よみがな 有り(内容は同じです)
小学2年生のみっちゃんはいつも迷ってしまいます。
今日はみんなが楽しみなセレクト給食の日。2種類のデザートが用意されていて好きな方をえらべます。
チョコクレープかいちごクレープ。どちらもとてもおいしそうです。
クラスの他の子達は、いそいで列に並びます。やんちゃな男の子達はちょっとケンカをしちゃうくらいにみんなあわてています。
だけどみっちゃんは、自分の席にすわったままでゆらゆらゆれるだけ。迷っている時のみっちゃんのくせなのです。
みっちゃんはどうして迷っているのでしょうか。
チョコもいちごも大好きだから、えらべないのでしょうか。
そうこうしているうちに、みっちゃんはいよいよ最後になってしまいました。
先生に早く給食を取りに行くように言われて、ゆらゆらゆれながらみっちゃんは立ち上がりました。
「みっちゃん、もういちごしか残ってないよー」
給食当番のさくらちゃんが、ざんねんそうな顔でみっちゃんにいちごクレープを渡します。
すると、みっちゃんはなぜか明るい笑顔で答えます。
「良かったぁ」
ゆらゆらも収まりました。
さくらちゃんは目をぱちくりします。
「なんでー? えらべないのに」
「だからよかったの。えらばなくていいから」
みっちゃんの答えを聞いてもさくらちゃんには、何が良かったのか分からず首をかしげました。
それでもみっちゃんはニコニコです。おいしく給食もいただきました。
それからも、みっちゃんは何かをえらぶ度にゆらゆらゆれてしまいます。
クラスの係を決める時も。
学芸会の役を決める時も。
運動会の種目を決める時も。
ぜーんぶ、さいごまで迷って、いつも残ったものに決まります。クラスのみんなも慣れてしまって、みっちゃんは残り物が好きなんだと勝手に思っていました。
いじわるな男の子達が、みっちゃんをバカにしたりすることもありましたが、みっちゃんはどこ吹く風。いつも嬉しそうに最後に残ったものをえらびます。
さくらちゃんはどうしても気になって、みっちゃんといっしょに帰ってもういちど聞いてみることにしました。
でも、いざ聞こうと思ってもなんと話せばいいか分かりません。
みっちゃんはとてもおっとりしているので、なかなか聞き出せないさくらちゃんとしばらく黙ったまま歩いていきます。
なんだか困った顔のさくらちゃんに気づいてみっちゃんは聞きました。
「さくらちゃん、どうしたの?」
話すきっかけをもらったさくらちゃんは、安心した様子で話し始めます。
「みっちゃん、あのね。わたし、どうしても気になるの。変なこと、聞いてもいかな」
「いいよ~」
「みっちゃんはどうしてえらばないの? さいごに残ったものでいいの? 好きなものないの?」
聞きたいことがたくさんあったさくらちゃんは一気にまくしたてました。
「そんなに一度に聞かれたらこまっちゃうなー」
そう言うみっちゃんはゆらゆらとゆれながら笑っていました。
「ご、ごめんね」
「だいじょうぶだよ。残り物をえらぶのはね、えらばれなかった気持ちが分かるから」
「えらばれなかった気持ち?」
さくらちゃんはもっと分からなくなりました。
「あ、おうちここだから。バイバイ」
そうして、みっちゃんが帰っていったのは、ふつうのお家ではありませんでした。
「チューリップの家」とかんばんがあるしせつです。しせつの中からは、いろいろな年齢の子供たちの声が聞こえてきました。さくらちゃんは、おともだちがたくさんいて楽しそうと思いましたが、このしせつは楽しいだけの場所ではありません。
いろいろな理由で、お父さんやお母さんと暮らせない子供たちが暮らす「ようごしせつ」でした。
みっちゃんもその一人。みっちゃんはお父さんの顔もお母さんの顔も知りませんでした。みっちゃんはえらばれなかったのです。
ある日、授業でグループを作ることになりました。
先生が好きな人と組むようにと、みんなに言いました。
そこでもんだいが起こってしまいます。
ちょっとしたすれちがいで、仲の良いおともだちとケンカしていたさくらちゃんは誰とも組めずに悲しそうな顔をしていました。
そこへみっちゃんが手を差し伸べます。
「だいじょうぶ、みっちゃんがえらぶよ」
さくらちゃんは、嬉しくて少し涙が出てしまいました。
今ならさくらちゃんにも分かります。
えらばれなかった気持ちが。
大切な気持ちをわかちあった二人は、ずっとずっと仲良く暮らしました。
おしまい。