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魔王の頼み

 帰宅すると乙女ゲーム『胸キュンラバーⅡ』のエンドロールが流れていた。


「ただいまー」


「おかえりなさいませ」


「ねぇ、魔王様もうクリアしたの? 始めたの昨日だよ。早くない?」


 私が魔王の背後からエンドロールを覗くと、魔王がゲーム機を持ったまま啜り泣いていた。


「えっ! 魔王様、どうしちゃったの? 大丈夫?」

 

 すると、魔王ではなくレイラが応えた。


「魔王様は倒され、わたくしもシャーロットによって連れ戻され、離れ離れになってしまいましたの」


「え、マジで? ハッピーエンドになっちゃったの?」


「何故自分で自分を倒さなきゃならんのだ! もう一回だ。次は攻略対象を変えてみるぞ」


「魔王様休憩した方が良いよ」


「いや、そんな時間はない! 一刻も早くバッドエンドの道筋を見つけなければ。レイラの危機なのだ」


 それから、食事だけはしっかり摂る魔王だがそれ以外の時間は寝る間も惜しんで乙女ゲームに費やした。


◇◇◇◇


 三日後、魔王の目は血走っていた。目の下にクマもでき、顔色も真っ青だ。


「魔王様。もう良いよ。私がやるから」


「いや、美羽は勉強があるだろう。居候させてもらってるだけで有難いのだ。俺達の戦いに巻き込むわけにはいかん」


「でも魔王様、そんなんじゃ過労死するよ。いや、ゲームのし過ぎだから過労ではないか。過遊死? 過娯死? 分かんないけど死んじゃうよ」


 私は魔王を引っ張ってゲーム機から遠ざけようとするが、女子高生のか弱い私では魔王はびくともしない。え? か弱いは余計だって? 一度くらい言ってみたかったのだ。か弱いって。


 それよりも、乙女心の分からない魔王が何度やってもハッピーエンドにしかならないとは……。


「次はわたくしにお任せ下さいませ! 昼ドラだけでなく、少女漫画、百合にBL様々な恋愛を熟読したこのわたくしなら、バッドエンドなど朝飯前ですわ」


「え、レイラ、何読んだって?」


 聞き間違いだろうか。私の部屋には少女漫画しかないはず。百合やBLモノの類はないのだが……。


「小夜様にお借りしたのですわ!」


「え、小夜ちゃんいつの間に?」


「交換日記のついでと言って、悠馬様がわざわざ持ってきて下さったのですわ」


「そうなんだ……」


 ちなみに、レイラは携帯電話をまだ持っていない。家にいることの方が多いので、今はいらないと言って購入していないのだ。


 そして文通となると届くまでに時間がかかる。悠馬がレイラとの交友手段として選んだのが『交換日記』だ。なので、悠馬は毎日のように学校帰りにレイラに会いにきている。


 そんなことよりも今重要なのはそこではない。レイラが純粋な乙女から腐女子の道へと進もうとしている。いや、既に進んでいるのかもしれない。魔王ごめん。と心の中で謝罪した。


「まぁ、恋愛観は人それぞれだけど、魔王様は休息とった方が良いよ。レイラに代わってもらおう」


「レイラすまない。俺が不甲斐ないばかりに」


「気になさらないで下さい。では魔王様はごゆっくりとお休みくださいませ」


 そして、次はレイラがゲーム漬けとなった——。


◇◇◇◇


「これは中々に難しいですわね。あちらの世界の男性陣はちょろ過ぎますわ。何故この選択肢で好感度があがるのかしら。魔王様も弱過ぎですし、甚だ疑問しか残らない結果ですわ」


 レイラも寝ずにゲームをやってくれているが、バッドエンドにならないようだ。ハッピーエンドかグッドエンドになってしまう。


「やっぱり私がやるよ」


「でも美羽は勉強があるでしょう? それにもうすぐ体育祭やら文化祭もあるから勉強する時間が減るって嘆いていたではありませんか」


「そうだけど……」


 そう、うちの学校の体育祭は秋にある。つまり、もうすぐだ。三年生は受験を控えている為、一、二年生に比べたら種目は少ないが全員参加だ。文化祭も然り。


 兄が私たちの会話を聞いて、困ったように言った。


「もう諦めて小夜ちゃんに聞きにいったら? 全部クリアしてるんでしょ?」


「うん。だけど、細かいことまで聞いたら変に思わないかなぁ? ただでさえ魔王様とレイラのイラストがまんまなのに」


「でも時間が勿体無いよ」


 兄の言う通りだ。着々と時間だけが過ぎていく。その間にシャーロットは先へとゲームのシナリオを進めているはずだ。


「まずいぞ」


「うわっ! 魔王様、びっくりさせないでよ」


 魔界に戻っていた魔王が突然現れたのだ。驚かされるのもこれで何度目だろうか。兄は慣れたらしいが、私は未だ慣れない。


「まずいって、どうしたの?」


「シャーロットは逆ハールートから俺を倒しにこようとしているようだ」


「逆ハールート? 王太子じゃなくて?」


 レイラもゲームの手を止めて、こちらにやってきた。リビングに四人集まったので、私はお茶を出して皆で座って魔王の話を聞いた。


「王太子は既に攻略しているから除外するとして、その側近のインテリキャラのアレックス、脳筋キャラのブラッドは攻略したようだ」


「なんか、魔王様の口から何とかキャラとか攻略とか言われたら変な感じだね」


「美羽、話の腰をおらないの」


「はーい」


 珍しく兄に怒られてしまった。大切な話を聞いている時は、兄は至極真面目なのだ。故に兄にとってもこの件は重要なようだ。


「でだ、残るはショタキャラのコリンと女嫌いのセドリックだ。セドリックは女嫌いなだけあってシャーロットも中々近づけないようだが、コリンは時間の問題かもしれん」


「逆ハールートに入ると何が違うの?」


 私の問いにレイラが応えた。


「個人のルートではシャーロットと攻略対象の一人が協力して魔王様を倒すのですが、逆ハールートは全員で倒しにかかります。つまりは六対一。圧倒的に逆ハールートの方がハッピーエンドに持っていきやすいのですわ」


「そんな弱い者虐めされて、魔王様可哀想……」


「弱くはないがな」


「じゃあどうして負けるんだ? 人間如きに」


「お兄ちゃん、人間如きって……」


 私も前同じこと言ったけどさ。第三者の立場で聞いたら酷い言葉だね。


「ダンジョンやら古代遺跡に武器があるんだ。魔法を強化させるものから魔法を無効化するアイテム等様々だ。それを使われたら負けるようだ」


「じゃあ、それを先に回収すれば!」


「そのつもりだ。だがな、あれは一人一個しか所有出来ないんだ」


「マジ? ヤバいじゃん。魔王様一人分しか手に入らないってこと? 後は全部あっちにいっちゃうの?」


「ゲーム通りならな。だから頼みがある」


 魔王がそう言うと、一瞬でその場に緊張が走った。皆が魔王の次の言葉を待った。


「一緒にあっちの世界へ行ってほしい」

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