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迷宮①

 私は小夜と魔王と迷宮に来ている。本日は異世界には行かずに勉強しようと思っていたのだが、推しのリクに出会ってしまった為、勉強どころではなくなった。


 部屋でただ話をするのも時間が勿体無いので、ついでにアイテム探しに来たと言うわけだ。


「これ見てよ! ホンモノだよ、ホンモノ! ヤバくない? 顔が良すぎて神だよ。これもうお忍びデートっぽいよね」


 私は興奮して小夜と魔王に写真を見せれば、二人は口々に言った。


「これは田中ではないのか?」


「うん。田中にしか見えない。親戚だったりしてね」


「もう、田中じゃないよ。そっくりだったけどさ、近くに来た時、ふわって凄く良い匂いしたんだよ。アイドルってやっぱ違うね」


 私の話を聞いて、小夜が魔王にくっついた。


「魔王様も良い香りするよ。アイドルじゃなくても顔の良い人は皆良い香りだね」


「そうなの? 魔王様って私と同じボディソープ使ってるよね? 洗濯洗剤だって一緒なのに」


 そう言いながら、私は犬のように魔王をクンクン匂った。


「本当だ。でもね、肩を抱き寄せられた時の腕の力強さ、あれはキュンとしたよ」


「こうか?」


 私は魔王に肩を抱き寄せられた。


「ちょっと、美羽ずるい! 魔王様、私も私も」


「ま、魔王様、私は良いよ。小夜にしてあげて」


 私は魔王から解放された。何故だろうか、魔王にされてもキュンとした。魔王の方がリクよりも顔が良いからか、離れてからもドキドキが止まらない。


「美羽、大丈夫か? 顔が赤いぞ」


「何でもないよ。リクとのこと思い出したら恥ずかしくなっただけ」


「そんなこと言って、魔王様に抱き寄せられてドキドキしたんでしょ」


「ち、違うよ。それより拓海と田中は二人でダンジョン行って大丈夫なの?」


 そう、拓海と田中は二人でレベルアップとお金稼ぎの為ダンジョンに行っている。


「新しいアイテム手に入れたから大丈夫だろ。危険があればこれで知らせるように言ってあるし」


「そういえば、あのメガネってどういうアイテムなの?」


 私の質問に小夜が魔王に抱きついたまま応えた。


「未来予知が出来るアイテムよ。五秒先までだけど、相手の行動が読めるのよ」


「それって最強じゃん! 田中無敵だね」


「それは強かったらの話よ。今の田中じゃ未来が見えてもすぐやられるでしょ」


「確かに。あ、また行き止まりだ」


 迷宮の中は名前の通り複雑な迷路のようになっていた。今の所、魔物の類は出ていないが薄暗くてカビ臭い地下通路のようなところで、居心地は良くない。


「これ、はぐれたら絶対生きて出られないやつだよね」


「うん。美羽も魔王様にくっついといたら? ねぇ、魔王様」


「そうだな。何が起こるか分からんからな」


 魔王が手を差し出してきたので、その手を握ろうとした瞬間……。


 ガタガタガタガタ。


「「美羽!」」


「魔王様、小夜ちゃん!」


 地響きがしたと同時に私と魔王の間に大きな壁が迫り上がってきた。魔王の手を掴む間もなく、壁に遮られて私はいつものように独りぼっちになってしまった。


「あーあ、どうして私だけいつも一人になるのかな……」


 毎度毎度のことすぎてやや慣れつつある。しかしながら今回は本当に困った状況だ。一応魔王との間に出来た隔たりを叩いてみるが、向こうからの反応は全くない。


「迷宮なんて出られる自信ないよ……」


 スマートフォンのライトを付けて、先程まで行き止まりだった方向を照らせば、道が出来ている。そこしか道がないので私はゆっくりと前へ進んだ。


「どうか魔物だけは出て来ませんように……あ、そういえば、左手の法則とかテレビで見た気がする」


 アイテムは見つけられたら儲けもん程度に迷宮から出ることだけを考え、私は左手を壁に当てながら歩いた——。


 歩き始めて三十分。


「これ本当に出られるのかな……あれ?」


 今までと壁を触った感触が違う。少し温かい? 壁の方をゆっくりと光で照らせば……。


「ひゃー、お化け! お化け! お兄ちゃん、お兄ちゃん助けて!」


「黙れ」


「お化けが喋った! お化けが……」


「うるさい女だな。静かにしないと斬るぞ」


「ひっ」


 私は首筋に剣を突きつけられた。静かにすると、剣は元あるべき場所へと戻っていった。


「足がある。お化けじゃない?」


「当たり前だ。お前、変な身なりだな。こんなとこで何をしている?」


 どうやらお化けではないらしい。そして、毎度同じことを聞かれるのも慣れた。上下ジャージなので仕方がないが。


「さっき壁がグンって出て来て、友人とはぐれて……出口を探して歩いていたところです」


「お前もか」


「あなたも?」


 スマートフォンの光を上に向けて広範囲を照らせば、そこには黒髪黒眼にメガネをした麗しい青年がいた。この人のことは何度も攻略したから知っている。


「アレックス?」


 そう呟けば、アレックスは怪訝な顔で見下ろしてきた。


「何故僕のことを知っている。お前は誰だ」


「えっと……王太子殿下の側近ですよね? 知らない人がいたら不敬ですよ。はは」


 笑って誤魔化せばアレックスの警戒がやや緩んだ。


「確かにな。お前はどっちの道から来た?」  


「こっちの道です。ですが、こっちは行き止まりですよ。左手を這わせて来たので間違いないかと」


「こっちの道もだ。僕は右手だがな」


「てことは、こっち?」


 残る道は一つしかない。アレックスもその道を目視してから言った。


「一緒に行くか? 女一人は危ないだろ」


「良いんですか? 是非!」


 推しと歩ける日が来るとは。今日はリクとアレックス、二人の推しに会えて最高の日かもしれない。やや浮かれ気分でアレックスの横に並んだ。

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