異世界転生した少年
みなさん。こんにちは。僕の名前は斉藤太郎。日本生まれ、日本育ちの普通の高校二年生だ。
「行ってきまーす!」
学校に行くため、いつものように僕は家を出た。そして、後ろから背中を叩かれた。
「よう!太郎!おはよう!」
「お、悠太!おはよう!」
「今日も平和な普通の日常の始まりだな~」
「あはは!その平和な普通の日常に彼女がいたら、もっと平和なんだけどな!」
「言えてるぜ」
笑顔でそう言った坊主のこの男子高校生は、
佐藤悠太。僕の友達だ。
学校へ行くため、僕と悠太は五分ほど歩きながら話していた。
「太郎よ、彼女が欲しくないか!」
「もちろん欲しいよ。」
「だよな~!男子高校生たるもの!彼女を作るってのも青春だよな!」
「・・・でも、出来ないんだよなぁぁ!」
そんな会話をしていると、悠太が急に、両手をパンッと合わせ、目をつぶり、空を見上げてこう言った。
「神様が実際にいるのならお願いします!漫画みたいに、食パン咥えた女の子とぶつからせてください!」
それにつられて僕も同じく、
「ハハハ!じゃあ、僕も・・・神様!もしも僕が異世界転生したら、チート能力をください!」
と言った。
「異世界?チート?めちゃくちゃ現実味がねーじゃねぇか!」
「神様なんて居ないんだからいいんだよ!」
「それもそうか!」
2人で笑いあった。
「あっ。」
「ん?太郎?どうした?」
「やばい・・・急にお腹がすいた。」
「え?朝飯は?」
ヘラヘラしながら聞いてくる悠太。
「食べてない。そういえば昼飯も家に忘れてきちゃったな。」
「・・・先生は誤魔化しとくから、1度家に帰って朝飯食って、昼飯も持ってこい。」
悠太は微笑んでそう言った。
「いや、朝飯は我慢したらいいし、昼飯もそこのコンビニで買えば」
そこまで僕が喋っていると、悠太がそれを遮り、僕の両肩に片手づつ手を置いてこう言った。
「ばかやろう。おめぇの家の人が作ってくれたんだろ?遅刻してでも取りに行け。家の人の思いを踏みにじるな。それが、今の俺たちに出来る数少ない親孝行だろ?」
・・・めっちゃええやつやん。
僕はそう思った。そして、
「そうだな!じゃあ、悠太頼むぞ!」
「へへ、行く前に1つ聞かせてくれ。」
「?」
「俺、けっこうかっこいい感じのこと言えたんじゃね?これで彼女いないって逆にすごくね?!」
ドヤ顔でそういう悠太。
うーん。こいつ格好つけた時はかっこいいんだけど、その後がいつも残念なんだよな~。
心の中にその気持ちをそっと隠した僕は、笑顔で
「お前が友達でよかったよ!」
と言って走って家に帰った。
「ただいま~。」
返事はない。
親は共働きだから、2人とも仕事に行ったことを確認する。
家に入り、台所には弁当が1つ置いてあった。
「お、弁当発見~ゲットゲット~。・・・弁当作ってくれてありがとうね。」
僕はそう、独り言を言った。
ぐぅぅぅ~~。
僕の腹が鳴る音だ。
そういえばお腹がすいてたんだ。
おにぎりでも作ろうか。そう考えていたとき。閃光が僕の頭を走った。
さっきの悠太の神様への願い事を思い出したのだ。
「ふむ。食パンを咥えた女の子にそうそうぶつかることは、無い!じゃあ、僕からぶつかりにいけば、僕にも彼女ができるのでは?」
顎に指をあてて僕はそう小言を言ってみた。
我ながらいい考えだ!
ありがとう悠太!最高だぜ!
心でそう叫び、バターを、塗ったり、焼いたりしていない生の食パンを加えて僕は家を出た。
僕は曲がり角についた。
一応僕は、今遅刻しそうなので、遅刻遅刻~っというかんじで走っても違和感がない絶好のシチュエーションだ。
僕が今いる曲がり道に、女の子が歩いてくる気配がしたら、遅刻遅刻~と言って、女の子にぶつかる。
ありがとう悠真!最高だぜ!
