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3/13

斎藤太郎はめざめる!

~前回から2年後~

朝から僕の家の庭に町中の人が集まっていた。

なぜなら、今日からフィルムはこの町の魔法学校、通称、ノワルロード学園に入学する日だからだ。

フィルムは町では神童と呼ばれていて、その神童のめでたい日だからとみんなが祝福しに来ている。

フィルムがいざ、学校へ向かおうと、ドアをガチャりと開けると

「しょうねーん!勉強頑張るんだぞー!!」

「「「きゃーー!!フィルム様ーー!」」」

「入学式が終わったらうちによってけよな!」

朝から聞こえるそんな賑やかな言葉。

フィルムは色々な所に笑顔で手を振りながら、学校へと向かっていった。


フィルムが家を出て1時間後、僕は家から30分ほど歩いた森の中で修行ごっこをしていた。

目の前の縦に180センチ程で、横にも太い、丸い岩の前で右手を大きく突き出して

「うぉぉぉぉーーー!フレイム!」

「サンダーー!!」

「荒れ狂う風よ!今吹き荒れろ!喰らえ、ウィンドォォォ!」

などと叫んでいる。 ・・・・そして仰向けになり、スーパーでグズる子供のように、ジタバタと暴れはじめた。

は、恥ずかしぃぃ!!

なんだよまじで、この世界って魔法あるんだよね?

うわぁぁ!さっき自分で考えた呪文唱えちゃったよ!こんなの誰かに聞かれたら恥ずかしすぎる。

僕が心の中で悶えていると、茂みからガサゴソと音がした。

「ん?」

そこにはキノコから手足が生えた「おやすみシイタケ」という小さなモンスターがいた。

「ん。このモンスターはおやすみシイタケ!図鑑では見た事あるけど、本物は初めてだ!」

異世界のモンスターを間近で見る機会はあまり無かった。

野良ウルフは、興味よりも怖さが勝ってあまりじっくりとは見れなかったから、僕はおやすみシイタケに興味津々で近寄って、しゃがんでみた。

「触ったらどうなるんだろう。えい!」

おやすみシイタケのカサの部分を少したたくと、

「のこ!」

「うわぁ!」

おやすみシイタケのカサから紫の煙が出てきた。そのまま僕は意識が遠のいた。


「はっ!・・・あれ?僕また死んだ?」

目を覚ますと、目の前に映画館にあるようなスクリーン。

左を見ると1メートル程離れた場所に椅子があり、その椅子に裸足で、ポカーンという顔をしながら、三角座りをしている、緑髪。緑目。初めてあった時の服装とは違い、大きなうさぎの絵が書かれた緑の半そでに、緑の半ズボンのパジャマを着た女神がいた。

「・・・えっ!えええ!!!何の前触れもなく気絶したらすぐに召喚されちゃうの!?」

ふと我に帰った女神様が急に驚きはじめた。

「ちょっ、ちょっとまっててね。」

そう言って女神様はスクリーンの後ろに走っていった。

スクリーンの後ろで、「あれー?どこいったかなー?」

「うわぁ!」っと転ける音がしたが、紳士の僕は気にしない。

それから5分ほどたち、顔を真っ赤にした女神様が「お、お待たせ~?」っと

何故か疑問形で言いながらとことことこちらへ歩いてきて、椅子に座った。

うん。可愛いな。

賢い僕は我に帰った。

「あの!女神様、すいません。これってどんな状況なのでしょうか。」

「えっと、まずはこの鏡をどうぞ。」

「ぶぇぇぇ? 」

女神様が両手に握った手鏡をみて驚いた。

なぜなら、そこには斉藤太郎の顔が写っているからだ。

「この空間にいる間は、あなたはフレイ・ファレイスではなく、斉藤太郎として認識されます。それが、今、貴方がその姿でいる理由です!」

腰に手を当てて得意げにそういう女神様。

「ほえ~。あの、女神様」

僕が質問をしようとすると、女神様は右手を前にだして、

「おっと、ちょっと待ってください。女神さまと言われると、遠慮されている感じがするので、これからは私のことを、ステラ。と呼んでください。」

ここで女性経験0の僕の心臓がドキドキした。

いいの?出会って間もないはずの女性を急に呼び捨てって馴れ馴れしいのでは。

いや、まてまて、斉藤太郎。

お前は異世界転生して生まれ変わったんだろ?

行くぜぇぇぇい!俺様ぁぁぁぁ!!

