ずっと続くといいね
お越しいただきありがとうございます。
「で、なんで其方までくるのじゃ。」
「兄上がはれの運転に乗りたく無いと言ったからですよ。」
大型チェーン店のカフェ。そろそろ昼飯時に近い時間。
休日は満席になる座席も、平日の今日はチラホラと空席がある。
わしの向かいの席に座った文治郎は、スマートフォンをポチポチと弄って、品書きを確認している。
「ほんっとにごんは失礼だよね。」
自らの運転技術を棚に上げ、はれは少し怒りを含んだ口調で、わしの隣に座り、同じくスマートフォンの品書きを差し出す。
文治郎の同席の理由は、わしの人化用の服を文次郎宅に置いており、着替えの為にやつの家に寄ったからじゃ。
因みに、わしは変化をしてもきちんと現在に見合った服を身に付けている。
しかし、その服装ははれが言うには
「平成昭和どころか明治大正時代の幼子の格好。見方に寄ったら軽くホラー。無いとは思うけど、バズりたく無いなら着替えて。」
等訳のわからん事を言っておった。
で、文治郎の家に邪魔し、偶々在宅中の文治郎も同伴となった次第じゃ。
「それに、わたし運転上手くなったよ?ずいぶん慣れたよ。」
「そんな事はいいから、何頼むか決まったのですか?」
文治郎は絡み始めたはれに自分のスマートフォンを差し出した。
「自分の分は自分で出すよ。もちろん、ごんの分も。」
「ここは兄上の奢りですよ。ねえ、兄上。」
何を言っておるのじゃ、此奴ら。
「当たり前じゃ。お主らに馳走になるくらいわしは落ちぶれておらぬ。」
「何言ってるの。ごん、お金持ってないじゃん。」
は?何を言っておる、こやつ。
「はれ、兄上はお給金をいただいているよ。」
「へ?ごん、お給料もらっているの?誰から?」
はれは心底驚いているようじゃ。
「誰からって…天照大御神になるのかのう?」
この国においての最高神はかのお方じゃからな。
「でも、現金は?持ってないでしょ?」
わしは懐から一枚の札をはれに差し出した。
「神様カードじゃ。お前らの言うクレジットカード、じゃな。」
「このお子様姿でクレカ差し出されるのなんか、いや。」
はれはため息をついた。
「なんか、うん。もういい。」
はれは何も言いたくない、と言うような顔をしてわしにスマホを渡した。
さあ、何を注文するかのう。ウッキウキじゃ!
「大体、ごんって仕事してるの?」
注文が済んでからも、はれはどこか納得しかねるようじゃ。
「社に行っておるじゃろう。それに勤めをせねば給金は発生せぬ。」
働かざる者食うべからず、じゃ。
「あれ、おねえさんの相手しているだけじゃないの?」
「戯け、それだけで給金が発生するわけなかろう。」
「でも、お狐様が仕事って‥まるで、鳥獣戯画?」
向かい側で文治郎が吹き出した。
「確かに、ある意味そうですね。」
「良いかも!リアル鳥獣戯画!みたい!」
そんな良いものではないが‥
「まあ、機会があったらな。」
文治郎は仕事上関わりがあるからよくきておるが、はれは連れて行ったら何が起こるか分からぬからーまあ、そんな機会も無かろうが。
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
女給が持ってきた注文の品を文治郎が受け取り、テーブルに並べた。
おや?
「お主ら、頼まなかったのか?」
わしが頼んだ至極のスイーツやパイやキシュはあるのに、ほかの食い物は見当たらない。
「ん?頼んだよ。」
はれはほら、と手元のふらつぺちーのをわしに見せる。
「わたしも頼みましたよ。」
文治郎も珈琲椀を持ち上げて見せた。
「食わなくて良いのか?」
はれと文治郎はちらりと目を合わせた。
「うん。ごんは気にしないで食べて?」
なんじゃ、こいつら。まあ、良いか。
わしは、目の前のチーズの焼き菓子を口に入れた。
それから、30分後。
「ケプ。」
わしは口から出そうになったゲップを何とか押し殺した。
おかしい、このくらいの量、イケるはずじゃ。何ともなく、完食できるはずじゃ!
「あーやっぱり。」
はれは苦笑いしながら、食べかけのパイの皿に手を伸ばした。
「絶対こうなると思ったんだよ。」
「甘味から手を出したのが敗因ですね。」
文治郎も半分以上残っているキシュの皿に手を伸ばした。
「馬鹿にするな、まだ食べれる!」
「はいはい、無理しない。」
はれはパイを頬張り、頬を緩めた。
「大体、頼みすぎですよ。」
文治郎までが呆れたように言う。
「今の食い物を理解するのは仕事じゃから」
「はいはい。わかった分かった。」
何じゃこいつら!わしは飲み物に手を伸ばした。
「これ、美味いな。太郎にも買って行ってやろう。」
「お土産、たろちゃん喜ぶよ。」
本日、太郎は学問所に行っておる。因みに、山姥を家に入れたと聞き、はれは太郎に説教を受けておった。
「なんか、何でもないのに楽しいね。」
「そうですね。」
何でもない普通の日々。
特別なことは何一つしていない。
生きている時代がばらばらの者たちが一緒の時を過ごしている。
「ずっと続くといいね。」
はれの言葉にわしは何も言えなかった。
ずっと、などないから。変わらぬものは無いから。
しかし、その後数年、わしらは一緒の時を過ごした。
はれは学問所を卒業して、仕事に就いたが職場が近かった、と一緒に暮らしていた。
はれに拾われてそろそろ10年になる。
この時代、犬は10年は生きるものが多いそうじゃが、そろそろ自分の身の事を考えねばと思っておった。
そんなある日、はれの家の電話が鳴った。
自宅に居ったはれが電話をとったが、顔色がみるみる青ざめていった。
受話器を置いたはれが焦点の定まらない目でわしをみた。
「ごん、お母さんが事故に遭って、病院に運ばれたって。」
お読みいただきありがとうございました。
今回を持ちましてこのお話は終わりとさせていただきます。
長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。




