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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

とある爆弾の悩みと嘆き

作者: Liz
掲載日:2023/02/20

 我が名は「ボム」。

 いわゆる爆弾である。

 持ち主の起爆命令に従いその身を爆ぜさせ、敵を粉砕するアイテムの総称。

 錬金術師たる主様、テレサ嬢の手ずから生み出されてより十有余年。

 今日も今日とて、敵を吹き飛ばす天命を果たすべく奮闘中である。

「さあやるよ! ボム君!」

 テレサ様の宣言と共に、敵集団との戦端が開かれていた。

 我らを取り囲むは、ストーンゴーレムの群れ。

 創造主の命じるまま、敵に襲い来る自動人形の一種である。

 主様の手より放たれし我は、敵の一体に向けて突撃。

 照準固定。

 最大加速。

 人の倍ほどの大きさもある岩人形の腹に激突。

 吹っ飛ばした敵が数体の人形をも巻き込み、転倒。

 テレサ様っ。


 今こそ起爆命令を!


「ボム君! 戻って!」

 ぬぁぜだあぁ!

 なぜ、主様は天命を果たさせてくれぬのか。

 ここで華々しくはじけ飛べば、間違いなく敵を一掃できるというのに。

 だが、主様の命令は絶対である。

 やむを得ず、我は倒れた敵より離れ、御許へと戻るべく加速。

 かざされた手に向かい直進。

 その繊手に触れる直前、急ブレーキ。

 テレサ様のたおやかな手が、我を包み込んだ瞬間。


 えも言われぬ感覚が駆け巡る。


「さあっ、次だよ!」

 ……感慨にふけっている場合ではなかった。

 テレサ様は両手を振りかぶり、素晴らしいフォームで我を投擲。

 敵、目標補足。

 その回避行動に合わせて軌道修正。

 後は……

 ただ突進あるのみ。

 その狙いはたがわず、我は岩人形の頭部を粉砕。

「やったねボム君!」

 両手を握り締め、ガッツポーズを作るテレサ様は、正に……


 この世の天使。


 齢16のテレサ様は、この地方では珍しい金色の髪と青い瞳を持ち、人の表現を借りれば見目麗しい「びしょうじょ」なのである。

 しかも、近所の鍛冶屋に言わせれば、「超絶」という冠詞が付くらしい。

 その崇高なる主様を守護するのが我が使命。

 なのだが。

 テレサ様は、我を決して起爆してくれぬ。

 爆弾としての本懐を果たさせてくれぬ。

 それだけが……

 それのみが誠に……


 無念である。


◇ ◇ ◇


「いやーすごい。テレサちゃんはとても強いね」

 岩人形の群れをあらかた片づけた後で、背後にいる男から賛辞の拍手が届いた。

 大変高価な眼鏡をかけた優男。

 人懐っこい笑顔に、およそ戦闘には向かぬ細身の身体。

 この男が、今回の我らの依頼主である。

 “自称”天才錬金術師、エリック・ロズベルグが、とある遺跡に案内して欲しいとテレサ様の店にやって来たのが昨日のこと。

 出発準備を整え、今朝より我らが本拠地アルケミィを出発し、近隣の大森林へと足を踏み入れていた。

 この森には複数の遺跡が点在し、貴重な錬金素材が豊富に埋もれているのだ。

 そういった素材を探し求める錬金術師や探索者達が集い作り上げたのが、我らの本拠地の町なのである。

「そんなことないですよー。これくらい」

 慎み深いテレサ様は、舌をぺろりと出しつつ照れていた。

 ……たまらぬ。

「いやいや……十数体のゴーレムに囲まれたのに、無傷で完封なんて熟練の探索者でも無理だよ」

 笑顔のエリックの賞賛は、まだ止まらなかった。

「故郷の森でいつも獣に追いかけ回されてましたから、ちょっと戦えるくらいなんです」