僕は精神統一してひと言

「じゃ、じゃあ、す、す、ステラ!」

「あ、一応仮にも神様なので、天界の決まりで人に呼び捨てにされてはいけないってルールがあるんです。」

それを聞いた瞬間僕は無になった。そして、力のこもっていない声で

「す、ステラ様。ひとつご質問が」

「はい?」

「さっきの服は?」

「あ!あれは、私のパジャマ姿です!」

「え、えへへへ。可愛いですね。」

「あ、あ、ありがとうございます。」

急に可愛いと言われて、ポッと耳まで赤くなったステラ。

ここで僕は復活した!!!

「ステラ様。本題へ戻りましょう。この状況はなんですか?」

僕がそう聞くと、ステラはフルフルと首をふり、真面目な顔に戻った。

「はい。私の先輩から聞いたのですが、異世界転生者が寝ている時や気絶した時は、その人担当の女神と意識の中で出会う事が出来るそうです。そして、太郎君はおやすみシイタケの影響で眠ってしまい、ここに来たのです。」

「なるほど、でも、これまで、僕が寝ている時、こんな状況なかったですよね。なんで今ここに来たんだろう?」

「うーん。」

「ステラに助けを、求めてるんじゃないか?」

2人で悩んでいると、急に空に白い穴が出来て、女性が降りてきた。その女性は、ステラの隣に着地すると左手を軽く上げて、

「よぉ!アタシはカトリ!」

っと笑顔でいった。

「せせせ、先輩!!」

目を大きく開いて動揺を隠せていないステラ。

ふーむ。やっぱり可愛いな。おっと、それよりも。

「あの~僕がステラ様に助けを求めているとは?」

「おう!異世界転生者に対する女神の仕事はアドバイスがメインだからな!転生者が女神に解決出来る悩みを持ったまま眠ったり、気を失うと、その瞬間女神の目の前に召喚されるんだ!」

「おお!なるほど!」

賢くて紳士の僕は理解したから、ポンっと手を叩いた。

「だからステラ様の無防備な姿が見れたんですね!」

「おう!ステラは可愛いだろ~!」

「はい!」

僕とカトリが手を組み合うと、それまで黙っていたステラが喋り始めた。

「もーー!2人とも!特にカトリ先輩!すぐに召喚されるんだったら教えてくださいよ!」

そう言って頬を膨らませ、カトリの背後に回り、ジャンプして両腕をカトリの首に掛けたステラ。

「ハハハ!悪かったよ。つい、焦った可愛い後輩が見れるんじゃないかなとおもってな。」

そう言いながら、ステラの両膝を抱えおんぶの姿勢に入ったカトリ。

「太郎くんが私に助けて欲しいことって魔法の出し方ですよね?」

機嫌をなおしたステラがカトリの首からひょこっと。顔を出してそういう。

「あ、そうです!チートスキルの出し方と魔法の使い方を教えてください!」

僕はわくわくしながらそう言った。

「任せてくださいよ!」

自信満々な顔でそういうステラ

「よかったな少年。ステラはポンコツだけど教えるのはうまいぞ~。女神の中でも強さで言ったら最上位の方だからな!だが気をつけろよ。ここでの君は、あくまで、前世の君だ。だからここでは実際に魔法を使えない。だから言葉で覚えるしかないんだ。」

笑顔でそういうカトリ。

その言葉を聞くとステラは説明を始めた。

「まず、魔法を出すには体内にあるエネルギー、魔力が必要です。その魔力を消費して魔法を出します。」

「なるほど。」

「太郎くんは、その、さっき魔法を練習していた時に何を考えていましたか?」

恥ずかしそうに、目をちらちらと向けてくるステラ。

「え?何も考えずに、何となくで叫んでいました。あれ?」

その瞬間、僕の全身に鳥肌がくる。

「え、ぼ、僕の練習シーン見てたんですか?」

「はい、つい気になっちゃって。」

「わすれてくださーーーい!」

なんてこった!あのシーンをステラに見られただと?まだ男ならいいが、女性に見られるのは恥ずかしい!

