部屋に迷い込んだ小さなコウモリを助けたら、実は魔王の息子だったとか言ってめちゃくちゃ迷惑な恩返しが始まった
いつも有り難うございます
よろしくお願いします
暑い。
暑い。
暑い…
クーラー?何それ。
ああ、冷たい風が出て部屋を冷やすやつ?
そこに付いてるけど、うちのはなんでか熱風が出てくるよ?
大家に言ってるんだけど、この築42年のアパートに金かけるつもりなんて毛頭ないらしい。
「来週あたりに業者を呼ぶ」と言われて3ヶ月が過ぎようとしていた。
もう、仕方ないので毎日夜は窓全開。
どうせ取られる物もないし。
ガタッ!!
ガタリガタッガタッ!
深夜、物音で目が覚める。
とうとう泥棒が入ったか…。
交渉でなんとか引き取ってもらおうと思い、むくりと起き上がる。
パシュパシュパシュパシュ…
パシュパシュパシュ…
何かが顔の横を、通っ…飛んでった。
でっかい蛾?
パシュパシュ言っていたのは羽音だった。
こんな羽音を出すなんて、蛾ならデカイやつだ。
めっちゃ怖い。
パシュパシュ…パシュパシュ…
怯えながらパシュパシュが止むのを待つ。
そうこうしていると、暗闇に目が慣れて飛んでいるのが小さなコウモリだとわかった。
部屋をクルクル飛んで、時々疲れて壁に張り付いている。
毛の生えた手羽先。
そう見えた。
俺は立ち上がると網戸を開けた。
「俺もびっくりしたけど、お前もびっくりしたろ?怖かったよな。
もう、解放してやるよ。さあ、お前は自由だ。何処へでも好きな所へ飛んで行きな…」
俺は厨二病を爆発させながら、手羽先が部屋から出るのを待った。
パシュパシュ…パシュパシュ…
くるくると部屋の中を飛んでいた手羽先が軌道を変え、するりと窓から出て行った。
パァン!!
俺は思いっきり網戸を閉めた。
ドン!!
「うるせーぞ!」
隣の部屋の爺さんに怒鳴られた。
深夜現れた手羽先のせいで、その日は寝不足だった。
「今夜も熱帯夜になります…」
携帯ニュースには、熱中症に気をつけろと、クーラーをつけろと毎日流れていた。
「チッ。それが出来たらやってるよ」
今日も窓を全開で網戸にして寝る。
網戸には小さな穴が開いていた。
たぶん手羽先はここから入ったんだろう。
ガムテープを貼っておく。
俺はタオルを濡らし、首に巻いた。
気化熱で涼しい。
「無いよりマシ」
おやすみ。
…
…
ドン…
ドンドン!
「おい。開けろ」
深夜、誰かが玄関を開けろと言う声で目が覚める。
いやいやいや…絶対開けないよね。
ノックの仕方とか、めっちゃ威圧的だもん。
こんなの開けたら命ないよね。
隣りの爺さんも鳴りを潜めているくらいだ。
ドンドン!「おい」
ドンドン!「開けろ」
「おい」
「ぎやーーーっ!」
突然真後ろから声がした。
いつの間にか背後に男が立っていた。
「開けろと言うのにお前が開けないから、入らせてもらった」
「……俺の…せい?」
「お前のせいだろう」
男は窓枠に腰かけた。
…ように見えて浮いていた。
「え?…」
「お前、昨日俺を助けただろう」
「は?…」
「お前が俺を助けた。だから恩返しに来た」
「は?…」
俺…誰か助けたっけ?
いや…コンビニで小銭ばら撒いて拾ってもらったけど、それは俺が助けて貰った側というか…
「昨日小さなコウモリを助けただろう。
あれは俺だ。
俺は…
魔王である親父の顔を潰さないように生きてきたが…お前にかけられた言葉で目が覚めた。
俺は自由だと。
それに気付かせてくれたお前に恩返しがしたい。
お前の世界では、恩返しは機織りと決まっているそうだな」
「は?」
恩返しが機織り?それ、鶴じゃね?鶴の世界の話しじゃね?この人鶴なの?
俺、鶴助けたの?
パチン。
男が指を鳴らすと「ドーーーーン!」大きな音と共に部屋の真ん中に大きな機織り機が現れた。
アパートがミシミシ言っている。
「これで機織りが出来るだろう?」
「誰が?」
「お前が」
「何で…俺が?」
「恩返しが機織りと決まっているからだ」
「俺…機織り出来ません」泣きそう。
「そうか。俺もだ。じゃあダメだな」
パチン
機織り機が消えた。
天井からパラパラとホコリやそれ以外の物が落ちてきた。
「お前、欲しい物はないのか?」
そう聞かれつい答えてしまった。
「えあ…こん?」
「なんだそれは」
「部屋を涼しくする…」
パチン
「これでいいか?」
一瞬で部屋の壁が凍った。
吐く息が白い。
さっき首に巻いたタオルがコンクリートの様に固くなっている。
何これ、ダイヤモンドダスト?
キラキラとしたものが散っていた。
「お前が寒いのが好きだとは知らなかった」
歯が噛み合わないほど寒い。
「あた…あた…あたた…あたたかく…して」
「何だもういいのか?なんとワガママな」
パチン。
今日が熱帯夜で幸運だった。
どうしたら帰ってくれるだろう…
もしかして…恩返しをして満足したら…帰るのかもしれない。
「あの…もう、充分恩返しはして頂きました。嬉しかったです。本当にありがとうございました」
俺は満足そうな顔をして頭を下げた。
「何だと?これが恩返しだと思っているのか?魔王の息子の恩返しがこの程度だと思われたら親父が恥をかくだろう」
えっ!?
この人、親父の顔色伺うのから解放されたとか言ってなかった?俺は自由だって。
全然自由になってないじゃん!!
「もっと恩返しらしい事がしたい」
「その…恩返しらしいとはどんな…」
「山を吹っ飛ばす」
「却下です」
「海を割る」
「却下」
「星を…」
「却下」
「ええいっ!お前の恩返しとは何だ!」
「もう二度と来ないで下さい!!」
俺は叫んだ。
「そうか。親父が人間世界の侵略を計画していたからな。
わかった。それをやめさせよう。それが恩返しになるんだな…」
そう言うと男が消えた。
え?
最後なんて言ってた?
「……寝よう」
首に巻いたタオルがまだひんやりしているうちに寝ることに決めた。
俺は次の日有給を取り、ホームセンターに行った。
「3倍頑丈!当社比」と書かれた網戸の網を買ってきて自分で網を張った。
そして大家のところに行き、エアコンを直さないと、俺が原因であの部屋が事故物件になる。と、説明した。
すると、5日後にエアコンを付け替える事が決まった。
隣りの爺さんはあの日以降、俺に何も言って来なくなった。
なんだかんだで、手羽先にはたくさん恩返ししてもらった。
拙い文章、最後までお読み下さりありがとうございました。