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女子会①

 待ちに待った女子会の日がやってきた。


 私とレイラは小夜の家にお邪魔している。私の家でも良いのだが、魔王と兄が邪魔をしてきそうなので今回は小夜の家になった。


「一応紹介するね。こっちがホームステイしてるレイラ」


「初めまして。レイラと申します」


「で、こっちが小夜ちゃん」


「小夜です。って、え、ガチで? 何でこんなに可愛いの!? しかも日本語ペラペラ。ねぇちょっと肌白すぎない? やば、毛穴とか全然見えないんだけど。髪もサラッサラ。何のシャンプー使ってんの? 魔王様も一緒に住んでるんでしょ? 美羽の家は天国か!」


「小夜ちゃん、落ち着いて。気持ちは分かるけど」


 小夜のマシンガントークにレイラが押されている。小夜は、レイラを見ても髪型と化粧が違うので乙女ゲームのレイラだとは気付いていないようだ。


 小夜にならレイラの正体を伝えても誰にも言わないだろう。信じてもくれると思う。だけど、今のように興奮してゲームの中の出来事を質問攻めにしそうなので、念の為隠している。


 レイラはシャーロットに陥れられた被害者。あまり思い出したくないだろう。そして何より、悪役令嬢のスチルを生で見られると色んなポーズをレイラに無理強いするのがオチだ。


「ごめんごめん、中入って。今日は両親遅いからうるさくしても問題ないよ」


 小夜がそう言って小夜の部屋がある二階に案内してくれた。


「姉ちゃん、誰か来てんの?」


「うん、美羽が来てるよ。ちゃんと挨拶しなさいよ」


 リビングからヒョコッと顔を出したのは小夜の弟の悠馬、中学二年生。


「久しぶり、悠馬君」


「まだアイドル追っかけてんのか? そんなんじゃ彼氏出来ねーぞ」


「こら、悠馬!」


「ごめんごめ……」


 悠馬は私の後ろにいるレイラを見て固まった。小夜は固まった悠馬の顔の前で手をブンブン振っている。


「おーい、悠馬どうしたの?」


「姉ちゃん、俺は幽霊が見えるようになったかもしれない……しかも、めっちゃ可愛い外人さん」


「ふふ、この日本には面白い方が沢山いらっしゃいますわね。幽霊じゃありませんが、お邪魔しても宜しいですか?」


 レイラが淑女の笑みを浮かべれば、悠馬は悩殺されたようで、その場に跪いてしまった。


「美羽、レイラちゃん、バカな弟は放っておいて上行こう」


 小夜に続いて、私とレイラは跪いたままの悠馬を置いて二階にあがった。


◇◇◇◇


 小夜の部屋に入るなり、私とレイラは驚いた。特にレイラが。


「こ、これはなんと……魔王様が沢山いらっしゃいますわ」


 魔王の写真をプリントしたクッションや枕、写真が所狭しと壁に飾られ、更には魔王の写真を引き延ばした等身大魔王までいる。


「健斗はどうしたの?」


「一応いるよ。悠馬の部屋に」


 健斗とは小夜が推しているアイドルの一人だ。悠馬のことを考えると少し可哀想だが、健斗が処分されていなかったことに安堵した。


「テキトーに座ってね」


「うん、ありがとう」


「日本の女の子のお部屋と言うものは男性の写真を飾るのが当たり前なのですね。勉強になりますわ」


「これは多分少数派だと思うよ。他の女子はもっとふわふわして可愛らしい部屋じゃないかな? 知らないけど」


 友人が小夜しかいないのでイメージでしかない。レイラは魔王だらけの部屋をまだ興味津々に眺めている。私は魔王の視線を一身に浴びているようで居心地が悪い。


 写真の魔王が口々に『今日はカレーが良い』『オムライスだろう』『やはりハンバーグか?』『いやいや、ナスの揚げ浸しも捨て難い』と、晩御飯のメニューを相談し合っている声が聞こえる……ような気がする。


「小夜ちゃん、こんなのでよく勉強できるね。健斗の方が良いよ」


「そう? どこ見ても魔王様に応援されてる気分で捗るよ。美羽とレイラちゃん何飲む? 麦茶にコーヒー、紅茶、オレンジから炭酸系のジュースまで一応色々揃えといたけど」


「ありがとう。じゃあ私はオレンジにしようかな。レイラは何にする?」


「あのー、タンサンとは何ですの?」


「え……ガチ? レイラちゃん炭酸知らないの? 何処の国から来たの?」


 キョトンと首を傾げるレイラに小夜が驚きを隠せないでいる。


 まずい。最近レイラは日本の食材や食べ物に慣れてきたからうっかりしていた。飲み物は麦茶と緑茶、ウーロン茶しか飲ませていなかった。


 だって、貧乏なのだ。ジュースコーナーは自然とスルーしてしまう。それに、まさかレイラの世界に炭酸飲料が存在していないとは思ってもいなかった。


「えっとね……」


 どこの国を言えば炭酸がないのだろうか……分からない。今時そんな国が存在するのだろうか。存在はするだろうが、私はそこまでの知識を持ち合わせていない。


「レイラは生粋のお嬢様だから、そういう体に悪そうな物は出してもらえなかったんだって。他にもスナック菓子とかカップ麺を知らなかったよ」


 咄嗟に嘘を吐いた。あながち間違いでもないから信じて貰えたら有難い。そう思っていると、小夜がグラスにグレープの炭酸飲料を注ぎ、レイラに差し出した。

 

「レイラちゃん飲んでみなよ。口で説明するより体験するのが一番よ」


「これが、タンサン……。気泡が多いですが、見た目はただのブドウジュースのようですわね」


 レイラが初めて出会う食べ物を食す前に見せる顔をした。つまり、新しい出会いにドキドキワクワクするような期待の眼差しでそこにある炭酸飲料を見つめている。


「最初はシュワシュワってなって痛いような辛いような変な感じがするけど、美味しいよ」


「では……いただきます」


 ゴクリ、と一口飲めば、レイラの顔が歪んだ。

 

「な、これは毒ではないのですか? 喉が、喉が焼けるようですわ」


「レイラちゃんはまだまだお子ちゃまだねー。この美味しさが分からないとは」


「うっ、まだまだですわ! もう少し飲んでみましょう。グッ……痛ッ……」


 小夜はレイラの前で仁王立ちをして含み笑いをして言った。


「ふふふ、これが飲めるようになるまで今日は家に帰れないと思うことね」


「小夜ちゃん……キャラ変わりすぎだよ。中年のオジサン混じっちゃってるよ」


 そんなこんなでレイラと小夜は互いに緊張することなく初対面を終えた。これからまだまだ長い女子会トークが炸裂する予定だ。

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