僕は無言で右手をグッドにして前にだした。
~待ち伏せから10分~
「は!女の子の香り!行くぜ僕!」
僕は可愛らしく、ぶりっ子をイメージして、わざとらしく走り出す。
「あぁぁもう!遅刻遅刻ぅぅ!遅刻しちゃグェェェ!!」
!?!?!?!?なんだ!?急に横から強い衝撃が!おっぱいに弾かれたのか!?
僕はなぜか横に倒れていた。身体がうごかない。
プップー?あ、トラックか。
誰か僕の近くでしゃがみこんでるのかな?
「大丈夫ですか!?きゅっ救急車を!」
あれ?女の子だ。・・・学校でピンクのやつっていいんだ。
そこで、僕の視界は真っ暗になった。
「あ、あ~!聞こえますか?斉藤さーん。太郎くーん?さいちゃーん?・・・変態さーん。」
「ちょっと!それは言い過ぎなのでは?」
「女の子にわざとぶつかろうとして死んじゃったんですよ?こう言われても仕方が無いのでは?」
「うう~。本当にごめんなさい。だからそんな冷えきった目で僕を見ないでください。」
僕が、目を開けると。目の前には映画館のような大きなスクリーンがあった。
そして、僕が座っている椅子から左に1メートルほどすすむと、もう1つ椅子がある。
その椅子には、緑のロングヘアーで、綺麗な緑の瞳の美人がそこに居た。
この人が女神と言われても違和感がないほどのオーラがあった。
そんな美人に変態と言われると、ただの一般人である僕は少し傷つく。
いや、それよりも、
「あの、すみません。どうして僕の名前を知っているのですか?」
その女性は、冷えきった目をやめ、目をパチッと、開け、首をすこし傾げて答える。
「あっ!初めまして!私女神なんです!」
「うそつけ。」
「いや、本当ですよ!信じてください!」
女神様は両腕を前に突き出してわたわたとし始めた。
女神であることを即答で否定されたのだ。
焦るのも当然だろう。
焦っている美人はとてもかわいい。
「すみません。神様を見るのは初めてなもので、ついやっちゃいました。」
「もう!神様をコケにすると大変な目にあうんですからね!」
頬を膨らませながら、両手を組んだ女神様がそう言った。
・・・もしも、モテるイケメンだったら、この後、
アハハ。ごめんごめん。
とか言いながらよしよしするんだろう。
でも、僕はあくまで一般人だ。モテるテクニックなんか持ってないし、女心なんて分からない。だから
「あはは。例えばどんな?」
「え?・・・うーん。・・・どんなだろ?」
「ふふ。女神様って意外とポンコツなんですね?」
「むぅぅぅ!ポンコツですってぇぇぇ!!」
ヤバい。どうやら僕はまた女心を間違えてしまったらしい。
まぁ、そうだよな。煽られたら誰だって怒るよな~。
今にも泣き出しそうな顔のまま頬を膨らませた女神様が、ぽかぽかと、僕を襲っている。
「す、すいません。でも!かわいいです!」
そう本音を言うと、女神様の手が止まる。
「本当ですか?」
「はい!」
「そうですよね!急に女神様が前に現れたら誰だって驚きますもんね!あと、私はポンコツじゃないですからね!・・・たぶん。」
最後に何か聞こえたが。聞こえなかったことにしよう。
女神様は気を取り直して、椅子に座った。
どうやら、さっきの女心は正解だったらしい。
「では、気を取り直して。私はあなたを、担当している。女神です。なので、あなたの死亡シーンを見ていました。」
「え?じゃあ、僕の女の子とぶつかる完璧な計算が、どんな感じで失敗したのかも見たんですか。」
「もちろんです。よければこのスクリーンで見ますか?」
「お願いします。」
そして。スクリーンには曲がり角を上からみた動画が流れ始めた。
僕が女の子とぶつかろうと駆け出した瞬間。
女の子の靴紐が解ける。
女の子は靴紐を結ぶため、立ち止まる。
だから、女の子にぶつかるはずの僕だったが、ここで計算がズレて、走ってきたトラックにはねられたということだ。
「・・・あの、もしかしてこれって殺人事件になったりは、」
「しませんよ!」
「え?」
女神は自信満々にそう答えた。
「あなたの死因、正確にはトラックにはねられた影響で、食パンを丸呑みし、食パンが喉に詰まって死亡。ですから!」
「まじか!良かった!・・・いや良くないのかな?」
トラックの運転手さんに迷惑をかけないのなら良かったが、やっぱり。死にたくなかったな。
そう思っていると、女神様が急に明るくこう言った。
「若いあなたは、チートスキルでも持って異世界でもう一度生きてね。」
「え?異世界?どういうことですか?」
「ほら、言ってなかったっけ?神様がいるのなら異世界で、チートどうのこうのって。」
「あ、いってました。」
急に異世界転生の話をされて頭が混乱する。いや!それよりもだ!