 確かに、主様は幼少の頃より様々な錬金素材を求めて、我と共に故郷の深い森の中を分け入り、巨大な獣をも相手していた。

 というかあれはむしろ、テレサ様が獣を追いかけ回して、素材を剥いでいたと言うべき事象なのだが……

「さっき使った爆弾の威力といい、テレサさんの錬金術は、首都でふんぞり返っている僕の上司よりも上だなあ」

 そう。

 先の岩人形との戦闘では、我が同志が2つもその身を弾けさせ、爆弾としての本分を果たしていたのだ。

 なのに……

 なのにであるっ。

「それに、その特殊な爆弾も、ストーンゴーレムの身体を簡単に破壊するし……」

「この子は、ボム君って言うんです!」

 「爆弾」などと心外だと言わんばかりに、テレサ様は両手で我を掲げて見せた。

 わ、我は爆弾なのに……

「じ、じゃあ、そのボム君――はどうやって作ったのかな? レシピを教えてもらっても?」

「良さそうな素材をいっぱい入れて、いい感じで混ぜていったらできちゃったんです」

「へ……?」

 エリックが目を瞬かせて言葉を失ったのも無理はない。

 テレサ様の錬金術の肝は感性であり、フィーリングである。

 理論やレシピなどとは無縁の存在なのである。

 そもそも、正規の錬金学校どころか初等学校さえもない魔境……もといド田舎……いやいやもとい楽園――で育った主様は簡単な読み書き計算ができる程度で、複雑怪奇な理論式など皆目見当もつかぬはず。

 昨年アルケミィで開業したばかりの自らの店でも、これだと思った素材を適当に混ぜ込み、依頼された品質以上の錬金アイテムを作り上げてしまうのだ。

「そんなんでグラビティボムとか作られたらたまったもんじゃ……」

「? 何か言いました?」

 小声で呻く男の嘆きは、テレサ様には届かなかったようである。

「ボム君はすごいんですよ。投げたら百発百中だし、どんな相手も一撃でのしてくれるし、名前を呼べば全力で帰ってきてくれるんです」

 と、主様は我を褒めつつ、我の丸っこい身体を頬ずりしてくれる。

 この、柔らかな頬の感触を味わう時こそが、まさに至福。

 この世に生を受けた甲斐そのものである。

 ……いかん。

 意識が遠のきそうであった。

 この飛翔能力は、我が十年の時をかけて練り上げた特性である。

 我を作り上げてすぐ、裏庭で我を投げて的に当てる遊びをしていた時に、テレサ様は草むらの中で我を見失ってしまった。

 齢5つの子供ゆえ、テレサ様は我を見つけることができずに涙に暮れていた。

 愛しき主様を泣かせるわけにはいかず、我は必死に念じて、念じ続けて……

 突如、主様の御許へと飛び立てたのだ。

 その出来事より我は自らの技に磨きをかけ、今では加速、減速から軌道変更まで、自在に空を飛翔できるようになっていた。

 そんな雑談をしてから森の奥へと分け入ること半日。

「っと、着きましたー」

 隣を歩いていたエリックを振り仰ぎ、主様が指さした先には。


 悠久の時を感じさせる遺跡が広がっていた。


◇ ◇ ◇


 そこはかつて、石の神殿であった場所の――跡地だった。

 柱だけを残して壁も天井も崩れ落ち、瓦礫の山と化していた。

 磨き上げられた石の床もそこかしこがひび割れ崩れ、かつて誇ったはずの栄華は消え去っていた。

「ここは大昔に、ドラゴン級の魔獣が封印されていた場所なんだ」

 興奮冷めやらぬ声を上げながら、エリックは遺跡に駆け寄った。

 そしてすぐさま、その細腕で瓦礫を押しのけ床の一部を掘り出し、身をかがめて砕けた床に手をつけた。

「その魔獣そのものは、百年ほど前に倒されちゃったんだけどね」

 男の指先が床の上を走ると、次第に魔力の反応が高まっていく。

 同時に、地面が赤い光を放ち始める。

 これは……アイテムの反応か?

