生きて居ったか!
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「うっわ~良いところ住んでいるな。」
わたしは目の前の30階建てのマンションを見上げた。
程よく栄えている街の、わりと駅チカの場所。便利そう。
しかも、これってタワマンってやつだよね。築年数も浅そうだし、家賃っていくらなんだろう。
見上げていると、横から小さな手がわたしの手を引っ張った。
「口が開けっ放しじゃ。閉じろ。みっともない。」
かわいい顔を顰めている5歳くらいの男の子だ。しかめっ面も可愛くてつい微笑んでしまう。
「何じゃ、その顔は。」
男の子はわたしの笑顔を見て気を悪くしたようで、ホッペタを膨らませて怒ってる。
そんな姿も可愛くて頬をツンツンしたくなる。
我慢ができなくなって手を伸ばそうとすると手をはねのけられた。
「ひどいな〜痛いじゃない、ごん。」
男の子は顔をフンと背けた。
そう、この男の子はごんが人の姿をとったものだ。
なんでわざわざ人化をしたのか。もちろん、理由はある。
それはこのマンションが犬猫は禁止だから。
飼うことは禁止だけど、短時間連れ込むことはぎりいける?と思いもしたけど、多分アウトだし、下手なトラブルは起こしたくないので人の姿を取ってもらった。
ごんとしては大人の姿を取りたかったようだけど、それにはかなりの力を使うらしく子供の姿となり、本人はかなり不本意らしくて、ずっと不機嫌顔だ。
「建物も高いけど、お値段もそれなりにしそうだよね。」
「そんなもの微々たるものじゃ。」
飼育ケースの中からどや声が聞こえた。ああ、そういえば居たんだ。
「竜宮ってお金あるの?」
「まあ、海は色々なものが流れ着くからな。」
ああ、船が沈んだり?トレジャーハンターがいるくらいだもんね。
亀ーカメ吉はフンと鼻を鳴らした。
「金のないどこぞの宮と一緒にされては困る。」
「おっと、手が滑った。」
その言葉に飼育ケースを持っていたぶんちゃんがわざとらしい言葉を呟くと同時に、ケースを花壇の上に落とした。
「何をするんじゃ!扱いに気をつけんか!」
「いえ、手が滑ってしまったという過失ですし。」
ぶんちゃんは落としてしまった飼育ケースをゆっくりと拾い上げた。そして、ギャンギャン騒いでいるカメ吉に目線を合わせた。
「無礼な態度発言は心置きなく絞めてよい、と許しを得てます。」
静かな笑顔がめちゃ怖い。イケメンの氷の微笑って本当に怖い。
「ぶんちゃん、それやり過ぎじゃない?」
動物虐待になるよ、恐る恐る意見をすると
「アスファルトの上ではなかったことを感謝してほしいくらいですね。」
これまた冷たーい笑顔をカメ吉に向けている。
あーくわばらくわばら。
あの日、カメ吉に依頼されたのは、龍宮にも養い子というか預かり人みたいなのがいたんだって。その子も数年前こちらの世界に戻ってきたとか。
こちらに戻って暫くは連絡が取れていたんだけど、ここしばらく音沙汰もない。姿も見ない。これはどうなっている!?となったらしい。
で、ごんとぶんちゃんで様子を見に行く話になっていたのだけど、二人共、こちらの世界の常識とか怪しいところがあるからと、お姉さんに頼まれてわたしも同行することになった。
「でも、ぶんちゃんが免許持っていたとは知らなかった!」
未だにカメ吉に氷の微笑を向けているぶんちゃんに必死で話題を変えるようと話しかける。
「ぶんは上司の秘書的なこともしているからな。こちらに戻ってすぐに取得したのじゃ。」
秘書ーぶんちゃん、仕事していたのか。
ちなみに、わたしも運転免許は持っているので、道中の運転をかってでたのだが、ごんに激しく拒否られた。
わたしの運転は元気が良すぎるって。どういう意味だろう。
「ここは寒い。早く行こう。」
確かに、マンションの下はビル風のせいか風が強くて寒い。
わたしたちはエントランスに入り、部屋のインターホンを押した。
『…はい』
しばらく間が有ったけど、男性の声で返答が有った。
「太郎ー!生きて居ったか!無事じゃったか!!」
『……』
観察ケースのカメ吉が騒ぎ出す。
インターホンはブツリと切られた。
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