僕は気を紛らわせるためにその場でじたばたした。

「いいから話を進めろよ!」

カトリがツッコミに入る。

「「ひえっ!」」

僕とステラが同時に驚く。

そして、ステラが小さくコホンっと咳払いをして続けた。

「魔法を出すのに大切なのは、イメージです。」

「イメージ?」

「太郎くんには、魔力が体に流れてくる感覚、分かりますか?」

「はい。転生してから体の中がムズムズしてて違和感があったんですけど、それが魔力ですか?」

「そうです。魔法を出したいところに、魔力を貯めるイメージをしてください。それが出来たら、次は出したい魔法のイメージです。

火の魔法だったら、ライターの火や燃えている火。水の魔法だったら蛇口や雨など、様々です。」

ほえー。ステラが魔法を出すところ見てみたいな~。

僕はそう思って好奇心からステラにお願いした。

「ステラ様の魔法が見てみたいです。」

「ふふ!そう来ると思ってましたよ!」

待ってましたと言わんばかりの様子のステラ。そこにカトリが

「おいおい、張り切るのはいいけど、加減はしろよ?」 

という。

「任せてください。・・・じゃあこの石を壊しましょう!」

ステラがパチンっと指をならすと、僕がここに来る前見ていた丸い岩が急に現れた。

「しっかりと見ていてくださいね。」

そう言ってステラは人差し指でその岩を指さした。

さっきまではへにょへにょしていたステラの雰囲気がガラッと変わる。

「サンダー。」

ステラがそう呟くと、声量とは裏腹にバチバチ!と音を立てた雷がステラの指先から放たれ、岩にまっすぐ、勢いよく飛んで行った。

岩は跡形もなく粉々だ。

「す、すげーー。」

呆然とした顔でそういう僕。

すると、カトリが僕の近くに来て

「だろ?うちのステラはすげぇんだよ!やっぱり君とは分かり合えるな!少年!」

と言って僕の頭をわしゃわしゃした。

「とまぁ!こんな感じです!」

「ステラ様!さすがです!チートスキルもイメージを大事にしたら出せるんですか?」

希望に満ちた純粋な目でステラを見る僕。

「いえ、実はチートスキルはただの魔法とは条件が違いまして」

「え?」

「これを言っても、怒りません?」

少し上目遣いでおそるおそるそう聞くステラ。

へへっ。やっぱり可愛いじゃんか。ステラ様。

「はい!」

僕は大きくそう返事した。

そして、チートスキルを出す条件を教えてもらい、異世界へ戻った。


「無理に決まってんだろうがァァァ!!!」

天界から戻ってきたフレイ・ファレイスは森の中で大きく叫んだ。

ステラが言うには。

チートは魔力を使わない代わりに、身体に大きな負担をかける。

チートはイメージではなく、実体験が重要らしい。

僕のチートは何でも燃やせる火を出す能力。

だから、なんでも燃やせる火。に関する実体験が必要らしい。

「どうしろと?ただの火じゃダメなんだろ?あ、フィルムの能力でそれっぽいことが出来るんじゃないか?」

僕は早速家に戻る。

「おーい!フィルムゥ!フィルムお兄ちゃーん!」

家の中でそう叫んだが返事は無い。

「あら、フレイ。おかえり~」

お母さんが台所から顔を出した。

「フィルムなら、入学式が終わったあと、色々な人に呼ばれているからまだ帰ってこないわよ~。」

そういうお母さん。

「わかった~。」

僕はお母さんにそう言ってもう一度庭にでた。

「てか、ステラ様めっちゃ可愛いよな~!」

そう叫ぶと同時に、僕は空を飛んでいた。

「ふぇ?」

さっきまで足を付けていた地面が遠い。

魔法の使い方は正直しっくり来てないし、イメージもしていないので、魔法の類ではない。 僕は連れ去られたようだ。

異世界で、空を飛べて、人を連れされるのって。

僕がその正体に気づいて顔を青ざめるともう遅かった。

「ギャルォォォォオ!!」

「ドラゴン!」

全身赤色の鱗に筋肉質なボディ。でかい翼。

鋭い目つき。

少しトカゲに似ている。

「ぎゃぁぁぁぁ!!離せぇぇぇ!そうだ!こんな時は魔法で。フレイム!」

僕が上に掲げた右手から、火の玉がでて、僕を掴んでいるドラゴンの脚に当たる。

そして、その火が吸収されてしまった!

「ちくしょょう!僕の初魔法を苦い思い出にしやがって!絶対恨んでやるぅぅ!!」

僕はそう叫びながら、町や海を通って、ドラゴンと一緒に飛び回った。

それから時間が経ち、ドラゴンは着地する。

そこは、凄くデカイ鳥の巣のような所だった。

どのくらいでかいかと言うと、サッカー場が30個分程だ!

