帰して欲しいって言ったんだよ
お越しいただきありがとうございます。
「こんなお気楽そうな女に話して何が変わるんだよ。」
「何も変わらんよ。」
目つきを鋭くする太郎くんにゴンはあっさりと言う。
「じゃが、たった1人かもしれんが、世間で話されている浦島太郎物語の真実を知るものができるな。」
「たった1人知ったところで!」
「そう。何も変わらん。」
ごんはあっさり認める。
「じゃが、話せる相手のいるのと全くいないのは雲泥の差だと思うがのう。」
太郎くんは俯いて黙り込んだ。
短いとは言えない時間、動かなかった。
顔を上げた太郎君は、わたしたちに背中をむけ、スタスタと歩きだした。
怒ったのかな?と思っていると、部屋のドアを開けた。
「とりあえず、上がれば。立ち話もなんだし。」
「今更か。」
吐き捨てるように言ったぶんちゃんの言葉は耳に入らなかったようで何よりだ。
「…広いね。」
「はれ、無理に感想を言わんでもいいぞ。」
実はわたし、タワマンに入るの初めてなんだよね。
住んでいる地域が昔からの住宅地ってこともあるけど、田舎まで行かないけどそこそこの田舎。大都市のベットタウンになるには少し離れている地域のもので、ぶっちゃけタワマン自体入ったことなかった。
だからどんなキラキラなお部屋なんだろうって入ってみたら、おそらく20畳はあるだろうリビング的な部屋の真ん中に、そう大きくもない卓袱台が1つと座布団が1つ。部屋の隅っこ畳まれているのは布団なのかな?フローリングに布団って体痛くないのかな。
しかもお昼前なのにカーテン閉めきっている。
そりゃあ、電気点いているから暗くはないけど。
エアコン動いていて寒くはないけど、ものが無いせいか寒々としている。
「太郎くん、ここで暮らしているの?」
「だからお前ら来たんだろ。」
太郎くんは壁に寄りかかってこちらを見ている。
テレビもないし、まるでミニマリストの部屋だよ。
「ご飯は?どうしてるの?」
問いかけると、ポケットに入れてあったらしいスマホを見せた。
「これで注文すれば届く。」
3食お届けに頼っているのかな?でも、強い味方ではあるよね。
「オレが何食ってるかとかどうでもいい。話を聞きたくてきたんだろう。」
まあ、確かに。わたしは頷いた。
太郎くんはふーっと息を吐いた。
「あんたさ、知知り合いが居ないところに行ったことある?」
誰も知らないところ?返答に困る。新しい土地で一人暮らしとかはそれになるのかな。
わたしは首を横に振った。
転校とかした事はあるけど、少なくとも家族はいた。
「んじゃ、知っているはずの場所が知らない場所になっていたことは?」
「それは…」
何も言えない。
「亀助けてから何日か経って、一日の仕事が終わって帰ろうとしたらまた亀がいたのよ。んで、また童達に見つかると面倒なことになるじゃん。おれもいちいちそんな渡す金なんて持ってないし。だから亀に海に帰れって言おうとしたら、亀が喋ってきたんだよ。礼がしたいって。」
太郎くんは頭ボリボリかいた。
「俺、断ったんだよ。家にはおかあが待ってっからって。そんなのいらねえって。なのに、どうしてもって。直ぐだからって。気がついたら龍宮城に居たよ。」
亀に背に乗っていったわけじゃなかったんだ。
「竜宮の偉いさんに礼言われて、そのへん案内されて、飯ご馳走になって。でも気になるじゃん。おかあとか家族心配すんじゃん。だから、帰して欲しいって頼んだんだよ。」
おとぎ話では楽しい時を過ごした、ってあったけど実際は気が気じゃなったんだ。
「どうにか帰してくれることになって、一応土産みたいなもん渡されて目を閉じるように言われて、気がついたら亀とあの浜辺にいた。」
太郎くんはどこか遠くを見つめるような目をした。
「いつもの浜辺なのにおかしいんだよ。何か空気?みたいなのが違うんだよ。嫌な感じがして家行ったみたら、家ないの。辺り見ても集落も無いの。どうなってんのか、必死に人を探して走ったよ。やっと隣の集落に着いて話聞いても、あの場所は随分前から集落なんて無いって言うんだよ。」
お読みいただきありがとうございました。