「そいつを封じた結界は、まだ生きているんだよ」

 こちらを見上げたエリックの顔からは、先ほどまでの笑みが消えていた。

 代わりに込められていたのは、明確な敵意。

 テレサ様を害する悪意を持った男が、指をパチリと鳴らすと。


 深紅の球体が、主様と我とを包み込んだ。


「な、なにするんですかっ!」

 いきなりの出来事に、主様は戸惑いを隠せなかった。

 依頼人の突然の変貌を前にして、認識が追いついていないのである。

「いやあ。危険物は一刻も早く結界に閉じ込めた方がいいと思ってね」

 大きな仕事を成し遂げた後のように、エリックは大きく息をついた。

「きけん……ぶつって? わたしは危ないものなんて持ってないです!」

「ブラックホールって、知っているかな?」

「ぶらっく……?」

「……僕たちの頭上に広がる星の世界には、何でも吸い込むという不思議な特性を持った星があるんだよ」

 小首をかしげたテレサ様に苛ついたように、エリックは視線を鋭くした。

「その星は巨大な重力を発生させて、どんな大きなものでも飲み込んでしまうんだ。僕たちが住む惑星や、天上の太陽まで」

 エリックは空を指差し、頭上に煌々と輝く天体を指し示した。

「君が持つ爆弾は、その小型版なのさ。重力波を操って自由に飛翔できるのがその証拠」

 奴の言う通り、我は空を自在に飛べるが、そのような怪しげなものでは……

「だから、それを起爆させるとね」

「させると……?」

 危機感のこもった男の表情と声音に、主様もさすがに唾を呑み込んだ。

「このあたり一帯が、下手をすればこの大陸そのものが消し飛んでしまうんだ」

「そ、そんなことっ、ボム君はできませんよ!」

「君の意見はともかくとしてね、個人がそういう強力なアイテムを扱うのはとても危うい、というのが僕の上司――錬金術師協会のお偉いさん方の結論なんだよ。だから君からそいつを奪い取るか、それができないなら封印してしまおうってことが、今回の僕の仕事なのさ」

 テレサ様の懸命な弁護は、悪意を持った男には通じなかった。

「ボ、ボム君はあげません! この子はわたしの宝物なんですっ!」

 テレサ様は我を胸にかき抱き、絶対に渡さないという決意を示してみせた。

 主様……

「本当は、僕が用意した(・・・・・・)ストーンゴーレムどもで奪取するつもりだったんだけどねえ。君があっさり返り討ちにしちゃうから、これを使う羽目になっちゃった」

 奴が自らの成果を誇示したように、この結界は並みの爆弾などでは破壊できそうにないほどの強度と厚みを持っていた。

「さて、どうしようか? 君がその爆弾を譲ってくれるなら、そこから出してあげるけど?」

「イヤです! ボム君は誰にも渡しません!」

 男の脅迫めいた問いかけにもめげず、テレサ様は我をより一層強く抱き締めた。

「それなら仕方ないね。君も一緒に封印してあげよう」

 舌打ちしたエリックの合図とともに、周囲の赤い壁が縮み始めた。

 我らを、テレサ様を封じ込めようと、じわじわと包み込もうとしてくる。

 迫り来る結界の圧力に靴が焼かれ、服が焼かれ、透き通るような柔肌が焼かれていく。

(許さぬ……)

 と、我は思った。

 主様を傷付ける者は……


 断じて許さぬ!


「ぼ、ボム君!」

 驚きの声を上げたテレサ様の手から離れ、我は内部に秘められていた何かを弾けさせた。

 体内から熱いものがあふれ出て、莫大な魔力を放出し、周囲に青白い雷を走らせる。

「む、ムリだよ。これは史上最強の魔獣さえも封印した結界なんだ。君がグラビティボムを使おうとも、絶対に破れない」

 我の反応を見たのか、エリックは引き攣った声を上げた。

 結界の強度など、どうでもいい。

 死んだ魔獣が何だと言うのだ。

 そんなものは関係ない。

 テレサ様を害する者は、決して! 断じて!


