お待ちいたしておりました
お越しいただきありがとうございます。
「その手を離せ。」
自分としては冷静さを失ってないつもりであったが、口から出た言葉の温度はかなり低いものだったようだ。
後ろに付いているコンの怯えた気配が感じられた。
そんな事はどうでもい
「これはこれは白の君、お待ちいたしておりました。」
はれの後ろ髪を掴み、顔を上に向かせ何やら口に押し込めようとしていた老婆がわしの姿をみると表情を明るくした。
苦しがっているはれのことなど構うこと無く、満面の笑みを向けてきた。
はれは口を固く閉じ歯を食いしばって老婆が口に押し込もうとしているソレを拒絶している。
わしの姿を確認すると安堵したのか、涙が頬を濡らしだした。
「何をしている。その娘から離れろ。」
「いえいえ、わたくしはこの娘に躾を授けている最中ですなのです。」
心外だ、被害者は自分の方だと言いたげだ。
「最近の者たちは平気で食べ物を粗末に扱う。白の君も五穀豊穣神の使いとしては心を痛めておいででしょう。」
わしに向けていた笑みとは真逆の凍りついたような視線をはれに向けた。
「人の好意を無下にし、食物を粗末にするなど言語道断。このわたくしめがその腐った性根をたたき潰してやります。」
言っていることはあながち間違えではない。
はれも知らぬ者が作った手料理は食べたくない、と言っておったが、出された物に手をつけないのは失礼だからと、たとえ嫌いなものでも口に入れるはずじゃ。
わしは改めて老婆が握りしめ、はれの口に押し込もうとしているものに目を向けた。
あれは握り飯か?
色からして炊き込み飯?
わしは全身の血が引いた。
「はれさま!お気を確かに!!」
気がつけば、老婆は何か大きな力に叩き付けられたように壁にもたれて意識を飛ばしていた。
はれの身確保したこんがはれの意識を確かめている。
「大丈夫だよ、こんちゃん。どこも痛くないし、食べてはいないから。」
安心させるように笑いかけるが顔色は悪く、口元は赤くかぶれているようだ。
こんに社から治癒の水を持ってくるように命じ、わしは畳の上に転がっている握り飯を拾い上げた。
それは旬の山菜を使った炊き込み飯であった。
「白の君!お持ちしました。」
こんの持ってきた治癒の水をはれに飲むように促す。
はれは微かに眉を顰めた。
「これ、あっちの界のもの?飲んでも大丈夫なの?」
「大丈夫じゃ。」
「本当だね?不老不死になったりしないよね?」
「信じろ。」
まあ、寿命が2、3年延びるかもしれんが、それくらいは誤差じゃろう。
以前、土産に仙桃を持ち帰ったことがあったのじゃが、食べる前にぶんに没収され、その時にわしからの土産には気をつけるように懇々と話をされておったからのう。
こんから手渡された水を飲むと、口元のかぶれはすぐに引いた。
はれも安心したように息を吐いた。
「何故でございますか。何故五穀豊穣神の使いである貴方様がこの様な無体なことを!」
気がついたのか叫ぶ様な老婆の言葉にはれは身を震わせた。
こんははれを守るように、はれの前に立ち、身を低くしていつでも飛びかかれる体制をとっている。
老婆の姿は先程までの姿とは打って変わり、白髪の乱れた髪に着崩れた着物、そして牙を向く恐ろしい形相。
絵本に出てくる『山姥』そのものだ。
「無体、とは?」
わしは山姥に近寄り目を合わせた。
「躾けようとしたわたくしにこの様な仕打ちなど!」
「無礼な来訪を受け入れた者に対して、恩を仇で返す行為をした者に言われる筋合いはない。」
山姥はぐっと黙んだ。
「それと、一つ聞きたいことがある。お主、食べられないもの食べてはいけないものがある事を知っておるか?」
お読みいただきありがとうございました。




