やり直しを望んだのはだれか?
誤字報告をしてくださり、本当にありがとうございます!!
助かります。
確認をしたつもりでしたが、すみません。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
読んでくださり、本当にありがとうございます!
少年の背後にピンクのバラがぶわっと舞う。
「キラキラして、きれいね。」
大人たちは、少年の髪の毛の事を言ったのだと思ったのだろう。
微笑ましそうな視線を感じつつ、また言葉にする。
だって、本当に綺麗なのだもの。
「きれいね。」
何度もその言葉を繰り返す私に、少年はたまらないという様に笑ったのだ。
そうして言うのだ。
涙をこらえるような顔で小さく。
「...今度こそは。」と。
「お嬢様、朝でございますよ。」
侍女であるメアリーの優しい声がする。
ゆっくりと目を開けると、開かれたカーテンから眩しい朝の光が見えた。
身体を起こし、まだ少し眠気の残る目をこする。
「おはよう、メアリー。寝坊をしてしまったかしら?」
「いいえ、お時間通りでございます。」
それならば良かったと思いつつ、またあの夢を見たのだわと懐かしく思う。
幼い頃の特別な夢。
「さあ、お嬢様。今日もとびきりにお洒落いたしましょうね。」
「ほどほどにね、まだ学生ですもの。」
「あら、勿体ない。」と、メアリーといつものやり取りをする。
メアリーは私の5つ年上だがしっかりして、気の利く、良い侍女だ。
こんなにも素敵な女性なのだからと、
お父様にメアリーの結婚先を紹介してもらおうと思ったのだが、
「私はお嬢様のそばにお仕えするのが一番です。」と断られてしまった。
その時のいつにない鬼気迫る表情は、今でも不思議だ。
でも、そこまで言ってもらえるのは嬉しい。
そして、今日も私ネメッサ・ティエラヘルムの一日が始まった。
この世界には「魔法」がある。
人それぞれ属性は違うが、誰しも持っているものだ。
それを修練するために皆適正年齢になると「王立魔法学園」に通う。
自分の属性を知り、その能力を伸ばすために学園はあるのだ。
ただ、私には何もなかった。
属性を調べるために手をかざした魔術の先生の、困惑をした顔が今でも思い出される。
それでも未だに特例として私が学園に通えているのには理由がある。
「見て、無能な方がいらっしゃったわ。」
「本当!私だったら恥ずかしくて来れませんわ。」
学園の入り口を通った私にクスクスと小さな嘲笑と共に囁かれる。
可愛らしい女性たちの声だ。
「王太子殿下のお優しいお心に付け込む悪女め。」
「全く、目障りな。」
憎らしいとでも言うような男性たちの声がする。
その中を背筋を伸ばし、胸を張り歩く。
私に恥ずべきところなどないのだから。
「ネメッサ。」
まるで「光」とでも言うような、何処までも青い空のような声が響く。
その声がした途端、シンっと辺りは静まった。
「おはようネメッサ。今日も綺麗だね。」
「......バスクシアン様。」
この王国の王太子殿下、バスクシアン・ファイムストーム様。
そして、私の婚約者。
にこりと微笑む背中に、赤いバラの花びらが舞うのが見えた。
まるで私の事が「愛おしい」とでも言うように。
それを冷めた目で見る。
(私はもう騙されない。)
そんな不思議な言葉が頭に浮かぶ。
私はこの人が嫌いなのだ。
怖気が出るほどに。