呼び捨てすんな
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「知らないって…」
太郎くんの冷たい言葉と憎むような鋭い視線に口籠ってしまう
「太郎、わしじゃよ。カメ吉じゃよ。わしのことを忘れてしまったのか?」
カメ吉は観察ケースの壁にへばり付きながら涙ながらに叫んでいる。
「人違いってこと?」
「そんなわけあるか!」
わたしはカメ吉に聞いたのではなくて、ごんに尋ねたつもりだったんだけど…カメ吉はお構いなしにケースの中でわめき始めた。
「わしが太郎を見間違えるわけがあるまい!太郎がどこに行こうと、どんな姿になろうとわしは太郎を感じ取れる!それだけわしらの絆は深いのじゃ!」
何処に行ってもとか、言っていることがストーカーぽくて怖いんだけど。
「でも、当の本人は知らないって。」
「そ、それは。」
カメ吉は口ごもってしまった。
「太郎は照れてるだけなのじゃ!そういうお年頃なのじゃ!」
直ぐに言い放てるのはメンタル強めなんだな、こいつ。普通は結構ダメージあると思うけど。
「用が済んだらさっさと帰ってくんない。」
太郎くんは苛立ったように腕組みをしている。
「困っていることもないし、充分やってるって。」
そして、カメ吉に冷たい視線を投げた。
「拐かし犯の顔なんて見たくもない。」
拐かし犯?誰が?カメ吉のこと?太郎くんが可愛いから攫ったってこと?
「はれ、お主、太郎の正体をわかっておらぬのか?」
ごんがわたしを呆れたような目で見る。
「太郎くんの正体?反抗期の男の子じゃないの?」
「いえ、まあ、反抗期は確かに抜けてないかもしれませんが、はれ殿もきっと知っておられますよ。」
笑いを吹き出しながらぶんちゃんも言う。
この年頃の男の子に知り合いなんていたかな?
わたしは太郎くんをまじまじと見たが身に覚えはない。
「はれ、亀が出てくる話を思い出してみよ。」
ごんの言葉に首をひねる。
亀の出てくる話?あ、思い出した。
「うさぎとかめ?」
有名どころってコレだよね。
それなのにごんは首をよこにふった。
「その話に人間は出てこんじゃろう。」
あ、確かに。
「不思議の国の女の子の話に出てきてたような。」
「其奴がおなごに見えるか?」
確かに、太郎くん喉仏見えてる。
「夢の国の亀のアトラクションの」
「何で海外ものしか出てこんのじゃ。」
ごんが呆れたようにため息をつく。
「某ランドのアトラクション、面白いんだよ。偶に人生相談もしてくれるし。」
「ほう、そんな亀もおるのか。わしも会ってみたいものじゃ。」
「うん、今度行こう。」
最近行っていないから久しぶりに行きたいし。
「アホか!何故気づかん!あるじゃろう、日本人なら誰でも知っているあのお伽話を!」
観察ケースの中からカメ吉が喚いている。
日本人なら誰でも知っている?あ。
「浦島太郎?」
「呼び捨てすんな。」
相変わらず不機嫌そうな太郎くんに睨まれた。
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