パーティー②
※シャーロット視点です※
本日は王妃様の誕生日パーティー。
やはりあたしはヒロインなだけあって人が寄ってくる。今日はこれで二人目だ。
「一目あった瞬間から俺は君のとりこなんだ」
「あなた、ダンジョンで会った人ですわよね? あたしのアイテムを横取りした」
そう、声をかけてきたのはダンジョンでゴーレムを倒したメガネの男。この男は黒髪のせいか、日本人を思わせる。この世界にはいるはずないのに。
「アイテムを横取りなんて人聞きが悪い。俺たちがたまたま先にあのゴーレムに辿り着いただけだ。君たちも後でゴーレムを倒せば良かっただけだろ」
この男はこのアイテムがただのダンジョンの報酬だと思っている。特別な物だと知ったら他のアイテムにも手を出してきそうだ。
そしてあたしは気がついた。この男を仲間に引き入れれば良いだけなのではないか? そうすれば逆ハールートを目指さなくてもアイテムは全てあたしの物だ。都合の良いことにこの男はあたしに惚れている。
「まぁ、良いわ。あなた名前は?」
「た……」
「た?」
「ううん、陸だ。リク」
「そう、リク。あたしはシャーロット。あたしの恋人にしてあげても良いわよ」
すると、リクは満面の笑みであたしの手を握ってきた。
「本当か? 凄く嬉しい。シャーロットのような女性が俺を選んでくれるなんて!」
「ただ、四番目だけれどね。あたしにはサイラスとアレックス、ブラッドがいるから」
「四番でも五番でも良いよ! シャーロットの近くにいられるなら」
ヒロインの手にかかれば一般の男なんてちょろいわね。攻略対象なんてブラッド以外は惚れ薬を使わないとあたしの言うことを聞かないっていうのに。
そういえば、そろそろアレックスの惚れ薬の効果が切れる頃だ。今日のパーティーでみんな集まるはずなので、香水をかけておかなければ。ついでにセドリックとコリンにもかければ全員攻略よ。
辺りを見渡せば、アレックスとコリンが王妃様への挨拶に並んでいる姿が見えた。
「あの二人は後回しね」
「後回し?」
「何でもないわ。王妃様への挨拶はもう少しすいてからにしましょう。先に知り合いに挨拶をして回るから、リクあなたも付いてきなさい」
あたしはリクを連れて会場の中を歩いた。セドリックを探すために——。
◇◇◇◇
「いないわね……」
会場の中を一通り歩いてみたがセドリックの姿は見当たらない。少し休憩しようかと思っていると、リクが言った。
「シャーロット、少し外の空気でも吸いに行かないか? 歩いて疲れただろ」
「そうね。リクは案外気が効くのね」
気が効く男は嫌いじゃない。顔も悪くないし、意外と掘り出し物かも。
バルコニーに出ると、満天の星が目の前に広がった。ひんやりとした空気が心地良い。手すりにもたれかかっていると、リクが隣に並んできた。
「ねぇ、女の子のバッグの中って何が入ってんの? そんな小さいのに何も入んないでしょ」
「そうね。ハンカチやら必要最低限の物しか入ってないわよ」
「その必要最低限が気になる。少しだけ見ちゃダメ?」
「まぁ、見るだけなら。少しだけよ」
あたしはパーティー用のクラッチバッグをそっと開けた。
「何も入ってないでしょ。バッグ自体がほぼ飾りに近いのよ」
「へぇ。あ、何この可愛い香水。ちょっと見せ……」
「これはダメ!」
リクが惚れ薬に触ろうとしたので、反射的にバッグを閉じた。つい大きな声も出てしまい、リクが唖然としている。
「チッ」
「え……?」
今舌打ちした?
しかし、リクの顔を見ると申し訳なさそうに謝ってきた。
「悪かった。ついシャーロットがどんな香水使ってるのか知りたくなって……嫌いにならないでくれ」
「今後気を付けてくれれば良いわ」
やはり舌打ちは気のせいだったようだ。リクはあたしの言葉で笑顔になった。
そんなやりとりをリクとしているとバルコニーの扉が開いて誰かが話しながら出てきた。やや揉めているようだ。
「——たんだ」
「ごめんね」
男女のカップルのようだ。別れ話だろうか。あたしは、リクを連れて中に戻ろうと口を開きかけた瞬間、女の口から思いがけない名前が出て口を閉じた。
「あ、すみません。セドリック、違うとこで話そう」
「お待ち下さい。あたし達のことは気になさらないで」
セドリックが女と話をしているなんて珍しい。どうせ女がセドリックに告白してフラれている所なのだろう。隙を見てセドリックに惚れ薬をかければ、セドリックはあたしのモノよ。
セドリックはあたしとリクの事を気にした素振りもなく女に詰め寄った。
「ミウ、どうしてそんな事言うんだ。母上のせいか? それなら説得するから。オレがミウの家に婿入りしても良いんだ」
「私の家は貴族でも何でもないのよ。セドリックは大事な後継でしょ。私が勘違いさせるようなこと言ったからだよね、ごめんね」
あたしの予想は外れていた。フラれているのはまさかのセドリックだった。あの女嫌いのセドリックをここまで必死にさせるとは。中々やるじゃない。
「オレの事好きって言ったのは嘘だったの?」
セドリックは悲しそうな顔をしながら女の肩を持った。女は俯きながら暫し悩んだ様子を見せて言った。
「私好きなんて言った?」
「惚けて無かった事にしようなんて無しだからな。オレはしっかり覚えてる。初めて会った時、オレが出口まで一緒に行くって言ったらミウは言っただろ『大好き』って」
「あー……」
女は本当に忘れていたような顔だ。これは無自覚なタイプの女ね。まさかこんなちんちくりんに引っかかっていたとは。あたしが早く救出してあげるからね。セドリック。
そう思ってあたしがバッグに手をかけようとした瞬間、再びバルコニーが開かれた。
「アレックス……に、コリンも?」




