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誘拐宣言

 コリンの父親の出現でシャーロットは泣く泣く帰宅した。そして、私はといえば……。


「バレたらどうしようかと思ったよ。声までそっくりに出来るんだね。ショコラ凄いよ」


「こんなの朝飯前よ。お父さんを探すのに時間かかっちゃったけど」


 少女姿のショコラが得意げに言った。


 そう、私はショコラに助けを求めていたのだ。変幻自在にどんな姿にもなれるショコラ。ショコラは一度見ればその人間の姿にもなれるらしい。故に、コリンの父親のフリをすれば容易く帰ってくれるのではないかと。


 ただ、ショコラはコリンの父親の姿を見たことがなかった。その姿を見るまで、私がシャーロットを足止めする算段だった——。


 私とショコラの顔を交互に見ながら、コリンは言った。


「ねぇ、ミウは何者なの?」


「何者? 別に何者でも……」


「美羽はね、あらゆる食材を素晴らしい物へと変える、言わば女神様よ」


「ショコラ、テキトーなこと言わないでよ。コリン気にしないで。それよりコリン、起きてて大丈夫なの? しんどくない?」


 さっきから私とコリンとショコラはソファに座って紅茶を飲みながらお喋りをしているのだ。


「うん。もう平気みたい。でもさ、シャーロットは僕に近付いて何がしたいんだろ……」


 困った顔をしながら私とショコラは目を合わせた。


「美羽、コリンには言った方が良いんじゃない? 薬のことだけでも」


「ミウ何か知ってるの? 薬ってなに?」


 コリンの疲弊した顔を見ていると、これだけ何度も迫られて命まで危うくなっているのに何も伝えないと言うのも可哀想に思えてきた。


「シャーロットはね、コリンに惚れ薬をかけようとしてるの。手に何か持ってたでしょ? 多分あれ」


「え、何それ。なんで? だってシャーロットにはサイラスがいるじゃん。さっきも一緒に来てたし」


「うん、そうなんだけどね……」


「まさかサイラスも? もしかして最近またシャーロットに夢中のアレックスも?」


 私は黙って頷いた。コリンは衝撃を受けているようだ。


「でもなんで惚れ薬なんて使うの? シャーロットは何がしたいの?」


「それは……」


 魔王とレイラのことを私がペラペラ話すわけにはいかない。言葉に詰まっていると、コリンはへらりと笑って言った。


「言いたくないことは言わなくて良いよ。惚れ薬のことだけでも教えてくれてありがとう」


「ごめんね」


 空気を読んでくれたのは有難いが、これがこの屋敷で家族に蔑ろにされた故に培われたものかもしれないと思うと、何だかいたたまれない気持ちになった。


 暫く沈黙が続いたが、スコーンを食べ終えたショコラが口を拭きながら淡々と言った。


「それよりこれからどうするの? あれ、また絶対来るよ。このままだとコリンが危ないよ」


「だよね……」


 惚れ薬をかけるだけならまだ良いが、コリンを崖まで追いやっておいて平然としているのだ。今後も何をしでかすか分からない。


「私の家……って訳にもいかないし、魔……お兄ちゃんにも相談して、安全に過ごせる方法考えよう」


 そういえば、コリンが目覚めてから魔王の姿を見ていない。何かあったのだろうか。ショコラを見ると頭の中でショコラの声が聞こえてきた。


『みんなでアイテム強化のできる湖に行ったよ。シャーロットの今回の行動には我慢できないって拓海達が怒ってさ』


『そっか。みんな正義感強いもんね』


『魔王が今日中には迎えに来るって』


『了解』


 ショコラとの脳内会話を終えると、ショコラはヒョコッと立ち上がった。


「お腹いっぱいになったし、わたしはそろそろ帰ろっかな」


「え、ショコラ帰っちゃうの? じゃあ私も」


「良いよ。背中乗せてあげる」


「あ……」


 魔王がいないのに宙返りでもされたらそれこそ転落死してしまう。私はコリンに申し訳なさそうにお願いした。


「悪いけど、お兄ちゃんが迎えに来るまでここにいさせてもらっても良い?」


「もちろん」


「サービスしようと思ってたのに……」


◇◇◇◇


 魔王が来るまでコリンの部屋で待機することになった私だが……。


 改めて二人きりになると緊張する。BGMでも流れていればどうにかなるが、部屋は静まり返っている。


 コリンが覚醒したばかりの時はドーパミンが放出されていたのだろう。テンション高めで次から次へと口から言葉が発せられたが、落ち着いた今となっては何を話せば良いのか分からない。


 コリンもお喋りなように見えて、あまり喋るタイプではないのかもしれない。二人きりになってからは憂いを帯びた表情で窓の外を眺めている。その可愛さからは想像が付かない大人びた雰囲気にギャップ萌えだ。


 私がコリンに見惚れているとその視線に気付いたようだ。コリンがこちらを向いた。


「どうしたの? 紅茶のおかわりいる?」


「ううん。大丈夫」


 このやり取りは実は五回目だったりする。紅茶を飲みすぎてお腹はタプタプだ。


「お兄さん遅いね」


「ごめんね。私がいたら邪魔だよね」


「そういう意味じゃないよ。そっち行って良い?」


「うん」


 コリンが椅子から立ち上がって、ソファに座っている私の隣に腰掛けた。


「ずっと考えてたんだけどさ」


「何を?」


「ミウは僕が目を覚ました時、何してたの?」


「え……」


 言えない。眠り姫のように、眠りから覚めない人にキスをすれば目覚めるのではないか試そうとした。なんて言えない。考えが幼稚すぎて、その馬鹿さ加減に鼻で笑われる。


「あれは……気にしないで」


「ミウはさ、僕のことなんだと思ってんの?」


「え? コリン?」


 いつもニコニコなコリンと違って、無表情だ。怒っているようにすら見える。どんな表情でも顔が良いとは羨ましい……じゃなくて、やはり寝込みを襲うなどシャーロットよりタチが悪い。幻滅されたのだろう。


「ごめんね。私最低だよね」


「最低だよ」


 口に出して言われると普通にショックだ。そのまま泣きそうになる。俯いて泣くのを我慢していると、コリンの手がそっと私の頬に添えられた。


「ミウは僕のこと友達にしか思ってないでしょ? だけど、僕だって男なんだよ」


「知ってるよ」


「分かってないよ。キスされそうになったのかと思ったけど、誘ったら普通に布団に入ってお喋り始めるし」


「……」


「だけどシャーロットの前では『私の大切な人』って言って、さっきも僕のことずっと見てたでしょ。ミウは僕をどうしたいの? 弄んで楽しい?」


「弄んでなんて……」


 コリンが複雑そうな顔をして私から目を逸らした。


「僕はアレックス達が惚れ薬を使われたって聞いて、内心喜んじゃったんだよ」


「え?」


「最低でしょ? 両親のことだって何度頭の中で殺したことか。本当の僕はこんな最低な男なんだ。だからさ、このまま攫って良い?」

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