表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/86

古代遺跡②

 私は未だ美青年に山賊抱っこされた状態でいる。頭に血がのぼって頭痛がしてきた。


「まだ出口見つからないの?」


「うるさいなぁ。だったらお前も探せよ」


「ごめんなさい……」


 相手は超絶イケメンなのにこの乱暴な口調のおかげで緊張することなく話せている。推しのリクの握手会では緊張しすぎて全く喋れないのに。


「あ、これかな」


 美青年は何かを見つけたようだ。壁を手でコンコン叩いている。そして、そこを押し込んだ。


 ガタガタガタ……。


 石の壁が動き出し、人が通れる程の出口が現れた。


「やった。出られるの?」


「この部屋からはな」


 この髑髏だらけの部屋から出られるだけで十分だ。元々この中に入る予定だったのだから。歩いていれば途中で兄と魔王にも出会うだろう。


 部屋から出ると私は地面におろされた。乱暴なその口調とは反対に、美青年の私をおろす仕草はゆっくり丁寧だった。


「ありがとう」


 素直に笑顔でお礼を言えば、美青年は照れたように頬をポリポリ掻いている。


「礼はこの遺跡から出れたらで良いよ」


「え、出口まで付き合ってくれるの?」


「当たり前だろ。オレはそんな薄情な男じゃない」


「ありがとう! 大好き!」


「え……」


 あ、やば。私は昔から兄や親しい人に御礼を言う時に『大好き』を付ける癖があるのだ。初対面の人に言うなんて馴れ馴れしいにも程がある。失礼極まりない。


「ごめん」


「いや、気持ちは分かった」


「良かった」


 美青年に謝罪の気持ちが伝わったようだ。安堵していると、隣で何やらブツブツと呟いている。


「地味ではあるが、化粧と香水まみれの女よりはマシだ。うん。なんか話し易いしな。この間の女なんて猫なで声で気色悪かったし、オレにはこっちの方が良いかもしれん。縁談話もこれで無くなるはずだ。うん……」


「どうしたの?」


「いや、ここから出たら色々決めていこう」


 何を決めるのだろうか? 分からないが、美青年は嬉しそうなので深く突っ込むのはやめておこう。余計なことを言ってしまって見捨てられたら困る。ここは同調するに限る。


「決まると良いね」


「おう。多分大丈夫だから安心しろ。その服はどうにかしないといけないけどな」


「え、これ駄目? 可愛くない? 結構可愛いって有名なんだよ、これ」


 制服全体が見えるようにその場でクルリと回って見ると、美青年は頬をピンク色に染めて言った。


「……可愛いかも」


「でしょ」


◇◇◇◇


 それから暫く遺跡の中を美青年と歩いた。ここに来てから随分と経った気がする。二時間? 三時間? 分からないが眠たくなってきた。


 我が家を出たのが十九時近くだった。明日も学校だと言うのに、早く帰って寝なければ体が持たない。

 

「大丈夫か?」


「うん」


「お前一人で良くこんなとこ来ようと思ったな」


「一人じゃないよ。ま……」


「ま?」


「うん、お兄ちゃん達と一緒。三人で来て入り口で落ちたの」


「そっかお兄さんが二人も……」


 魔王のことは口に出さない方が良い。この美青年の解釈が若干間違ってはいるが、私は嘘は言っていない。


 パタパタ……。


「うわっ!」


 何か上から飛んで来たので、咄嗟にしゃがんだ。こんなイケメンがいるのに、やはり私には『キャッ』みたいな可愛い悲鳴は上がらない。


 そんな私を美青年は庇うようにして前に立ってくれた。美青年は、冷や汗を流しながら私に聞いた。


「走れるか?」


「うん、走れるけど。どうしたの?」


 その瞬間、天井の暗闇から真っ赤な小さな光が無数に見えた。


「おい、走るぞ!」


「う、うん」


 美青年は私の手を握って一気に走り出した。後ろからはキー、キーとコウモリのような鳴き声がする。


「あ、あれ何?」


「吸血コウモリだ! 一体くらいに噛まれるのは問題ないが、あれだけの数に噛まれたら死ぬ」


「またまたピンチじゃん!」


 眠気なんて吹っ飛ぶ程に私は必死に走った。走って走って、つまずいた。


「チッ」


 美青年の舌打ちが聞こえて怖くなった。足手纏いになったから見放される。このまま吸血コウモリの餌食になって死ぬんだ。そう思って目を固く瞑った。


「……あれ? 噛まれてない」


「全滅は難しいが守ることならできる。魔力がある限りは、だがな」


 美青年は水でシールドを作ったようだ。吸血コウモリはそのシールドにぶつかっては飛んでいき、ぶつかっては飛んでいくを繰り返している。


「ありがとう……見捨てないでくれて」


「当たり前だろう。だが、このままではまずい」


 守るので手一杯で攻撃もできない上、四方から襲ってくるので逃げ道もない。私のせいだ。私のせいでこの美青年まで巻き込んでしまった。


 罪悪感と後悔に苛まれていると、遠くの方から兄の声が聞こえた。


「!? お兄ちゃん! お兄ちゃーん!」


「美羽!? 美羽!」


 兄と魔王の姿が見えた。


「あれがお前のお兄さんか?」


「うん」


 魔王が魔法で助けてくれる。そう思っていたら、兄が前に出てきた。見慣れない剣を持っている。


「試してみるか」


 そう言って兄が剣をひと振りすれば、威圧のような覇気のような何かが剣から放出され、辺り一体の吸血コウモリはパタパタと倒れていった。


 数匹残った吸血コウモリを魔王が炎で燃やしていきながら私の元までやってきた。


「すまなかった。一人にさせて」


「一人じゃないよ。この人が一緒だったから」


 私がそう言うと、魔王と兄は美青年に御礼を言った。


「ありがとう。美羽を助けてくれて」


「兄の僕からも、本当にありがとう。感謝してもしきれないよ」


「いえ、当然のことをしたまでです。義兄上様」


 美青年は丁寧にお辞儀をした。


 一通り感動の再会と御礼も伝えたことだし、早速兄に聞いた。


「お兄ちゃん、それ」


「うん。美羽を探してたら見つけたんだ。僕が引き抜いたから僕の物になったっぽいよ」


「さっきの凄かったね! ガチで格好良かったよ」


「これで女の子にモテモテかな」


「うーん……あるかもね」


 先程の兄はそれくらい格好良かった。そんな兄が美青年に聞いた。


「そう言えば君はどうしてここに?」


「たまたま、遺跡の文字を解読しに来てたらミウさんに出会ったんです」


「さっきまでと話し方が違うね。どうしてそんな畏まってるの?」


 私がキョトンとした顔で美青年を見ると、美青年は照れながら言った。


「だって義兄上だろ? 敬意を払うのが礼儀だ。また今度改めて連絡するからミウの姓を教えてくれ」


「斉藤だよ」


「サイトウ……変わった名だな」


「そう? どこにでもいるよ」


「美羽、そろそろ帰ろう。早く寝ないと明日しんどくなるぞ。君も送ってやろう。遺跡を出たとこで大丈夫か?」


「はい。ありがとうございます」


 魔王の転移によって、美青年は遺跡前へ。私と兄と魔王は我が家へ転移した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