 許さぬ!!!!


 我が放った魔力は主様を捕らえようとする結界を吸い込み、いびつに変形させて。

 破壊。

 結界を吸収した我は次第に大きくなり、あたりに散らばる瓦礫も、生き残った石の柱も取り込んだ。

「や、止めろ! 来るな!!」

 エリックは必死の形相で様々なアイテムを起動させ、我への抵抗を試みる。

 それが、何だというのだ。

 展開される防御アイテムも、放たれる攻撃アイテムも、まとめて喰らい尽くせばいい。

 そして、主様に仇なす男をも。


 その全てを、我が体内へと飲み込んだ。


◇ ◇ ◇


「エリックさーん。だいじょうぶですかー?」

 テレサ様は、仰向けに倒れ伏した男に声をかけた。

「くそっ。こんなでたらめがあるもんか。この僕が敗北するなんて……」

 などと毒づく男は全身に傷を負い、身動きも取れないようだった。

 あと一歩、もう少しでこの者を我が体内で破砕できたというのに、テレサ様に止められてしまったのだ。

 我にとってそのご命令は絶対であるが故、大人しく引き下がるほかなかった。

 だがしかし、すでにこやつの命は主様の手の内に……

「ああっ。ちょっと待ってください! すぐ治しますから!」

 だというのに、テレサ様は懐から回復薬の瓶を取り出し、倒れた男に振りかけてしまった。

 そう。

 テレサ様は敵であろうと、自らを殺そうとした者であろうと、情けをかけられる寛大な御心の持ち主なのだ。

「……いいのかい? 僕に完全回復薬(フルポーション)なんて貴重品を使っても」

「こんなのまた作ればいいんですから、気にしないでください!」

「ふふっ。最高級品のポーションがこんなの……か」

 まるで憑き物が落ちたように、エリックは柔和な笑みを浮かべた。

「これから、どうするんですか? このまま帰ってもらえたら、わたしはとっても嬉しいです」

「そうだねぇ……僕が任務に失敗したって報告するのもありだけど……」

 男は主様を値踏みするような、はかるような視線で舐め回してから。

「例えば、君がその爆弾を……」

「だから、ボム君ですってば!」

「……その、ボム君を起爆しないと約束してくれるなら、ここに危険な物はなかったと協会には報告しても……」

「はいっ、もちろんです! そんな約束ならいくらでもします!」

 テレサ様は最後まで聞かずにエリックの両手を握り締め、表情を明るく輝かせた。

 そのお姿は……

 天使など、足元にも及ばぬ。

 この世のものとは思えぬ、至高の存在であった。

「そ、そうか。それなら……」

 と、テレサ様の眩い笑顔に当てられた男は頬を赤く染め、視線を逸らした。

 むう……


 主様のあふれる魅力に飲み込まれた者がまた一人、ここに生まれたようだ。


◇ ◇ ◇


 我が名はボム。

 偉大なる錬金術師、テレサ様により生み出された重力爆弾(グラビティボム)

 れっきとした爆弾である。

 だというのに。

 よもや爆発できぬとは……

 まことに無念。

 痛恨の極みである。

 主様に仇なす者どもを粉砕するのが我が天命であるというのに、それを果たせぬのだ。

「さあ、ボム君。今日もお出かけするよ!」

 探索の準備を整えた主様は、柔らかなベッドの上に置かれていた我を鼻歌まじりに拾い上げた。

 ああっ。

 テ、テレサ様っ!

 そのように我を両手でこねくり回されては……

 あっ……

 ああっ……


 たまらぬ……


 ま、まあ……今後もこのような至福の時を得られるのであれば。


 それもまた一興、なのかもしれぬ。

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