手がすべっちゃったー
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太郎くんは不貞腐れた顔でこちらを睨んでいる。
姿このを見ていると、たまに会う従兄弟の中高生男子と同じように見える。
ちいさいときは可愛かったのに、反抗期拗らせてるなみたいな。
「で?」
「『で』ってなんだよ。」
「いや、これからどうしたいのかなって。」
太郎くんの経験談ははっきり言って凄まじい。もし、自分が同じようなことになったら正気を保てるかどうかはっきり言って自信ない。
でも、今目の前にいる太郎くんは自分に起こったことを受け入れて落とし所を探しているように見える。
「見たところ生活には困っていないようだし、何とか暮らして行けているみたいだか
ら問題ないと思うけど。」
「太郎には人界で幸せになってほしいんじゃ!」
観察ケースの中でカメ吉がわめいている。
まじうるさい。
「でも生活ってどうしてるの?掃除洗濯食事とかは?」
「人が来てしてくれてる。」
「家政婦さん頼んでいるの?」
「オレは知らない。ただ、3日に1回くらいで来てる。」
「こちらで暮らして不自由の無いように手配はしている!どこぞの金のない種族と一緒にするな。」
何か、カッチーンと来たんだけど?
ぶんちゃんが手を伸ばしてカメ吉の観察ケースを持ち上げたのが見えた。けど、ゴンに止められてケースを元の位置に戻した。
「この家の家賃は?」
「だから金のない種族と」
「黙れ。」
また言いかけたカメ吉の観察ケースを持ち上げて、目線を合わせたぶんちゃんがニッコリ笑う。
この笑顔の意味はー考えるのやめよう。怖くなってくる。
でも、太郎くんは生活には困っていない。誰に迷惑をかけているわけでもない。
ただ、生きていくだけなら問題は無いんだろうけど。
でも。
「太郎くん、趣味は?」
「は?」
太郎くんは戸惑った様な目でわたしを見た。
「一日、何して過ごしてるの?」
「何って…別に。」
ぼーっとして過ごしているってとこかな。
「暇じゃない?」
「うん、まあ、それは。」
「好きなことは無いの?釣り?」
「釣りはー好きというより生活のためだったから…」
「やりたい事は?」
「そんな事言われても…」
太郎くんはタジタジしだした。
その自信なさげな姿はまるで中学生のようだ。ん?そういえば。
「太郎くんって住民票とか戸籍あるの?」
「あるに決まっとる!●イナンバーカードもきちんとあるわ!」
どこから出したのか、カメ吉がマ●ナンバーカードを差し出してきたので内容を見る。
「名前、浦島太郎ってそのまま…で生年月日…ん?」
生年月日の欄で固まってしまう。
「今、14歳なの?」
「そうだけど、それがどうかしたか?」
太郎くんは不思議そうにわたしを見る。
わたしはぶんちゃんに手を差し出した。
ぶんちゃんは、心得ている、とばかりにカメ吉のケースを渡してくれた。
「はれ?」
「何じゃ小娘。」
ごんとカメ吉から不思議そうな声が上がるが、肩のあたりまで持ち上げた観察ケースを床に落としてやった。
「あーごめんねー手がすべっちゃったー」
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