「え?チートスキル!?もしかして、チートで無双してモテモテになったりするんですか!女神様!」
僕のキラキラとした眼差しを見た女神様は、少し目を逸らしながら返事する。
「・・・無双はどうだろうね~?」
「え?無双できないんですか?じゃあ僕は異世界転生なんかしたく」
そこまで言おうとしたら女神様は僕の言葉を遮り、
「あー!あー!聞こえなーい!じゃあ行ってらっしゃーい!」
と大きな声でいい、指パッチンをする。
すると、僕の足元に白い穴ができ始める。
「ちょっ!女神様!・・・あ!転生はします!でも1つ教えてください!どうして急に口調が変わったんですか!」
俺はそう聞く。すると、女神様は
「ふふ。それは、私にとって、あなたは大切な人だからだよ。あと、このくじを引いて。」
大切な人って・・・惚れちゃいそう!!
そう思いながら、いつの間にか女神様が持っていた箱に手を入れて、くじを引く。
それを開けると
「えっと?なんでも燃やせる火を出す能力?これはどういうことですか。」
「太郎くん。これが、あなたのチートスキルです。」
「え!そんな・・・これってただの火属性じゃないですか!」
「ふふ。そんなことは無いですよ太郎くん。その能力は由緒正しきチート能力ですよ!」
勝ち誇った顔でそういう女神様。とても可愛い。
「じゃあ、太郎くん!頑張って!応援してるから!」
女神様は満面の笑顔をみせた。
・・・反則ですやん。
そう思っていると
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕は広がった穴に落ちて言った。
「ぐすっ。」
「もう別れはいいのか?」
「先輩?」
斉藤太郎くんを見送った私は、先輩と話をしていた。
「担当の女神は、そいつが赤子の時から天界で見守っている。実際に出会って話すのは今日が最初で最後だろ?」
「はい。私は太郎くんがまだ小さい時から見ていました。転生したら赤ちゃんからやり直し。つまり、転生した太郎くんには新しい担当女神がついて、私はもう太郎くんを見れない。・・・寂しいけどこれでいいんです。きっとあれ以上太郎くんと話していたら、私は1度抑えた涙を二度と抑えられなくなるから。」
「ふーん。でも。異世界に行かせるのはちょっと強引だったんじゃない?」
「う!それは、すみません。」
「ハハハ!お前らしいよ。後、勘違いしてることがあるよ。」
「?」
先輩がそう言った。間違えてることってなんだろう。
「異世界転生した場合、転生した赤子の人格はその転生者のまま。つまり、斉藤太郎はまだ消滅した判定になってないから、担当女神は変わらないぞ?」
それ聞いて、私は嬉しくなった!
「え、え、そんな、ことって」
「さらに言うには、異世界転生したやつが、寝てる時や、気を失った時、担当女神がそいつと意識の中で会話出来る。赤子の頃から見てるんだろ?今度はしっかりとアドバイスとかして助けてやれよ。」
「せんぱぃぃ!だいずぎでずぅぅ!!」
私は先輩に抱きついた。
「おうおう、分かった分かった!いいから涙と鼻水どうにかしろよ。」
そう言いながら、先輩は私の頭を撫でてなだめてくれた。
頑張れ太郎くん!私!応援するからね!
なんだかんだあってここから、日本生まれ、日本育ち、日本死亡の元高校二年生、元斉藤太郎の
異世界転生物語がはじまる!