パーティー①
「大丈夫か? やはり抱っこした方が……」
「ううん。大丈夫」
「だが、パーティーが始まってしまうぞ」
馬車から会場の受付まで徒歩五分くらいなのだが、十分経った今もまだ到着していない。アレックスは隣で冷や汗を流しながら見守ってくれている。
そして、周囲からはひそひそと扇子越しに話している声が聞こえる。
「見て、あの御令嬢どうしたのかしら?」
「さっきから殆ど進んでいませんのよ」
「歩き方も変ですわね」
私はかろうじて転けてはいないが、転ばないように慎重に歩けばこの様だ。抱っこは嫌だし、もう帰りたい。泣きたい気持ちを堪えていると、ヒョコっと可愛らしい顔が現れた。
「あれ、ミウ?」
「コリン?」
「ミウ、久しぶりだね! 遊びに行こうと思ってたんだけど、家が分からなくって」
「そっか。ごめんね」
何だか甥っ子に会ったような、ほんわかした気分にさせられる。
「コリン格好良いね」
「えへ、ミウも素敵だよ」
コリンは茶色を基調に作られた正装に身を包まれ、可愛さに格好良さが加わって魅力倍増だ。
「あれ、アレックスだ。ミウと一緒に来たの?」
「ああ、ミウは僕のパートナーだ」
「二人は知り合い? てか、アレックス様なんか怒ってる?」
アレックスの顔はいつもと変わらないキリッとした表情にも見えるのだが、目が怖い……ような気がする。気のせいだろうか。
「コリンとは同じクラスだ」
「え、コリンとアレックス様ってタメなの!? 全然見えない。てことは私とも同い年?」
コリンルートを殆どプレイしたことが無かったのでコリンの情報は少ない。まさかこの容姿で同い年だったとは。
「タメってなぁに?」
コリンがキョトンとした顔で聞いてきた。可愛すぎる。可愛すぎてついつい抱きしめたくなる程だ。その顔を見入っていると、アレックスの咳払いで我に返った。
「ごめんね、同じ歳、同級生ってこと」
「そっか。それよりミウ、会場行かないの?」
「今行ってるところだよ」
コリンには止まっているように見えるのかもしれないが、これでも一メートルくらいは進んだのではないかと思っている。
「ミウはドレスが初めてらしいんだ。歩き方が分からんらしい」
「そうなんだ……」
コリンは暫し悩んで、私の隣に立って手を繋いできた。
「コリン、お前!?」
「ミウ、こうやってね、スカートを蹴るように歩いてごらん?」
アレックスの声を気にした様子もなく、コリンは歩き方を隣で実演してくれた。私はそれを見ながら試してみた。
「こう?」
「そうそう。もう少し思い切りしても良いかも。あと目線は前ね」
「こんな感じかな? あ、歩けてる! 私歩けてるよ!」
「ミウ良かったね」
私は嬉しくてコリンと手を繋いだまま会場に入ろうとすれば、アレックスにその腕を掴まれた。
「アレックス……様?」
「ミウは僕のパートナーだ。コリン、いい加減手を離せ」
アレックスの迫力に圧倒され、私とコリンは手を離した。
「そんなに怒らなくても良いのにね。アレックスはシャーロットが好きなんでしょ?」
コリンよ、私がずっと気に掛かっていたことを自然と聞くとは……。空気をバリバリ読んでいるにも関わらず、空気の読めない感じを醸し出す、さすがショタキャラだ。そしてアレックスの反応が気になる。
「あいつは……」
「あいつは……?」
「分からん。僕はミウが好きなんだ。ミウが好きなのに、シャーロットの言うことは聞かなければならない気がする」
「変なアレックス」
コリンは知らないから呆れた顔をしているが、アレックスは必死に課金アイテム……惚れ薬と葛藤しているのだろう。無理矢理精神を操られるというのはどんな気分なのだろうか。決して良いものではないのは分かる。
「早く正気に戻ると良いね」
ポツリと呟けば、上の方で何かが光った気がした。
「僕は今まで何に悩んでいたんだ? シャーロットなんて好きな訳ないだろう。なんだあの猫なで声は。思い出しただけで寒気がする」
「アレックス様?」
「アレックスがおかしくなっちゃったよ。僕のせいかな? 大丈夫かな?」
「僕は正気だ。早くしないと国王陛下の挨拶に間に合わんぞ」
◇◇◇◇
アレックスの心配も虚しく、会場に入ると既に国王陛下の挨拶は終わっていた。
私自身は自分の国の王様でもないし、長い話は苦手なので正直有難い。しかし、アレックスとコリンは違うようだ。
「どうしよ……謝罪しにいかないとダメかな」
「陛下はお優しいから怒りはしないだろうが、形だけでも謝罪しに行こう」
「ごめん、私のせいで……」
私が俯いているとアレックスが頭をポンポンと優しく撫でて言った。
「お前のせいじゃない。片時も離れないと言ったのにすまない。あそこに並んでくるからここで待っていてくれるか?」
アレックスの指差した先を見れば、国王陛下と王妃様の前には長蛇の列があった。
「お前も連れて行きたいところだが……」
私が貴族でもなければアレックスの婚約者でもないから王家に紹介できないのだろう。
「大丈夫だよ。いってらっしゃい」
「ごめんな」
アレックスとコリンは列に並びに行った——。
さて、私は魔王や小夜達を探そう。キョロキョロと辺りを見回せば。
「何かお困りですか?」
「あ、はい。友人を……って、レイッ、あ、ごめん」
レイラの名前を呼びそうになって、すぐさま口を閉じた。小声でメイド姿のレイラに話しかける。
「小夜ちゃん達どこいるか分かる?」
「あちらですわ、既に作戦実行されているようですわ」
「ありがとう、行ってみるね。仕事頑張って!」
レイラは軽くお辞儀をしながら私を見送ってくれた。レイラに言われた方へ歩いていくと小夜の姿が見えた。
「小夜ちゃ……」
「ミウ?」
小夜の名前を呼ぼうとした瞬間、横から声をかけられた。今日は良く名前を呼ばれる日だと思って声の先を見ると。
「セドリック」




