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ストーカー

 今日は久々の学校だ。久々と言っても一日休んだだけなのだけれど。


「小夜ちゃん、田中の周り女子多いね」


「どうしたの? 美羽、ヤキモチ?」


「違うよ。前も人気者だったけど、今まで田中に興味なさそうだった子までキャーキャー言ってるなって」


 今は体育祭に向けての練習中。田中が走る姿を見て黄色い声援が上がったり、休憩の時には田中の周りに女子が群がっているのだ。田中もまんざらでもない顔をしているので少しだけ腹が立つ。そんな田中を横目に小夜が言った。


「きっとダンジョンでの修行の成果ね。あれだけ毎日魔物から逃げ回ってたら筋力が自ずと付いてくるものよ」


「え、田中戦ってるんじゃないの?」


「戦ってるけど、逃げ回ってることの方が多いよ。あのメガネのおかげで、五秒先の自分が倒される未来が見えるんだって」


「はは、それは逃げたくなるかも」


「まぁ、そのおかげで筋力と持久力が付いて息を切らさなくなったけどね」


 田中は運動は何もしていなくても、サッカー部の助っ人を任されたり人並み以上に運動神経は良かった。しかし、長時間剣を扱うとなるとそれなりに基礎体力や筋力を付けないと難しい。


「田中も無茶振りされて頑張ってるよね」


「そうだね。それよりさ、拓海君のアイテムがやばいんだって! あのオリハルコンから作られた剣だよ。しかも日本刀みたいなやつ。拓海君仕様に作られたんじゃないかってくらいピッタリ合ってさ」


 小夜が小声ではあるが興奮しながら早口で話すものだから、隣にいた女子が一瞬驚いた。それを気にもせずに小夜が続けた。


「あの姿を見たら美羽も拓海君に惚れなおすよ、きっと。攻略対象達はイケメン揃いだけど癖が強いのよ。私は今でも美羽には拓海君が良いと思ってるよ」


「はは、確かに拓海が一番まともかも」


 ゲームでは非現実的な恋愛を楽しむ為、癖が強いくらいがちょうど良い。しかし、実際に身をもって関わると少々……いや、かなり疲れる。


「でもまさか、サイラスまで攻略しちゃうとはね。しかも兄妹プレイって何なの? 一番気をつけた方が良いよ」


「なんで? 恋愛対象の好感度MAXじゃないから大丈夫じゃない?」


「それよ。美羽が油断してる隙にいつの間にか一緒のベッドで寝てたりするんだよ」


「うッ」


 小夜にはサイラスに貢いで貰ったところまでしか話していない。既にサイラスを抱き枕にしていたとは恥ずかしくて言えない。しかし、いつも一緒にいる小夜にはお見通しなようだ。


「まさか、美羽。既に一緒に寝たの!?」


「ま、まさか……あ、次私の番だ。行ってくるね」


 私は小夜から逃げるようにテイクオーバーゾーンに入ってリレーのバトンが来るのを待った。


◇◇◇◇


 時は少し経過し、放課後。私は小夜とレイラのアルバイトをしている激安スーパーへと歩いている。


「まさか、美羽からベッドに連れ込むとは……」


「小夜ちゃん、言い方」


 間違いではないのだが、言葉に出されると恥ずかしい。結局私は小夜にサイラスを抱き枕にして寝ていたことを白状させられたのだ。


「まぁ、美羽は暫くあっちに行かないしね。受験勉強に専念しなよ。選抜試験来月でしょ?」


「うん。そうする」


 そう、私は受験生なのだ。恋愛にうつつを抜かしている場合ではない。来月の選抜試験で失敗すれば、年明けの一般試験に挑まなければならない。


 ちなみに私のアイテムは『治癒』らしい。私のアイテムは元々ヒロインが持つものなので、聖女的な役割なのだろう。


 要するに、私は戦闘要員ではない。小夜や拓海達のように修行は必要ないのだ。シャーロットが仕掛けてくるまでは私は異世界に行かず、勉強に専念する予定だ。


 話しながら歩いていると、目的のスーパーに到着した。


「今日はいるかな……」


「美羽も好きだね。田中見とけば良いのに」


「小夜ちゃん、本物は違うんだよ!」


 勉強をするにも奮い立たせる何かが必要だ。つまり、推しのリクを見ればやる気倍増だ。再びリクがこのスーパーに現れるのではないかと学校帰りに寄ったのだ。


「あ、レイラちゃんだ。悪役令嬢のスーツ姿って新鮮だね」


「うん、レイラ格好良いよね。ねぇ、小夜ちゃん。あれ何かな?」


 レイラの斜め後ろの陳列棚からヒョコッと顔を出してカメラを構えている人がいる。それを小夜に伝えると、怒りながらその人に近付いて行った。


「ちょっと、そこのあんた。レイラちゃんのストーカー? 警察呼ぶわよ」


「げっ」


「あら、小夜様。いらっしゃいませ」


 小夜はレイラの前にストーカーらしき男を突き出した。


「レイラちゃん。このストーカーどうする? 警察呼ぶ?」


「ち、違うよ。ストーカーなんかじゃない!」


「どっからどう見てもストーカーじゃない。違うなら、そのサングラスと帽子とマスク取りなさいよ」


 観念したようで、男はサングラスとマスクを外した。


「悠馬君!?」


「え、何で悠馬が? とうとうそんなとこまで落ちぶれちゃったの? お母さんとお父さんに何て説明しよう……」


 小夜が本気で思い悩んでいると、レイラはうっとりとして言った。


「ストーカーまでして、わたくしを追いかけて下さるなんて素敵ですわ。その一途な愛が伝わりました」


「レイラ、それは一途な愛じゃないよ。ただのストーカーだよ。犯罪だよ」

 

 私がレイラに突っ込めば、悠馬はムスッとしながら否定した。


「ストーカーじゃないよ。護衛だよ。レイラさんを守る為だったらなんだってするんだから」


「まぁ、頼もしいこと。是非悪の魔の手からわたくしを守ってくださいませ」


「もちろんだよ」


 ストーカーの相手が悠馬だから危機感がないのか、はたまたただ単にストーカーを容認しているのか。私も人のことは言えないが、レイラは自分のこととなると無頓着だ。


 悠馬の発言にややイラッとした小夜が悠馬に向かって挑発するように言った。


「悠馬言ったわね。レイラちゃんを守る為ならなんだってするのね?」


「う、うん。剣を差し違えてでもレイラさんを守って見せるさ!」


 小夜が悠馬にピシッと指をさして言った。


「それなら有言実行してみなさい。この後、美羽の家に集合よ!」


「え、それってつまり……」


「ガチなやつよ。運良くアイテムは残り一つあるんだから」

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