核を宿す、絶対の要塞。


真正面から打ち崩せる術などない。


──それでも。


心の最奥で、押し込めたはずの声が呻く。


く……早すぎる。


見抜けぬ──。


雲に覆われた空は、すべてを見下ろしていながら──何ひとつ答えを返す気配はなかった。


ただ沈黙の帳が空を覆い、魔王の思考を、さらに深く、冷たい闇の底へと沈めていく。

おもしろいと感じた方は、「亀の甲より年の功」をクリックして、他の作品もぜひご覧ください。まったく異なるジャンルの物語を、生成AIを駆使して書いています。

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