オレの余生、勝手にきめんな
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「いくつ、とは。」
カメ吉は口ごもった。
「それは『大人』と認められたときじゃ。」
すぐに強い口調に戻った。
『大人』ねえ。
「じゃあ、それは具体的に言うと何歳?」
カメ吉は少し考え込むような仕草を見せた。
「働けるようになる頃だから、十歳を過ぎた頃じゃろう。現に太郎も働いておったし。」
「ふーん。十歳ねえ。」
わたしは手を伸ばしてカメ吉の観察ケースを持ち上げ、カメ吉ときっちり目を合わせた。
「いつの時代の話ししてんだ、このクソがめ。現代日本において児童は18歳までってなってんだよ。」
「「18歳!?」」
声が被ってる。
わたしはごんをちらりと見た。
「まさか知らなかった?」
ごんもゴニョゴニョ何か言ってる。
さては知らなかったな。軽くごんも睨みつける。
「まさかと思うけど、陸の方でも考えなしに戻していないでしょうね。」
「いやいや、そのようなことは無いはずじゃ。」
ごんは慌てたように首を振る、がその後少し思い出すような表情をしている。
本当だろうな。怪しいな。
「確かに、少し前までは14歳までが『児童』だったらしいよ。」
変わったのが最近だと伝えると、カメ吉はまた騒ぎ出した。
「そんな最近のこと、儂ら知るわけないじゃろう!」
「『最近』って言っても、ここ数年のことだし。昨日今日の話じゃないし。何より」
腹が立ってきてカメ吉と目を合わせて睨みつける。
「人ひとりの人生狂わせたんだから、最後まできっちり責任とって調べろよ。」
カメ吉はふいと目を反らした。
「ついでに聞くけど『義務教育』って知ってる?」
カメ吉は目を逸らしたままだ。
もう、ため息しか出てこなかった。
あの後、カメ吉に洗いざらい話させた。
太郎くんが今になってこちらの界に戻されたのは、保存され少しずつ治されていた身体が元の姿に戻ったからだそうだ。
陸の方でも同じらしいが、違う界の者を留めておくのは限界が有るらしくて、太郎くんを龍宮城に留めておくのはもう無理だったらしい。
そして、神獣である鶴の体に宿らせていた太郎くんの意識を身体に戻し、こちらの界にかえすことになった、と。
「衣食住には困らぬ様手配はした。勿論、金子も渡してある。」
カメ吉は手を尽くしたと言いたげだ。
まあ、確かに住居を用意して、家政婦さんを雇って、お金もあれば生活には困らないかもしれない。
「それだけ?」
「それだけ、とは?」
カメ吉は怪訝そうな目をわたしに向けた。
「その他のフォローは無いの?」
「元の界に戻ったのだから、どうにかなるじゃろう。兎に角仕事を探して」
「14歳じゃ仕事なんて無いよ。」
悪びれる様子もないカメ吉の応えをこれ以上聞きたくなかった。
「言ったじゃん、14歳は義務教育中だよ。最低でも16歳になる年じゃないと仕事なんて出来ないよ。」
「仕事なんて探せば何だって」
「無いよ。雇ったほうだって罪になるし。」
カメ吉は言葉に詰まったようだ。
「いや、でも金はあるから、働かなくても大丈夫じゃ。ゆっくり余生を過ごせばいい。」
「オレの余生、勝手にきめんな。」
太郎くんがカメ吉の飼育ケースを持ち上げた。
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