とにかくでかい。

僕を連れてきたドラゴン以外にも、黄色いドラゴン、緑のドラゴン、青いドラゴン、紫のドラゴンが眠っている。

どれも強そうだ。

僕は現実逃避をするために眠った。


「あ、おかえりなさーい!」

毎度お馴染みの空間だ。

ステラが出迎えてくれる。

「お風呂にします?ジュースにします?それとも、ポップコーン?」

「ステラ様で。」

「それはだめーー!」

「ぐへふぅ!」

ステラが僕の右頬にビンタする。

「あっ、すいません。つい。」

てへへ。という雰囲気で後ろ頭を軽くかくステラ。

それよりも、それよりもだ!

「ステラ様!僕の異世界人生もう詰んじゃいましたよ!どどどどうしましょう。」

「お、お、落ち着いてください。まずは深呼吸1、5,7、2。あれ?」

「ステラ様も動揺してるじゃないですか!」

僕とステラがそんな会話をしていると、

「ダハハ!まぁ落ち着けよ!」

カトリが現れた。

「「暇なんですか?」」

「ちげぇよ!休み時間だから遊びにきたんだ!」

僕はその会話で落ち着きを取り戻した。

「少年にひとついいことを教えてやろう。」

「ん?」

「ドラゴンはとても強い。どれくらい強いと言われると、1頭討伐につき、3億ほどの価値がある。」

「ほほう!こいつらを、討伐して僕に大金持ちになれと!・・・できるかぁ!魔法がきかなかったんですよ!てか、何で僕の魔法あんなにしょぼいの!」

僕が半泣きになりながら、カトリに掴みかかるため、ズカズカと歩み寄ったところ、

「まぁ待て待て、あと、魔法はセンスと年齢の問題だ。」

と、僕をなだめるカトリ。

そこでステラが。

「太郎くんを連れ去ったドラゴンは、とても強いドラゴンであり、火を使うドラゴンなんですよ!チートを使えるようになるチャンスです!」

「ああ!アタシのセリフ!」

「いつもからかわれてるお返しです。」

左目を閉じて、舌を少し出してそう言ったステラ。

賢い僕は閃いた!すごく強いファイアードラゴンの火は何でも燃やせる。

実体験にできる。

そして、チートが使えるようになる。

ということだ。

「おい、スクリーンに何か写ったぞ?」

「え?フィルムだ!」

スクリーンには、俺の弟を返せよぉぉ!!

とドラゴンの巣で叫びながら黄、青、緑、紫のドラゴンと1人で戦っているフィルムの姿が。

戦いを見てみよう。


黄色のドラゴンが「グルォォォォ!」っと雄叫びを上げてフィルムに突進する。

しかし、その突進が当たる前にドラゴンの顎の下に潜り、ジャンプと勢いに任せた頭突きをするフィルム。

これでドラゴンは一体失神。

1対1では勝てないと考えたのか、他の3体のドラゴンはフィルムを三角の陣で囲み、同時にブレス。

フィルムは左手と右手を合わせて、

「フレイム!」

と叫び、咄嗟に両手に火をつける、その火は6本の矢になる。

そのうちの三本は、ブレスを相殺し、残りの三本は、三体のドラゴンを一撃でたおす。

あとは僕を連れさったドラゴンだけだ。

「ちょっ!太郎くん。早く戻らなきゃ!」

「え?」

「ここで見るだけじゃ、実体験にならねぇぞ!あのドラゴンが生でブレスを吐くとこをみて、その炎のブレスが、どれだけすごいか理解するんだ!」

「早く行かなきゃフィルムさんがあのドラゴンをたおしちゃう!いってらっしゃい!」

「え、え、ちょっと!」

両手をフリフリしたステラ。


そして僕は戻った。

「グルルルルルル。」

「おい、誰の弟に手を出したのか分かってんのか?」

赤色ドラゴンとそれに臆せずに睨み合いをしている我が兄、フィルムがいる。

フィルムがあんなに怒っているのは初めてだ。

正直怖い。

やべ、くしゃみ出そう。

「へっくしょん!」

僕のくしゃみと同時に戦いの火蓋は切られた。

この場の最強2体が同時に突進する。

ドラゴンがフィルムを手で握り潰すため、捕まえようとするが、

それを回転と脚力で蹴り払うフィルム。

しかし、払い除けた後の空中での回転。

その隙を逃さずドラゴンは羽でフィルムを弾き飛ばす。

「ぐ!」

フィルムはそのまま岩へ吹っ飛ばされる。

頭から血が出ている。

ドラゴンは口を開けてフィルムに突進!

