抱き上げよ
お越しいただきありがとうございます。
「で、これからどうするの。この状態。」
ため息をつきたくなるのをグッと我慢する。
亀吉が叫んだ途端にブチ切れされたインターフォン。その後何度も鳴らしても応答がない。
「太郎〜お前はそんな子じゃないはずじゃ。せっかく訪ねてきてやった儂を追い返すなど、そんな不義理をするような子じゃないはずじゃ〜」
原因を作ったであろう亀吉はケースの中でメソメソしている。
ん?亀って泣くの?涙出るの?ちょっと顔を見てみたくなったけどこれまた我慢する。
「しばらくここで待って居れば出てくるのではないか?」
「その前に通報されそう。」
若者二人と小さな子。どんな関係か人目目を引きそう。おまけに観察ケースなんて持っているし、不審者じゃないとは言い切れない。
「住民と一緒に入るとか。」
「それしちゃいけないやつ。」
下手するとトラウマになりかねない行動だよ。
ぶんちゃんも考え込む。
「…其奴に壁を登らせて窓から入らせるとか。」
「それ、良いかも。」
亀だもんね!四つ足だしイケるかも。
「壁に張り付いていけば良いんだもんね。」
「吸盤がついているわけではないぞ。もっと真面目に考えんか。」
ごんが呆れたように言う。
「真面目に考えているよ。でもさ、打つ手なしじゃん。」
ごんはちょっと考え込むと、オートロックのパネルに手を伸ばした。でも、自分の身長では届かないことに気づくと、嫌そうな顔をしながらわたしの前で手を広げた。
「抱き上げよ。」
「抱っこ?疲れた?」
わたしはごんを抱き上げて顔を覗きこんだ。
人化は力を使うって言っていたから、色々と無理をしているのかもしれない。カメ吉の心配する気持ちもまあ、分からなくもないけど、生きていることは分かったんだから今日は帰ろうか、等考えていた。
おでこをくっつけて熱を測ろうとしたら顔を背けられた。
ごんはオートロックの画面に手を伸ばした。
すると、軽い電子音が鳴り、扉が開いた。
ごんは息を吐くとわたしの腕の中から飛び降りた。
え?ロック解除した?天岩戸みたいに開かなかった扉を?
「…ピッキング?」
わたしの言葉にごんは怪訝な顔をした。
「神の御業じゃ。」
「ハッキング?」
「神のご意思じゃ。」
ごんは自分の服装を確認して、抱き上げられたときに偏ってしまった服装を直していた。
「クラッキング?」
殆どない知識の中からインターネットの犯罪の用語を絞り出すわたしを無視して、ごんは開いた扉に足を進めこちらを振り返った。
「通らんのか?時間が経つとまた閉まってしまうのではないか?」
せっかく開いたものを!わたしも慌てて扉へ進んだ。
「でも、どうやって開けたの?」
「だから神の御業じゃと言うておるのに。」
納得がいかず、エレベーターの中でごんを詰めてしまう。
「だって、セキュリティとかかなりしっかりしているはずだよ。」
ハッキングとかクラッキングとかさっき言ってはみたものの、それなりの道具とか知識とか技術がないとできないものじゃないの?
「ねえ、ぶんちゃんはどうやったか」
『知っている?』と続けようと背後のぶんちゃんを振り返ったのだが、口元に手をあてて何かをブツブツ呟いている。
エレベーター、乗ったことあったよね?ひょっとして酔った?
心配になって何を呟いているのか耳をすませた。
「兄上…抱っこなど…ずるい…わたくしが…お手も小さく…」
ああ、うん。放おっておこう。
そうこう言いながらエレベーターは最上階についた。
部屋をカメ吉に確認をしてインターホンを鳴らすが反応はない。でも、部屋に誰かがいるような気配はする。
インターホンのカメラではなくて、なんか直接見られているような感じがする。
ぶんちゃんがドアノブに手を伸ばし、開けようとするが当然のように鍵がかかっている。
「ごん、さっきみたいに開けられる?」
ここまで来たからには、折角だから会っていきたい。
このドアもおそらくオートロックだろうから、ごんの力で開けられるだろうし。あ、でもチェーンが掛かっていたら詰だけど。
「その必要はない。」
ごんは扉の前に立ち、口を開いた。
「そこに居るのじゃろう。稲荷神の使いで参った。あけよ。」
しばらくの沈黙の後、すごい勢いで扉が開け放たれた。
「は?何で稲荷様の使いがこんなトコにいんの!?」
開けたドアの先には高校生くらいの男の子がいた。
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