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友人

 それから更に一週間経った頃。


「美羽、今日は推し活の日だろ? 勉強は帰ってからすれば良いじゃん」


「そうなんだけど、後ちょっとだけ」


 推し活をしたせいで受験に失敗したなんてことにはなりたくないので、時間の許す限り勉強したい。


「お兄様、推し活ってなんですの?」


「レイラちゃん聞いてないの? 美羽ドルオタなんだよ。あ、アイドル……歌って踊れる格好良い人が大好きってこと。その人を応援しに行く活動のこと」


「美羽は格好良い人が好きなのですね」


 私は勉強を中断し、レイラに言った。


「レイラ、ごめん! 今日だけ留守番頼める? まさかレイラがうち来るなんて思ってなかったから、チケットが一枚しかなくて。次回からはレイラのチケットも取るから」


「宜しいですわよ。お任せください」


 ニコッと笑うレイラに兄が言った。


「レイラちゃん、奇遇だね。僕も今日はバイトが休みなんだ。二人きり、何をして楽しもうか。軽く運動でもするかい?」


「げ、お兄ちゃん休みなの?」


「たまには僕にだって休みはあるさ。美羽、何も心配しないで推し活行っておいで」


 満面の笑みで私を見送ろうとする兄。これはわざわざ私の推し活の日を狙って休みを取ったに違いない。レイラの貞操が危ない!  


「魔王様、レイラを……あれ? 魔王様は?」


「魔界へ戻りましたわ。暫く不在にしていたのでやる事が山積みなのだとか」


「でしょうね……」


 魔王は、ほぼうちにいる。たまに魔界の様子を窺いに戻るが数時間もせずに戻ってくる。魔王というものがどういった職種に当たるのかは不明であるが、仕事は溜まる一方だろう。


「それにしても今日じゃなくても良くない? 昨日とか一昨日なんて、そこでゴロゴロしてたじゃん。何で今日なのよ」


 私は、そこにいない魔王に文句を言った。そして私はある言葉を思い出した。


『なんかあったらすぐに連絡しろよ。秒で駆けつけてやるから』


◇◇◇◇


 私は今、推し活のライブ会場に来ている。


「小夜ちゃん! 今日は思いっきり息抜きしようね!」


「もちろんよ。ファンサしっかりしてもらえるよう、徹夜で作ったんだから!」


「小夜ちゃん流石。健斗にガチ恋しちゃってるもんね!」


 私の唯一の女友達、小夜は私と同じくアイドルオタクだ。高校生に入ってからの付き合いで、度々こうやって共に推しに貢ぎに来ている。ついでに、乙女ゲームを勧めてきたのも小夜だ。


 ちなみに、受験生になってからアルバイトは辞めたが、このお金は自分で稼いだもの。誰にも文句は言わせない。


 そして、家を出る時に心配していたレイラは拓海に任せてきた。


『あれは、お前が危険な目に遭ったらって意味で……』


『今めっちゃ危険なの。見てよ、あの獣を。レイラは純粋だから一人にさせたらすぐに食べられちゃう』


 拓海にレイラと兄の様子を見せると納得したようで、渋々レイラの護衛を引き受けてくれた。


『仕方ない。気を付けて行ってこいよ』


『ありがとう! 拓海大好き!』


 これできっとレイラは大丈夫。多分大丈夫。拓海も兄に洗脳されたらどうしよう。兄と一緒になってレイラを……。


 いやいや、拓海は大丈夫! 汚れなき純粋な心の持ち主だ。そう信じたい。


「どうしたの、美羽? 始まるよ」


「うん、何でもない」


 私は黄色のサイリウム片手に推しのリクを応援した。


◇◇◇◇


「はぁ、今日も良かったね小夜ちゃん」


「私なんて健斗に爆レスもらっちゃったよ。あれはもう結婚だね! 結婚しても良い合図だよ」


「小夜ちゃん、リアコこじらせすぎだよ」


 そんなことを小夜と話しつつ会場を後にすると、人だかりが出来ているのに気がついた。


「なんだろあれ」


「グッズでも販売してるのかな? 美羽、行ってみよう」


 私と小夜は人を押しのけながら進んでみると、そこには黒髪黒眼の超絶イケメン。先程の推しよりも遥かに綺麗な顔をした魔王が立っていた。


「げッ、なんで魔王が……」


「え、美羽あの人知ってるの? まおう?」


 私は小夜を連れて、人混みから抜け出そうとすれば魔王が私に気付いたようだ。声をかけてきた。


「美羽! 迎えに来たぞ」


 一斉に周囲の視線が私に集まった。


「えっと……人違いかなぁ」


「人違いなわけないだろう。俺を馬鹿にするな」


「美羽? どなた?」


 小夜が目をキラキラさせながら魔王を見あげている。


「とりあえず、あっち行こ。目立ちすぎ」


 そう言って、私は魔王と小夜を連れて人通りの少ない路地に出た。


「どうしてこんな所に来てるの? 仕事は? 今日は帰って来ないんじゃなかったの?」


 魔王を質問攻めにしていると、魔王がやや怒ったように私に言った。


「俺よりあんな男達が好きなのか? 俺の顔よりあの男達の顔が」


「え……まぁ、全員じゃないけど好きだよ。ずっと推してきたし。ほら、見てよ。財布の中に御守り代わりにリクの生写真入れてるんだ。良いでしょ?」


 ついつい魔王に自慢げにアイドルの話をしてしまったが、興味がない話を聞かされる程つまらないものはない。


 謝罪しようとすれば、魔王は目を輝かせてリクの写真を奪い取った。


「ちょっ、私のリク……」


「なんだこれは! どうして、こんな小さいんだ?」


「後で説明するから。私のリク返してよ」


 魔王から生写真を奪い返すと、魔王は名残惜しそうに生写真の行方を追った。


 私と魔王のやりとりを見ていた小夜が私に聞いてきた。


「美羽の彼氏? どうして内緒にしてたの? 私たち親友だと思ってたのに……」


 後半は演技っぽかったが、小夜に内緒にしていたのは事実だ。謝っておこう。


「小夜ちゃん黙っててごめんね。でも彼氏じゃないよ。最近うちでホームステイしてる人」


「こんな超絶イケメンと一緒に暮らしてるの? 彼氏より贅沢じゃん! 私毎日遊びに行く!」


「毎日って……」


 私と小夜が話していると、魔王がポツリと呟いた。


「俺もアイドルになる!」


「は? 何言ってるの。気を確かに持って。あなたはマオ……やるべきことがあるでしょう」


「俺も財布に入れてもらいたい!」


「美羽、良いじゃん。私、推し変するよ! 貢ぎまくるよ!」


「小夜ちゃんも落ち着いて!」


 暫くこのやり取りが続き、埒が開かなくなってきたので小夜とは解散し、私は魔王と帰ることになった。

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