「いってぇな!」

そう言ってフィルムはさっき黄色のドラゴンにしたように、ドラゴンの顎を攻撃する。

「グルゥゥ!」

とひるんだドラゴン。

「フレイム。」

そう言ってドラゴンの首に向かって火属性魔法を出したフィルム。

しかし、その火はドラゴンに当たると吸収された。

「まじかよ。」

より強い火を吸収できて、耐力が回復したドラゴン。

「グゥゥゥ。」

ドラゴンは火のブレスの準備をしている。

「・・・フレイを助けるにはこれしかないよな。」

小さくそう言うフィルム。

ドラゴンは「グルァァァァァ!!」

と咆哮と同時に火のブレスを出した。

火と言うよりもマグマに近い色だ。

「フレイム!!!」

もう一度両手に火をつけたフィルム。

その両手でドラゴンのブレスを触る。

「ぐぁぁぁぁ!!」

フィルムはここに来てはじめて苦しそうな声を上げる。

フィルムの手にはブレスがまとわれていた。

そして、そのブレスの塊をドラゴンに投げつける。

「グルォォォォォォゥ!!」

ドラゴンは苦しみ、ドカンッ!と音を立てて倒れ込んだ。

どんなに大きい箱にも限界があるように、ドラゴンはある程度の強さの火しか吸収でいないのだろう。

「・・・良かった。」

心から安心した声でそういうフィルム。

そして、僕の元まで歩いてきた。

頭と口から血を出して、両腕がやけどしているフィルム。

「大丈夫か?怖い思いさせてごめんな。」

そう言って、座っていた僕に手を出した。

「助けてくれてありがとう。」

ホッとした瞬間!

「ギャルォォォォオ!!」

「チッ!やっぱりか!フレイ!絶対に兄ちゃんが助ける!合図をしたら振り返らずに逃げるんだ!」

さっき倒したはずのドラゴンが起き上がってきた。

ボロボロのフィルムが助けようとしてくれている。



本当にいいのか?

突然僕の心の中がモヤっとする。

確かに怖い。ここは逃げるのが普通だ。

そもそも、僕は元々は一般人だろ?

どこにでもいる普通の。

ただの高校2年生。

それに、フィルムは僕よりも圧倒的に強い。

・・・でもさぁ!この子はまだ12歳だぞ!今日初めて学校に行った!

僕は高校2年生に加えて7年生きてる!

強いとか弱いとか関係ない!

年上が年下を守るんだよ!

行けよ!フレイ・ファレイス!

斉藤太郎はただの一般人だけど、弱っている年下の子を見捨てるクズじゃない!


僕は作戦など無しにドラゴンに向かって飛び出していた。

「おい!フレイ!待て!待ってくれ!行くな!」

僕はさっきこいつの炎を見た!こいつの炎は!神童で、最強の兄、フィルムに火傷をさせた!それだけで十分強いのが分かる!

これでもしもチートの条件が揃ったと言えるなら!

身体に負担をかけるチートが出せたのなら!

僕は目を瞑ってこれまでのことを整理する

日本のお母さん、お父さん。産んでくれてありがとう。

この世界のお母さん、お父さん。そして、フィルム。僕をモンスターだらけのこの世界で守ってくれてありがとう。

そして、

「ステラ様ぁぁぁぁ!!大っ好きでぇぇぇす!!!」

右手からフレイムの時とは違う、何か別の火が出る感覚。

これが僕のチート能力!

「ステラファイアーー!!」

「ガァァァァ!!」

僕のステラファイアーと、ドラゴンのブレスがぶつかる。

ドラゴンのブレスから煙が出てきて、そのブレスに火がつく。みるみるうちにブレスについた火に包まれたドラゴン。

ドラゴンはそれに驚いてブレスをやめる。

そして、僕のステラファイアーがドラゴンに直撃。

「グル、グルルル!!」

ドラゴンが苦しむ鳴き声が聞こえて、視界が真っ暗になった。


そして、あの部屋に行く。

そこには、スクリーンを見ながら涙を流しているステラと、うんうん。と、腕を組んで頷いているカトリの姿が。

「太郎くーー〜ん!!」

「ほぇぇぇ!」

ステラは僕に抱きついてきた。

めちゃくちゃうれしい!

しかもいい匂いだ!

