離島①
私と小夜は制服に着替えてから魔王と共に離島にやってきた。私は服をあまり持っていないから制服だが、小夜は『異世界転移と言えば制服よ!』と、よく分からない持論があるようだ。そして、レイラは前回同様に留守番だ。
やはり異世界と日本は時間のズレがあるようで、こちらの世界は夜が明けたばかりだった。
小夜は澄んだ海を眺めながら感傷に浸っている。
「ここが異世界! 沖縄に来たような気分にしかならないけど感動してるわ。異世界転移したヒロインはこんな気分なのかも」
「確かに、沖縄の離島に似てるよね。原作者が沖縄好きなのかな?」
「あり得るわね。でもここでイケメン達が私を奪い合う。正にここは天国ね」
「小夜ちゃんを奪い合うんじゃなくて、シャーロットをだけどね」
魔王が私と小夜の会話を遮るでもなくただ眺めていた。
「魔王様、どうしたの?」
「いや、前回みたいにお前を危険に晒すわけにはいかんからな。しっかり見とこうと思って」
「前回って?」
そういえば小夜にはまだ伝えていなかった。既に古代遺跡に行って兄がアイテムを手に入れたことを。簡単に小夜に説明すれば、小夜はいつものように興奮した。
「やばっ、何そのイケメン! めっちゃ格好良いじゃん。山賊抱っこ私もされて見たい! 山賊抱っこって事は、やっぱガッチリ系なの?」
「ううん。細かったよ。それよりも私は小夜ちゃんがダイビングのライセンス持ってたことにビックリだよ!」
そう、小夜はダイビングのライセンスを取得しており、道具も一式揃っていた。なので、離島でのアイテムは小夜に任せることにした。
「だけど、その潜る場所がどこなんだろうね。魔王様分かりますか?」
「離島が恐らくここだろうと言うことしか分からんのだ。すまん、地道に歩いて探すしかない」
「小夜ちゃん時間大丈夫? 帰った方が良かったら別日に……」
「何言ってんの。魔王様とまだデート出来るってことでしょ? 何なら一泊しても良いくらいよ。これから行く時は私も一緒に行くから、置いていかないでよ!」
このままいつの間にか小夜まで同居してしまいそうな勢いだ。私は嬉しいが部屋が狭くなりそうだ。
「じゃあ、地道に歩いて探そっか」
◇◇◇◇
小一時間程海沿いを歩いているが思いの外島は広く、穏やかな海岸が続くばかりだ。
「美羽、ながら勉強は危ないよ」
「だって、時間が勿体無いじゃん。ただ歩いてるだけなんて」
「大丈夫だ。美羽が転けないように俺が後ろからちゃんと見てるから」
私は単語帳片手に歩いている。暗記物は運動しながらが良いとも言うし、アイテムも手に入って英単語も覚えられる。一石二鳥だ。
「でも、やっぱ海沿い歩いてもダメなのかな?」
私がそう言うと、小夜が海とは反対を指さして言った。
「火サスでは大体こっちの険しそうな森を抜けたところに断崖絶壁があったりするよね」
「あー、あるね」
「よく分からんが、確かにゲームでも森を抜けるようにはなっていたな」
綺麗な澄んだ海に反して、森は何とも言えない雰囲気が漂っている。野生動物がキーキー鳴いている声も聞こえる。
それが可愛い動物なら良いのだが、ここは異世界。何がいてもおかしくはない。出来ることなら森に入らずして鍾乳洞の入り口となる海に面した崖を見つけたかった。
「やっぱこっちの道に行くしかないね……このままだと日が暮れちゃいそうだもんね」
そうして私たちは魔王を先頭に一歩森に足を踏み入れた。その瞬間、背筋に緊張が走った。私は単語帳を鞄にしまい、小夜の腕に自身の腕を絡めた。
「小夜ちゃん、なんか見られてるよね?」
「何かの縄張りに入ったんだろうね」
「俺から離れるなよ」
カシャ、カシャ、カシャ….…。
魔王が振り向いた瞬間、小夜がすかさずカメラを構え、連写した。
「キャ、魔王様格好良い! 小夜は魔王様から絶対離れませんので。そして、その御尊顔をしかとカメラに記憶させますのでご安心を」
「美羽、毎度毎度これはどうにかならんのか」
「推される者の宿命というやつだよ。魔王様」
「それなら致し方ない。我慢するか」
余談だが、魔王はまだアイドルになりたがっている。一度オーディションにまで行った程だ。その容姿のおかげで、即合格! かと思いきや魔王は音痴だった。そしてリズム感も無かった。
採用担当者は、魔王にモデルや俳優の道を勧めたが、何故か魔王はアイドルにこだわってその誘いを断っていた。
そんなことよりも、今はこの森を早く抜けなければ。小夜のおかげで緊張感は和らいだが、何かに見られているのは変わりない。魔王の後ろを離れないように私と小夜は周囲を警戒しながら歩いた。
「キャッ!」
「え、何?」
小夜が悲鳴をあげた瞬間、小夜の体が宙に浮いた。小夜の方を見上げると、一本の蔦のようなものが小夜の足に絡みつき小夜は宙吊りにされていた。
「小夜ちゃん、待ってて、すぐ助け……」
「ちょっ、パンツ丸見えじゃない。せめてお腹にしてよ。普通にまっすぐ持ち上げなさいよ!」
小夜は突然宙吊りにされた恐怖よりも下着が見える方が嫌なようだ。必死に制服のスカートを手で押さえて蔦に文句を言っている。
魔王も小夜の反応に一瞬呆気に取られていたが、すぐさま持っていた剣で蔦を切って小夜をキャッチした。
「魔王様……私、怖かった」
魔王に抱っこされた状態の小夜は、瞳を潤ませながらそう言うが、吊し上げられた時の小夜は微塵も恐怖の色が見られなかった。説得力のかけらもない。魔王も困惑した表情で小夜をおろした。
「小夜ちゃん凄いね。こんな状況も怖くないんだね」
小夜に対して呆れを通り越して感心していると、小夜は言った。
「だって、魔王様が付いてるのよ。怖いわけないじゃない」
「凄い自信だね……」
でも確かにそうだ。我が家で平和に過ごしている魔王しか見てこなかったので忘れていたが、魔王はこの乙女ゲームでもラスボス的存在。弱いわけがない。そう思うとなんだか急に体が軽くなった気がした。
「って、今度は私!?」
気持ちの問題ではなく、物理的に体が軽くなっていたようだ。私が蔦に吊し上げられた。
「美羽、待ってろ!」
魔王が先程同様に蔦を切るが、小夜の時とは違って次から次へと蔦が絡みついてきた。すると、先程まではそこには無かった巨大な食虫植物が現れた。
「え、やだやだやだ。私あんなのに食べられたくない」
今にも飲み込まれそうな程、巨大なそれは大きな口を開けて私をずるずると引き寄せている。




