戦線布告
※シャーロット視点です※
あたしは、とある森の中にある小さな小屋にいる。目の前には両手を後ろで縛られたリクと、それを近くで監視しているブラッド。そして、あたしの横にはコリンが立っている。
両手を縛られたリクが威勢よくあたしを睨みつけながら聞いてきた。
「俺を連れてきてどうするつもりなんだ?」
「聞きたいことがあるだけよ」
「聞きたいこと?」
「あなたはミウとどういう関係? まさかあなたも日本人?」
そう問えば、リクは黙ってしまった。この反応はどちらだろうか。図星で言葉が出ないのか、日本人というワードが初耳で意味を考えているのか。あたしは別の質問をしてみることにした。
「この国の名前は知ってるわよね? 国王陛下の名前は? 王妃様の名前は?」
「……」
「まさか知らないの? 平民の子供でも知ってるわよ。ねぇ、コリン」
「そうだね。だけどシャーロット、彼を無理矢理連れてきたんでしょ? 質問に応えないのも無理ないよ」
「確かにそれもそうね。じゃあ拷問でもしちゃおうかしら」
「え……」
やはり拷問は怖いのだろう。リクは恐怖の色が隠せずにいる。
この顔良いわね。なんだかそそられるわ。
「ブラッド、火炙りにでもしてちょうだい」
「嫌だ」
「え、あたしの言うことが聞けないっての?」
「オレはシャーロットに言われてコイツを連れてきたが、オレの魔法は拷問をする為にあるんじゃない」
クソ真面目ね。やはり惚れ薬を使っていないと無理矢理従わせるのは難しそうだ。だったらコリンも難しいのだろうか?
コリンは何度攻略を試みてもあたしに見向きもしなかった。そして惚れ薬を使おうとして、崖から落ちるというハプニングまで起こってしまった。あれは予想外だったが、あの後から急にコリンの態度が変わったのだ。
『シャーロット、僕は頭を打ってから少し記憶が曖昧なんだ。でも、シャーロットが僕のことを想ってくれていたのは覚えてる。そばに居ても良い?』
もちろんあたしの答えはYESの一択だ。記憶が曖昧なおかげで崖の一件は忘れているようで安心した。ミウに関しても、『あんな平民興味ないよ』と、ミウの一方通行だったようだ。
つまりは、コリンに対して惚れ薬を使っていない。ブラッド同様に自分の意思で行動するはずだ。魔王との戦闘で逃げられても困るので、やはり惚れ薬はかけておいた方が良いのだろうか。
あたしはコリンの方をチラリと見ると、コリンはいつものニコニコ笑顔を向けてきた。
「拷問までは出来ないけど、少し脅すくらいなら出来るよ」
「本当に? やってくれるの?」
「うん。シャーロットの望みは叶えたいから」
「ありがとう。コリン」
この調子なら惚れ薬を使わなくても良さそうね。惚れ薬も無駄遣いはしたくないので、それなら助かる。
「だけど、シャーロットには僕がそんな酷いことしてる姿は見られたくないからここで待っててくれる? ミウとの関係が聞けたら良いんでしょ?」
「そうね。他の仲間についても聞きたいわね」
「任せて。ほら行くよ」
コリンはリクを連れて外に出た——。
◇◇◇◇
十分後、あたしは小屋の窓から外を眺めている。コリンによって蔦で胴体を縛られているリクは宙吊りになっている。
話の内容は全く聞こえないが、リクが口を開いているので上手くやっているのだろう。
「え……」
宙吊りになっているリクが突然地面に落ちた。どうやら蔦が切られたようだ。コリンが何者かと戦い始めた。
「ブラッド! 奇襲よ、戦うわよ!」
「戦いなら任せとけ!」
戦闘と聞いてはりきるブラッドは、すぐさま小屋から出ていった。それに続いてあたしも外に出る。
「コリン、どうしたの。相手は誰?」
「分からない。見たことない奴だ」
「そう」
あたしは、金属音がぶつかり合う音の方を見た。そこにはブラッドと日本刀のような剣を持っている黒髪の青年がいた。
「あれは、ダンジョンの時にリクと一緒にいた男ね。王妃様のパーティーでも話しかけられたかしら」
顔が良いから名前を聞いてみたが、逃げるように去っていった男だ。あれは何だったのか未だに謎だが、これだけは分かった。
「あの男、強いわね。ブラッドと互角に戦ってるわ」
「うん。動きも早いし、あれは相当鍛錬を積んでるよ」
「あの男もミウと関係あるのかしら? あれだけ強いなら、こちらの仲間になってくれないかしら……そうよ、リクを使えば」
リクを人質にして交渉すればすんなり仲間に引き入れることが出来るかもしれない。あたしは、地面に転がっているリクの元へと駆け寄ろうとしたその時。
シュッ。
「矢? わ、何よこれ!」
足元の地面に矢が突き刺さったかと思えば、一気に突風のような風が吹いてきた。コリンが支えてくれて吹き飛ばずにすんだが、かなりの威力だ。どこからの攻撃か、矢が飛んできた方角を向いて探せば、木の上から女の子がヒョイっと下りてきた。
「た……リクは渡さないわよ」
「お前なんだその格好は」
「可愛いでしょ? さっき完成したとこなのよ。リクのもあるよ」
「お前に名前で呼ばれたくないな」
「しょうがないでしょ」
リクと女は危機感を全く感じていないかのように会話をしている。やはりこの女も黒髪で日本人を思わせる。しかし、先程の攻撃は魔法だ。日本人なわけがない。そしてこちらも使えそうだ。
「ねぇ、貴女、あたし達の仲間にならない?」
「は? なるわけないでしょ」
女は剣が擦れ合う音の方に向いて叫んだ。
「ブラッド! 誘拐なんて見損なったわ! そんな卑怯者だったの!?」
森中に響き渡るのではないかと思う程に大きな声はブラッドに聞こえたようだ。剣を振るう手がピタリと止んだ。
するとブラッドが戦っていた男もリクと女の元へとやってきた。
「よし、みんな帰るわよ!」
「ちょっと待ちなさい」
女は含み笑いをしながらあたしを見下すように言った。
「シャーロット、一週間後が楽しみね。次は正々堂々と勝負よ!」
三人はその場から消えた。