「す、す、ステラ様!?」

いかん。女性経験が無い僕には修羅場だ!

「ほいほい、ステラストップ~。少年!やるじゃねぇか!」

「へへへ。ありがとうございます。」

僕からステラを引き剥がしたカトリが褒めてくれる。

「あ!あの後僕が攻撃したドラゴンどうなりましたか?」

そう聞くと、

「ああ。安心しろ。ドラゴンは気絶だ。命に別状は無いよ。」

「あれ?僕の能力ってなんでも燃やしちゃうから絶命するんじゃ?」

「ん?ああ、燃やしきる前に少年の意識が無くなったから、そこでチート効果も止まったんだよ!」

と言って、親指をたてるカトリ。

「良かったぁ~!」

「しくしくしく。」

「で!おめぇはいつまで泣いてんだよ!」

「あだっ!」

カトリはそう言って、ずっと泣いていたステラに軽くデコピンをした。

ステラは、おでこを抑えて

「だって、太郎くんがこんなにかっこよくなったんですよぉ!成長を感じて泣いちゃうのは当たり前です!」

僕は嬉しくてにやにやしてしまった。

そこでカトリと目が合う。

そして、カトリは俺の耳元でにやにやしながら

「しょうねーん。それはそうと、ステラファイアーって技名、どうにかならないかね~。

ちょっとダサいよ~?」

「うっ。で、でもこれはステラ様に貰った火の力ですしぃ。それに、ステラ様は可愛いから、可愛い人のことを思って生きると、気持ちがいきいきすると思うんです。」

「なるほどね!これからも頑張れよ!」

そう言って、カトリは僕の背中をバシバシたたく。

すると、カトリは少し声量を上げて

「あーあ。少年が戻ったあとのステラ、可愛かったな~!」

「カトリ様今聞き捨てならないことを!」

「先輩!?」

「ふふ。フィルムが赤いドラゴンと戦う時に、怖いから先輩も一緒にスクリーンでみて!って言って仕事に戻ろうとする私を引き止めたり~。」

「ちょっ、先輩!カトリ先輩!」

カトリの目の前でぴょんぴょんはねて、何とか気を紛らわさせようとするステラ。

それでも女神カトリは止まらない。

「少年がドラゴンと戦う時には、太郎くーん!ファイト!とか、私の太郎くーん!とか、挙句の果てにはステラファイアーかっこいいよ!とか言いながら火属性魔法を私の横で出す始末で。」

「ステラ様大好き!!」

「はわわわ!先輩のバカぁ!」

「ぐほぉぉ!」

「うーーー!!!びゃいびゃい!」

もう一度泣きながらカトリに全体重をのせた頭突きで体当たりをしたステラはそう言って僕を異世界へ戻した。



ここで目が覚める。

「お?フレイおはよう。」

「ん?ここは?」

「今帰り道だ。もうちょっとで家に着くからな~。」

フィルムは両腕やけどしているのに僕をおんぶしながら家に帰っている。

フィルムが話し始める

「なぁ。こんなこと言うとムカつかもしれないけどさ。これまでフレイは俺が兄で嫌だったことはないか?」

「え?」

「俺は少し周りより器用なだけで神童って言われてる。そんな俺の弟であるお前は俺とよく比べられがちだろ?」

確かにそうだ。何でも出来る兄と、一般的な僕。周りの人からも兄と良く比べてたな~。

今は僕とフィルム2人だけだから本音が聞けるから、こんな質問をしているのか~。

「あー?確かに比べられるね。・・・でもフィルムがお兄ちゃんで嫌だったことは無いね。」

「え?」

「神童と呼ばれているお兄ちゃんが僕を大切にしてくれているから嬉しいし、みんなに自慢したいくらいだよ。」

「・・・そうか!ありがとう。あと、今日のフレイも凄かったぞ!さすが俺の弟だ!」

「いやぁ~。」

確かに僕チート持ってるけど!ドラゴンを複数体1人で相手出来るアンタの方がすごいからね!

そう言いたかったが、それは天界で見ていた事だから言えない。

その後僕たちは家に着き、町中ではフィルム神童伝説が更に増加され、僕が魔法を使えるようになったことも認知されて、褒められた。

後から聞いた話だが、入学式後、フィルムは町中で祝杯されている途中ドラゴンが僕を連れ去っているのを見つけて、すぐに助けに来てくれたらしい。



やっぱりあいつは化け物だ!!!

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