いや、悪いよ、あなた
お越しいただきありがとうございます。
「白の君、わたくしは謎解きや言葉遊びに来たのではありませぬ。大事な相談があってきたのです。」
山姥は憮然とした表情をわしに向けた。
わしの隣のはれには目もくれようとしない。
「わしも言葉遊びをしているつもりは無いのじゃがな。」
「謎解きでは無いとしたらどのような意図があってのお言葉か。」
山姥ーああ、面倒臭い。ばばあでもういい。
ばばあは訳のわからぬ、とイラついた顔をした。
「言葉通りの意味じゃ。答えよ。」
促すと渋々という体で考え込んだ。
「食べられないものとはつまり毒などがあって口にしていけないもの。食べてはいけないものとは何か神聖なものや禁忌とされている物の事でしょうか。」
わしの言い方が悪かったのが望んでいたのと違う答えが返ってきた。
「問いかけが悪かったようじゃな。わしが聞きたかったのはもっと単純なことじゃ。おぬしは、好き嫌いと摂取できない食品があるという違いはわかるか?」
ばばあは一瞬鳩が豆鉄砲を食ったような顔舌が、すぐに「ああ」と合点が入ったような返事を返してきた。
「元論知っておりますとも。白の君が仰っているのは『アレルギー』の事でございましょう?先程その小娘が言っていた。」
「え?知っているんだ。」
わしの横ではれが驚いたように呟いた。
アナフィラシキーが出ないか後ろでこんに様子を見ているように命じてあったのだが、こんな口をきけるのなら大丈夫そうじゃ。
しかしばばあは気に食わなかったようで、はれに冷たい視線を向けた。
「わたくしは茶屋を営んでおる。それと地域の者たちと子ども食堂なるものにも手を貸しておる。」
馬鹿にするな、と言い捨てるばばあの態度にはれがわしの隣に座り直した。
「『アレルギー』の知識があったのに、わたしに無理矢理食べさせようとしたんですか?わたし言いましたよね、筍とか山菜は体質的に食べられないって。」
何と、はれは断っておったのか。それなのに力ずくで食べさせようとしていたということか。
先ほどのばばあのはれへの無体を思い出す、
これは、許せぬな。
そんなはれをばばあは鼻で笑った。
「アレルギーなど言っておるが、そんなのただの甘えじゃろう。昔はそんなもの無かった。」
まだ言うか。このばばあ。
「昔もあったと思うが。」
ただ、今ほど医療が進んでいなかったし、皆も知識が無かっただけじゃと思う。
「いいえ、ただの甘えです!それにそんなもの昔はありませんでした!」
言い切るばばあの迫力にはれはほんの少し後ずさった。
人の形はとっておるが妖怪じゃからな。はれには荷が重いじゃろうし、先ほどの受けた無体が消えてはおらぬ。
「大体、近頃の人間は甘えております。せっかくの施した食事を、味付けやら彩りやらバランスやらぐちぐちと文句ばかり言うて!果ては、食べられないものがあるからという理由で残す。そんなものただの言い訳です。作った者への敬意が無いのです。」
「いや、作ってもらった事への感謝はしているけど、食べられないものは食べられないんですよ。」
「黙まらっしゃい、この小娘が。」
ボソリと呟いたはれをばばあが凄まじい目つきで睨む。
「こちらが、親切に食事を残してはいけないとか行儀を教えてやっているのに、煩がって!挙げ句の果てには‥」
ばばあの言葉から力が抜けた。
察するに何らかのトラブルがあったのじゃな。
まあ、こやつのこの態度では周囲から浮いてしまったとか、苦情がきたとかかのう。
「兎も角。」
ばばあはわしの憐れむような目付きに気がつくと軽く咳払いをした。
「アレルギーも大きくなったら治る者もいると聞きます。それもせずに文句だけ言うのはおかしい。わたくしはせっかく、治してやろうと思ってやってきた事を止めるだなんて!わたくしは悪く無いのに!!」
「いや、悪いよ、あなた。」
暴走し出すばばあをどう止めるか考えていた横で、呆れたようにはれが言った。
お読みいただきありがとうございました。




