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無駄足?

※美羽視点に戻ります※

 小夜と拓海と魔王が田中を助けに行っている間、私は王城へと忍び込んだ。


 勉強? そんなの田中が連れ去られたって聞いて呑気に机と向き合えない。私も小夜達と田中を助けに行きたかったのだが、私のアイテムは治癒しかできない。行ったところで足手纏いになる。そこで私は考えた。攻略対象達に注意を促そうと。


 シャーロットは今、コリンとブラッドと一緒だという情報があった。ということは、サイラスとアレックス、セドリックは別行動をしているはずだ。


 短時間で三人に会うのは難しいが、王城ならサイラスと運が良ければ側近のアレックスに会える。惚れ薬の効果が切れかかっている今のうちに、決戦までの一週間、シャーロットに会わないで欲しいとお願いしにきたというわけだ。

  

「残念。部屋にはいないか……」


 早速サイラスの自室に来てみたが不在だった。そして、ふと気がついた。私はサイラスの部屋以外、王城内部のことを知らない。この広い王城を果てしなく歩き回るのかと思うと後悔が押し寄せてきた。


「うう……セドリックにしておけば良かった」


「ミウ?」


「え?」


 後ろを振り向くと、そこにはアレックスが立っていた。運が良すぎる。久々に見るがやはり顔が良い。ついつい拝みたくなる程だ。


 今のアレックスは、私の名前を譫言のように言っているとコリンからの情報だが、果たして私の言う事に耳を傾けてくれるだろうか。私が黙っていると、アレックスは怪訝な顔で私に言った。


「またサイラスに会いにきたのか? それにセドリックにしておけば良かったとはどういうことだ?」


「私はアレックス様にも会いに来たんだよ」


「僕にもとは、ついで感満載だな」


 言い方がまずかったようだ。アレックスが不愉快な顔になった。


「そうじゃないよ。アレックス様にお願いがあって」


「お願い?」


「しばらくシャーロットに会わないで欲しいの」


 言えた。ちゃんと言えた。いつもなら言いたいことを言う前に何かが起こったり、肝心なことを伝え忘れて帰ったりするのだが、今回は目標達成だ。私が一人悦びを感じていると、アレックスは険しい顔つきで言った。


「何故だ?」


「え……」


 やば、これはもしや惚れ薬の効果は切れかかっていないのでは? そう思わせる程に敵意を感じるのは気のせいか。


 ここは早く退散して、サイラスを探そう。コリンの屋敷で会った後、サイラスは再び惚れ薬をかけられたらしい。しかし、サイラスとは兄妹設定だからか私に対する愛情? 家族愛? のようなものは変わっていないのだとか。


「ごめんなさい。私が口出すことじゃないよね。じゃあね」


 愛想笑いを浮かべながらその場を去ろうとしたが、アレックスに腕を掴まれた。


「来い」


 怖いよ。行きたくないよ。そんな思いとは裏腹にアレックスは私を強引に引っ張って、メイド姿で潜入した時に連れて行かれた部屋に入れられた。


 あれだけ部屋があるのだから別の部屋にも入ってみたい……ではなく、アレックスは私をどうするつもりだろうか。不安でいっぱいになった。


「あの……アレックス様?」


「約束を破った罰だ」


「約束? 罰って何? 痛いのは嫌だよ」


 アレックスの威圧感が半端なくて涙目になっていると、アレックスにギュッと強く抱きしめられた。


「僕から離れないって約束したのに、一ヶ月以上も離れてただろ。もう離さない」


 これは罰では無い。ご褒美だ。推しによる抱擁が罰というのなら、世のオタク達は約束等守らなくなる。それより……。


「アレックス様、私のこと分かるの? 嫌いじゃないの?」


「嫌いなわけ無いだろ。だが、やっと会えたと思ったら他の男の部屋の前で他の男の名前を呟いているのは正直不愉快だ」


「ごめんなさい……」


 謝ってはみるが、私は悪いのだろうか。私がはぐらかして先延ばしにしているのが悪いのかもしれないが、別にアレックスと付き合っているわけではない。そして約束とはなんだ? アレックスから離れない? そんな約束知らない。

 

「それに、何故僕だけ様を付けるんだ」


「へ?」


「コリンやセドリックを呼ぶ時は『様』なんて付いてない。あいつらの方が親しい仲ということか? サイラスに至っては……よく分からんが、とにかく不愉快だ」


 確かに。無意識だった。きっと最推しは崇拝の対象だから神様くらいのつもりだった。しかし、さっきまでのは敵意ではなく、嫉妬だったのかと思うと少しだけホッとした。


「じゃあ、私がアレックスって呼べば許してくれる? お願い聞いてくれる?」


 アレックスが私をそっと離して申し訳なさそうに言った。


「悪い。ミウの願いは叶えたいが、その願いだけは何故か聞き入れることが出来ない」


 惚れ薬は少なからずまだ効力を発揮している。これ以上は無駄な行為だと思い、私はアレックスが離れている隙にサッと扉まで移動して言った。


「そっか、分かった。また来週会おう、アレックス」


「ミウ、待って……」


 アレックスの声を無視して私は廊下に出て別の部屋に隠れて、魔道具で魔王を呼んだ。

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