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王城②

 私は一人大きな城の廊下をコソコソと歩いている。運が良いのか悪いのか、使用人は皆パーティー会場に集まっているようで廊下には誰もいない。


「王太子の部屋が下の方なわけないよね。上の階に上がってみよ」


 私は何階まであるのか分からない城の階段をひたすら上ることにした。


「ここ何階なんだろ。そろそろ良いかな」


 私は上るのを一旦やめて一つの部屋の扉に手をかけた。


「重っ」


 扉は思った以上に重たくて、開けるのに少し力が必要だった。中に入ってみるとそこは、だだっ広い机も何もないただの部屋だった。


「一回目で当たるとは思ってないけどさ、これ何部屋あるんだろ」


 セドリックの屋敷も相当広くて部屋数も多かったが、ここはその何倍もありそうだ。気力を失いそうになっていると廊下から声が聞こえてきた。私はすぐさま部屋の中に隠れ、聞き耳を立てた。


「今日は王妃様の誕生日パーティーなのに大丈夫か?」


 これは昨日も聞いた声だ。間違いない、アレックスだ。てことは、もう一人はサイラスか。


「最近やけに体が重いんだ。少し休めばどうにかなると思うからパーティーまで部屋で休んでる」


 部屋! サイラスについて行けば部屋が分かる! なんて幸運なんだ、こんなにも早く部屋が分かるとは。


 そう思って、アレックスとサイラスの後を遠く離れた距離から物音を立てずに歩いた。そして、二人の入っていった部屋の前に立った。


「さて、どうしたものか」


 本人がいては中に入れない。サイラスは寝ると言っていたので寝てしまえばバレないかもしれないが、中にはアレックスもいる。


 パーティーまで待つか。だが、レイラを長時間この世界に滞在させるのは危険だ。しかも、家事もやっと人並み……よりやや下か。人並み以下だが少しできるようになったレベルだ。メイドの仕事を手伝って悪目立ちするのは良くない。


 そこで私はハッと気がついた。サイラスの部屋と繋がっている部屋ということは、この隣の部屋。右が左、どちらかの部屋ということだ。私、今日冴えてる! と浮かれていると、目の前の扉が開いた。


 ガチャッ。


「え……」


「なんだ、メイドか。何の用だ? サイラスは今休んでいるが」


「あ、いえ、えっと……」


 私が即答出来なかったせいで、アレックスが怪訝な顔をした。


「あ、体調が芳しくないとお聞きしましたので様子を見に来た次第です」


 見られている。めっちゃ見られている。疑いの目で見られている。ここは逃げるしかないと思い、決心したその瞬間。


「そうか。入れ」


 腰が抜けそうになったが、必死に耐えて中に入った。


「僕は用があるから一旦出るが、サイラスを頼むぞ」


「はい。畏まりました」


 丁寧にお辞儀をするとアレックスは部屋を退室した。


 これは何とも好都合。サイラスは寝ているし、アレックスもいない。サイラスを起こさないように忍び足で部屋を歩くと一枚の扉があった。


 きっとこの先の部屋にアイテムがあるのだと思い、扉に手をかけた。が、鍵がかかっているようだ。開かなかった。


 これはまたもや困った展開だ。鍵はどこにあるのだろうか。この部屋のどこかにあったら良いが厳重に別のところで管理されていたら振り出しに戻ってしまう。


 ひとまず部屋の中を探してみようと思い、机の上を見たり、引き出しをそーっと開けてみた。


 カタンッ。


 ヤバッ。引き出しを閉める時に音をだしてしまった。


「アレックス?」


 サイラスが起きてしまった。これはまずい。最大のピンチかもしれない。


「殿下。アレックス様はご用事があるようなので私が身の回りのお世話を致します」


 サイラスの枕元まで行ってそう言うと、不審がることなくサイラスは再び瞳を閉じた。


 そこで気が付いた。サイラスの枕元に鍵があることに。その鍵は小さな籠の上にポンと置かれており、すぐに取れそうだ。その鍵が目的の鍵かは不明だが、今はあれしか見当たらない。


 私はそーっと鍵に手を伸ばすと、サイラスの瞳がパチリと開いた。


「何してるの?」


「あ、いえ、枕元に埃が付いておりましたので」


「そうか。ここを掃除した使用人は解雇にしなければ……」


「なッ」


 埃一つで人の首が飛ぶとは恐ろしい。私の嘘でその使用人を路頭に迷わす訳にはいかない。


「申し訳ございません。私がキツく言っておきますので解雇は御勘弁を」


「……」


 駄目かもしれない。私まで追い出される。追い出されるだけならまだ良い。不敬罪で死罪なんてことになったらどうしよう。そんな心配をしていると、サイラスが溜め息を吐いた。


「次は無いって言っておいて」


「ありがとうございます!」


 私がお礼を言えば、サイラスはまた瞳を閉じた。本当に体調が悪そうだ。


「私に何か出来ることはございませんか?」


「じゃあ、そこの水を入れて」


「畏まりました」


 水差しからコップに水を注ぎ、サイラスの元へと持っていった。サイラスはゆっくりと起き上がり私の方を向いた。


 寝ていると分からなかったが、サイラスの翠色の瞳は宝石をはめ込んだのではないかと思わせる程に綺麗だった。


「どうしたの?」


「あ、いえ……」


 その瞳に吸い込まれそうになっていたとは恥ずかしくて言えない。


「君はアレックスと一緒で髪と瞳が黒いんだね。珍しい」


「へ、変でしょうか」


「ううん。とても綺麗だ」


 サイラスに髪の毛を一房掬われ、ドキリとした。それにゲームだと堅苦しい喋り方だったのに実物はとても柔らかい。ギャップ萌えだ。


「水もらえる?」


「あ、申し訳ありません。どうぞ」


 水を飲む姿も格好良い。この世界の人は顔面偏差値が高すぎて困る。


 それよりもどうしたものか。サイラスは完全に覚醒している。このままでは隣の部屋に行けない。日を改めるか。


「そうだ。君の髪色にとっても似合いそうな髪飾りがあるんだけどいる?」


「え、そんな畏れ多いです」


「良いよ。僕……私が持ってても仕方ないんだから」


 今一瞬、『僕』って言ったような。元々一人称は僕なのだろうか。私相手に王太子の威厳のようなものは見せなくても良いのにと思い、サイラスに言った。


「今はお部屋なのですから、殿下の話しやすい言葉で話して下さいね」


「君は……あの子と一緒のことを言うんだね」


「あの子?」


「何でもないよ。おいで」


 サイラスは立ち上がって枕元にあった鍵を手に取った。そして、隣の部屋の扉の前に立って鍵を開けた。

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