迷宮②
隣には推しのアレックスが歩いている。
実物は背が高くて、斜め下から見える顔がシュッとして格好良すぎる。小夜に早く話したい気持ちでいっぱいになっていると、ふと疑問が脳裏をよぎった。
シャーロットは確か古代遺跡に行くと言っていた。なので安心していたのだがアレックスがここにいるということは予定変更してシャーロットもこの迷宮に? 知ってもどうすることもできないが、私は一応聞いてみた。
「ここにはサイラス殿下もご一緒に?」
「いや、サイラスは別のところだ。僕は赤髪の男とはぐれたんだ」
赤髪とはブラッドのことか。分担してシャーロットとサイラスが古代遺跡に行ったのかもしれない。これは今日来て正解だった。アレックスにも会えたし。
チラチラとアレックスを見ていると、アレックスが立ち止まった。
「行き止まりだ」
「え? でもここしか道は……」
「完全に閉じ込められたな」
「うそ……私たちここで死ぬの?」
迷宮で推しのアレックスと二人きり、仲良く死んでいく……良いかもしれない。
「いやいやいや、良くない良くない」
「急にどうしたんだ。切羽詰まっておかしくなったか?」
「あ、はい。ごめんなさい」
何に対してか分からない謝罪をしていると、再び地響きがし始めた。アレックスとも離れ離れになってしまうのかと思ったその時、思い切り腕を引っ張られて抱きしめられた。
「あ、あのアレックス様?」
「悪い。だが、先程もこの地響きの後にブラッドとはぐれるハメになったんだ」
「そ、そうなんですね」
平常を装ってみるが胸の高鳴りがアレックスにも届きそうだ。既に届いているかもしれない。上を見上げてみると、揺れに耐えているアレックスの真剣な顔があった。その顔がこちらを向いた。
「安心しろ。離さないから」
キャー、一生離さないで!
と内心大喜びしていると揺れが収まってしまった。揺れが収まれば離れなければならない。残念な気持ちでいっぱいになって、最後にクンクンとアレックスの匂いを嗅いでおいた。
アレックスは私の不審な行動に気付いてしまったようだ。
「お前は一体、何をしている?」
「あ、いや、良い匂いだなと……ごめんなさい」
絶対に引かれた。こんな女ドン引かれるに決まっている。自分の行動に羞恥を覚えていると、アレックスの顔が私の首筋に置かれた。
「え、な、何? どうしたの?」
アレックスの行動に私が困惑していると、耳元で囁かれた。
「僕は何事も平等が好きなんだ」
耳元で囁かれたものだから、顔が耳まで真っ赤になって胸の鼓動が更に早くなったのを感じた。アレックスはその後すぐに私から離れてから、言った。
「お前も良い匂いがしたぞ。花みたいな」
「え、嗅いだんですか?」
「平等が好きと言っただろう。お前がしたなら僕もしないと」
先程の首筋に顔を置かれたのは私の匂いを嗅ぐためだったのかと分かれば、更に羞恥心でいっぱいになった。
「顔が真っ赤になって可愛いな」
え、今可愛いって言った?
その言葉で我に返った。アレックスがこの言葉を言うのは好感度が上がった時だ。すぐさまステータスを開くと、好感度五十二になっている。
まずい。非常にまずい。推しに可愛いと言われること、好かれることは非常に好ましいのだが、ここは異世界。好感度を上げてセドリックのようになったら困る。この世界から抜け出せなくなってしまう。
ふと、レイラの言葉を思い出した。
『今後は同じことが起こらないよう、好きでもない相手には優しくしないことですわ』
好感度五十二ならまだ引き返せる。優しくせずに好感度を下げていこう。そう心に決めた。
「良い匂いなんて嘘です。早く行きましょう。こっちに新しい道がありますよ」
「怒ってるのか?」
「怒ってません。元々こんなんです」
やや怒った風にそう言って歩き出せば、アレックスがやや斜め後ろを付いてきた。
お互い無言で歩いていると、魔王と小夜のことが気になってきた。魔王自体は転移で何処へでもいけるから良いが、小夜と魔王が離れ離れになっていたらと思うと小夜が心配になってきた。
「大丈夫か?」
「何がですか?」
「いや、足取りがさっきより重いから」
考え事をしていたら歩くのが遅くなっていたようだ。
「そんなことないです。それよりアレックス様は何しにこの迷宮へ?」
「ああ、何でも特殊なアイテムがあるらしくてな。お前は?」
「私もです。見つけても渡しませんから」
「そうか。アイテムを見つけたところで迷宮から出られんことには意味ないがな」
そこなのだ。魔物がいないだけマシだが迷宮が動いて振り出し……より悪い状況になる。どうしたものか。でもどうしてこの迷宮は動くのだろうか。
「まるで生きているみたいよね」
「何がだ?」
心の声が漏れてしまった。恥ずかしい。
「いえ、迷宮が生きているみたいに動くなと」
正直に言うんじゃなかった。アレックスが黙ってしまった。
「ごめん、気にしな……」
「試してみるか。少し揺れるかもしれん、僕に捕まってろ」
「え、こう? ひゃっ!」
恐る恐るアレックスの腕を掴もうと近づくと腰を引き寄せられた。アレックスは捕まってろと言ったのに、私が捕まえられてしまった。
アレックスは持っていた剣を思い切り地面に突き立てた。
ゴゴゴゴォォォォ……。
揺れどころではなく、地面は波のようにクネクネ動き、何枚も何枚も壁が迫り上がってきたり、反対に消えたりと迷宮が大混乱を起こしているかのような光景が目の前にあった。その途中、宝箱のような物を見つけた。
「アレックス様、見て! あそこ」
「しっかり捕まってろよ」
アレックスは私を横抱きにしてから、軽い身のこなしでクネクネの地面を走り出した。迫り上がる壁も難なく飛び越えながら宝箱の前に到着した。
「大丈夫か?」
「う、うん」
ジェットコースター並みに怖かった。ついついアレックスの首に思い切り抱きついてしまっていた。これがドレスやせめて制服だったなら漫画のワンシーンのようで素敵だが、私はジャージだ。絵面が悪すぎる。
アレックスがゆっくりと私を下ろして、二人で宝箱の前に立った。
「開けていいぞ」
「でも、開けたら私の物になるんじゃ?」
「絶対に渡さないんだろ?」
「そうだけど……」
ここまで来られたのはアレックスのおかげだ。敵に塩を送る形になるが、これはアレックスの物だと思う。渋っていると、アレックスが提案してきた。
「じゃあ、同時に開けるか。どっちの物になるかはアイテムに決めてもらおう」
「良いの? あ、違った……望むところよ! きっとアイテムは私を選ぶはずよ」
やや高飛車な女を演じ、アレックスと共に宝箱に手をかけた。
「「せーの!」」




